★(2)痴呆の母親を引き取ったが、老人ホームを利用したい場合 |
田中洋子さん(50歳)は、京都府に在住。3年間、義理の母の介護をしていた。
洋子さんの義母タネさんは奈良県で1人暮らしをしていた。
近所の方から、「タネさんの様子がおかしいよ」と連絡があったのが3年前。
外出したきり、自分の家が分からず警察に保護されたりもした。
洋子さんがお見舞いにいっても、同じ話」の繰り返しばかり。
そこで、長男の健一さん(52歳)は思いきって実母を引き取り、同居することにしました。
妻の洋子さんは了解したが、18歳と16歳の2人の娘は何かと繊細な年頃で、「おばあちゃんがいると息苦しい。 このままおばあちゃんが家にいるのなら、私たちが家を出る」とまで言い出した。
タネさんは夜、暗くなると不安になり、ごそごそ動き回る。
1日中片時も目が離せない。洋子さんは睡眠不足と過労が重なって、とうとうノイローゼになってしまった。
現在、タネさんは1年半待ち、特別養護老人ホーム(以下、老人ホーム)に入所している。
▼老人ホームを利用したい時も、まずは市町村に申請、そして要介護認定 |
老人ホームを利用したい時も、同じように介護保険に申請する。
井上さんのケースと同じように要介護認定が行われ、判定がでる。
タネさんの場合も洋子さんが申請し、6段階ある内の5番目。
つまり、「要介護度4、最重度の介護が必要」と判定された。
判定がでてから、在宅サービスを利用するか、老人ホームなどの施設サービスを利用するかを選択する。
ただし「要支援」と判定された場合は、施設の利用はできない。
「要支援」では、在宅サービスしか利用できず、「要介護1」以上に判定されて、はじめて老人ホームなどの施設が利用できる。
痴呆などにより、本人が在宅か施設かを選ぶことがむずかしい時は、家族が判断することになる。タネさんの場合は、そのまま老人ホームで生活することを希望した。
介護保険の対象施設は3種類だ。
これ以外に、どの施設にも日常生活費(2〜4万円)が別途必要で、さらに、要介護度が高い人ほど、手がかかるので、自己負担も若干高くなる。
▼老人ホームを選択して母と笑顔の回復を |
タネさんが老人ホームで新たな生活を始めてから、洋子さんは毎日のようにお見舞いに通っている。
時折、娘たちも同行してくれるようになり、タネさんも嬉しそうだ。
24時間つきっきりで介護に追われていたときには、義母に対して憎しみさえ感じ、怒りを爆発させたこともあった。
しかし今では「お互いが離れる時間を持つことによって、かえって母と笑顔で接することが出来るようになりました」と話す洋子さん。
介護で思いつめて、娘と母親との板ばさみや睡眠不足のストレスで、髪を振り乱し、今にも倒れそうであった頃から比べると、洋子さんの表情も穏やかになってきた。
▼介護保険で老人施設はどう変わるか |
自己負担はどう変わるか |
厚生年金受給者にとっては安くなるが、低所得者は負担増 |
今までは老人ホームの自己負担は、平均月4万5000円円程度だった。
現在の措置制度のもとでは、所得によって老人ホームの自己負担が異なる。
低所得の場合はほぼ無料で入所している人もあれば、厚生年金受給者などは最高月25万円の自己負担を支払っている。
介護保険が導入されると、老人ホームの自己負担は、低所得者にとっては高くなり、厚生年金受給者にとっては安くなる。
田中タネさんの場合は、本人は国民年金が月4万円。
しかし、長男の健一さんの扶養家族であったため月18万円の負担だった。
介護保険では、まず介護保険料が、健一さんの健康保険料に上乗せの形で約1000円、洋子さんはパートで働いているが、扶養家族の扱いになっているので、介護保険料負担はナシ。
タネさんは住んでいる自治体の基準額の2700円(後で説明するように65歳以上の保険料は市町村によって違う)。
さらに、老人ホームの自己負担が67000円。合計すると、7万700円で、今までよりも10万9300円も安くなる。
しかし、逆に、今まで安く入居していたお年寄りにとっては、無料から月67000円に増えるのは大きな負担増だ。
老人ホームに入居している低所得者にとっては負担アップが急すぎるので、政府も経過措置として、今まで通りの自己負担で居続けられる措置を検討している。
2 入りたい施設を選べる →サービス競争の時代へ |
現在ではどの老人ホームに入居するかは、行政が決定するが、介護保険では、利用者が施設を選ぶことになる。
「食事がおいしい」「部屋がきれい」「家から近い」などの理由で選ぶことができる。
施設にとっては競争の時代だ。
よい意味でサービス競争が行われ、サービス向上を期待したいものだ。
元気なうちにボランティアなどを通じて、施設の生活を見学しておくのもよい。
しかし人気の高い施設では順番待ちが長くなる。
そのため、当面は、利用者が施設を選ぶのではなく、施設が入居者を選ぶ時代になるかもしれない。
病院と同じように、他府県の他都市の老人ホームも利用することが可能になる。
ただし、満員の場合は、地元の住民を優先的に入居させることも考えられる。
また、サービスを選べるのは、老人ホームに限らない。
ホームヘルプ事業も、シルバービジネスや社会福祉協議会、病院、老人ホームなどが、競って行おうとしている。
ケアマネージャーと介護サービス計画(ケアプラン)を相談するときには、在宅サービスにおいても、どこのサービスを利用したいかも選ぶことができる。
3 「自立」「要支援」と判定されれば5年以内の退去 |
現在、老人ホームに入所しているお年寄りは、「老人ホームは終の住処」と思っている人がほとんどだ。
しかし今後は、要介護認定で「自立」あるいは「要支援」と認定されれば、老人ホームから退所を迫られる。
このようなお年寄りが6〜7%。つまり、50人の老人ホームで3〜4人は、5年以内に退去せねばならない。
5年以内に身体が弱って、要介護1より重く認定されれば、住みつづけることができるが、そうでなければ、高齢者用の共同住宅などに移ってもらう必要がある。
そもそも家に居れないから老人ホームに居るのだから、「家に帰れ」ということは不可能なので、緊急に受け皿となる高齢者住宅の整備が必要だ。