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★(1)痴呆症の母親と同居の場合 

  井上フメさん(82歳)は、群馬県に住んでいた。
 4年前に夫を亡くしてから、痴呆症状が出始め、昨年、金融関係に勤める東京の長男(55歳)と同居を始めた。
介護は長男の妻の和子さん(54歳)が、つきっきりで行っている。

  フメさんは、火の不始末を忘れてボヤになりかかったり、「財布を盗まれた」という妄想に駆られることも増えた。
 専門病院で診断を受けたところ、脳血管性の痴呆と診断された。
 同時に、足の関節が縮み、歩行も困難で、今では移動や入浴、服を着替えるのにも介助を必要とする。
 和子さんも、一日中、介護に縛られ、疲れ果てている。

今は、週二回デイサービスを利用している。

 デイサービス(日帰り介護)とは、最寄りのデイサービスセンターなどに通所して、お年寄りが半日、入浴やリハビリ、レクリエーションなどを楽しむサービスのことだ。センターへの送迎もしてくれる。

   そんなフメさんが、このたび介護保険に申請した。

▼介護保険が始まるとどうなるか 
              〜まずは市町村への申請から 〜

 介護保険の申請と言っても、お年寄り本人は身体が弱っているのでできないことが多い。
 かわりに介護者である 和子さんが10月5日に市町村の窓口に介護保険の申請を行った。(介護保険の利用申請は、すでに10月1日から始まっている。)
 ただ、市町村の窓口にわざわざ行かなくとも、病院や福祉施設も、都道府県から居宅介護支援事業者の認可を受けているところは、申請を受け付けている。

 申請すると、その1週間後に、訪問調査員が井上さん宅へやってきた。
 これが訪問調査だ。訪問調査では家族と本人に対して、約1時間かけて、85の質問がなされる。
 訪問調査員は市町村の職員や介護の専門家であるケアマネージャー(介護支援専門員)だ。

  訪問調査員は、調査項目ごとに質問を行い、マークシート方式で書類に記入した。「自力でトイレに行けますか」「自力で食事をできますか」「自分の名前を答えられますか」などの質問だ。

  ▼コンピューター判定+かかりつけ医意見書+介護認定審査会で、支給限度額を決定

 この調査結果をコンピューターで分析し、1次判定が出される。
 1次判定は要介護の状態によって6つのランクにわけられる。
 この1次判定と、主治医(かかりつけ)の医師が作成した意見書をもとに、「介護認定審査会」で最終的に支給限度額が決定される。
 審査会は福祉と医療の専門家たちで構成されている。
 申請から30日以内に要介護認定の結果が本人に通知される。

 フメさんは「入浴、排泄、着替えのいずれも介助が必要」とみなされ、「要介護度2、つまり、支給限度額が月額20万1000円」と判定された。
 月20万1000円以下の介護サービスなら、その9割が保険から給付され、その1割を自己負担することになる。

 このように介護保険では必要なサービスが、金額に換算して判定される。
 そのうち、利用者負担は1割なので、フメさんは月2万100円の自己負担が必要となる。

   では、月額20万1000円でどのようなサービスが受けられるのか? 

▼限度額内で、サービスを自分で選択
〜介護サービス計画をたてる 〜

 介護者の和子さんは、同じ話しをくり返すフメさんにほとほと困り果てている。
 さらに、昼夜を問わないポータブルトイレへの誘導で、和子さんは肩を痛めている。
 また、フメさんは骨粗鬆症なので、日光浴をかねて、外出したほうが良い。
 そんなフメさんには、ケアマネージャーさんから、週3回デイサービスを組み入れ、さらに週3回のホームヘルプサービスと週1回の訪問看護を利用するプランが提案された。

 ホームヘルプ(訪問介護)は、ホームヘルパーが家庭を訪問し、家事や介護を手伝うサービスで、訪問看護は、病院から看護婦が訪問してくれる。

 このような介護プランの作成は、ケアマネージャー(介護支援専門員)という介護の専門家が原案を作成し、家族と本人の意見を聞き、決定する。

*保険料と自己負担を合わせて一家で月2万4100円

 では、井上さん宅の自己負担は、どう変化するのだろうか。
 フメさんは、国民年金を月6万5000円年78万円受け取っている。
 長男の扶養家族になっている。
 今までは、週2回のデイサービスで、1回1100円だから、月8回で8800円の負担だった。

  それが介護保険になると、まず、介護保険料については、前述のように、長男の孝夫さんが、今までの健康保険の保険料に上乗せと言う形で約1000円アップ。
 専業主婦である和子さんは介護保険料は無料。
 フメさんは、国民年金を月6万5000円・住民税の課税無し、長男(住民税課税)の扶養家族なので、保険料は基準額の月3000円。→前のページの表参照。
 さらに、サービス利用に対する自己負担は1割負担で2万100円。
 合計2万4100円。

  差引すると、井上家としては、月1万5300円の自己負担アップです。
 そのかわり、今までの週二回のデイサービスだけでなく、デイサービスは週3回で、残りの日にも毎日ホームヘルプや訪問看護を受ける。

 長男の孝夫さんは、「高くつくのは痛いが、妻も介護で心身ともに疲れきってこのままでは、在宅で介護するのも限界と感じているので、ホームヘルプも利用したい」と言う。

 実際、この認定は、サービス利用の上限の限度額が提示されるのだから、「2万100円も自己負担は高い」と考えるなら、10万円分だけサービスを利用して、自己負担も1万円しか払わないという選択も可能だ。

訪問調査では、痴呆は判定しにくい

 訪問調査の問題点は、調査員による1回、1時間程度の訪問で、正確な判定ができるかという点だ。
 痴呆(ちほう)症のお年寄りの場合は、日によって症状が著しく異なる。
 たまたま体調がよいときに、調査員が訪問したならば、介護ニーズは実際より低く判定されてしまう。

 実際、フメさんのケースも、訪問調査員から、「食事は食べられますか?」と聞かれて、本当は一人では食べられないのに、「食べられます」と答えたり、ここ1年ほど自分の生年月日が言えなかったのに、役所の訪問調査員には、しっかり答えた。

  これには、長男の妻の和子さんも驚いた。
 しかし、フメさんとしては、プライドもあるから、他人から「できますか?」と聞かれれば、「できますよ」と答えてしまう。
 さらに、痴呆という病気は、家族の前では症状が重く出て、初対面の人の前では、元気に振る舞うという傾向がある。

 だから、訪問調査には家族がしっかり立ち会い、あとで別室で調査員に、「実は、ふだんは食事は私がついて食べさせてるんです」などと説明する必要がある。
 ここをしっかり伝えないと、訪問調査の時にしゃきっとしていたからと言って、介護度が低く認定される危険性がある。

 家族は、介護日記をつけ、調査員に見せれば効果的だ。
 「◯月◯日、朝ごはんを食べたばかりなのに”ごはんはまだなの?”と言い出した」
 「◯月◯日、同じことを繰り返ししゃべっている」
 「◯月◯日、ひどい物忘れが今週3回ありました」などの日常の生活について具体的にメモをとっておき、訪問調査員に見せるとよい。
 調査用紙には特記事項を書く欄がある。
 特記事項は審査会で有効に働くので、調査員に日頃の生活状況を具体的につたえることが家族の任務だ。


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