★(3)介護疲れで共倒れ寸前の老夫婦の場合 |
では、三つ目のケースとして、最も重度のケースを紹介する。
久雄さん(88歳)は、妻の茂子さんと(81歳)と2人暮らし。
孝雄さんは1年前に脳こうそくで倒れた。3か月の入院後も重い後遺症が残り、左半身麻痺で寝たきり。寝返り、歩行、排せつ、服の着替えに全面的な介助が必要だ。
さらに、入院中に痴呆も進行し、介護への抵抗も見られる。
白内障も患っており、視力はほとんどない。早朝から深夜に及ぶおむつ交換をはじめ、毎日毎夜の介護で今度は妻の茂子さんが寝込んでしまった。
次男の明さん(58歳)も同じ大阪に住んでいるが、両親を一度に引き取って介護することもできず、困ってしまった。
住宅事情からも二人を引き取ることは不可能だし、また、茂子さんも「気を使う」という理由で、長男夫婦との同居には反対だ。
実際、お年寄りの場合、引っ越しによる環境の変化が原因で、痴呆症が悪化することも多く(「呼び寄せ痴呆」と呼ばれる)、「呼び寄せ同居」も考えものだ。
本来なら、老人ホームの入居を考えるケースだが、かねてから久雄さんは「老人ホームには行きたくない」と言っており、今は1日3回ホームヘルパーさんが来ている。
こんな場合、介護保険が導入されるとどうなるのか。
茂子さんが介護保険に申請した。
先日、認定結果が通知され、久雄さんの場合は、6段階あるうちの6番目に一番重い)、つまり「苛酷な介護が必要なケース」と判定され、月36万8000円程度までのサービスが受けられることになった。
ここで、在宅サービスを利用するか、老人ホームなどの施設サービスを利用するかを選択できるが、茂子さんは痛む腰をさすりながらも「できれば家で夫を介護したい」と言う。
◎ 「巡回型ホームヘルプ」 |
最高である6段階目(要介護度5)での在宅サービスとしては、次のようなサービスが受けられる。毎日、朝昼晩と3回のホームヘルプサービス、さらに、週3回の訪問看護。
朝晩のホームヘルプははおむつ交換のために30分単位で通ってくれる。
このようなホームヘルプは巡回型ホームヘルプと呼ばれ、これこそが介護保険の目玉サービスで、今まで巡回型ホームヘルプを実施している自治体では、
「介護による共倒れが防げた」
「入院せずに在宅で暮らし続けることができた」
「ねたきりが予防できた」という効果が上がっている。
なお、かかる費用だが、夫の久雄さんは、老年福祉年金が月3万円、妻の茂子さんは国民年金が月65000円。
そのため、今までは一日3回のホームヘルプも無料だった。
しかし、介護保険が導入されると、まず保険料は、久雄さんは老齢福祉年金なので、基準額3000円の半額1500円、茂子さんは75%の2250円。
明さんの介護保険料は、健康保険の保険料に上乗せする形で約1000円、明さんの妻は扶養家族で無料。
保険料は合計約4750円。
さらに、36万8000円のサービス利用の1割負担が3万6800円だが、住民税非課税所帯なので、2万5000円に軽減される。
つまり、保険料と合わせて約3万円負担が増える。
◎問題点 地域格差 |
しかし、ここで大きな問題がある。
市町村による福祉の格差だ。
久雄さん夫妻が巡回型ホームヘルプが整備された自治体に住んでいるので、問題はない。
しかし、日本の中でも、ホームヘルプは1日に1回しか来てくれない地域も多い。そうなれば、同じ保険料を払っても、久雄さんのようなサービスを受けることができず、共倒れになるか、老人ホームか病院に入らざるを得なくなる。
こうなれば「老後の沙汰も金次第」ではなく、
「老後の沙汰は住んでいる自治体のサービス次第」となってしまう。