やまのい和則のホームページ 福祉


介護保険のここが問題 13

介護保険とシルバービジネス
五兆円市場に企業が期待

 今まで福祉とビジネスは、水と油のように相入れないものと思われていました。しかし、介護保険を機に、日本でもシルバービジネスが介護サービスの大きな一部分を担おうとしています。

 たとえば、介護保険においてホームヘルプは、先ほど説明したように、一時間いくらという保険給付、すなわち介護報酬が設定されます。
その価格で良質なサービスを提供できるのであれば、市町村直営や社会福祉法人のみならず、医療法人やシルバービジネス、JA(農協)や非営利団体も、指定居宅事業者に指定されれば、介護保険のサービスのホームヘルプ事業をスタートさせることができます。

 今までの行政サービスと違って、企業は多少なりとも利益をあげねばなりませんので、苦しい部分はあります。
しかし一方では、コストダウンや効率的なサービス提供、利用者第一主義という点では、企業の方が得意な面もあるかもしれません。

 この深刻な不況のもと、介護サービスを提供して、その九割のお金が保険から出るわけです。
介護サービスは圧倒的に不足し、これからも数十年、介護を必要とするお年寄りは増える一方です。
ですから、ボロ儲けではなくとも、適正な利潤をあげることができるならということで、多くの企業が介護保険市場に注目しています。

 ホームヘルパー派遣、訪問入浴、福祉用具貸与などに多くのビジネスが参入しています。
たとえば、ホームヘルプ事業では、セコム、ニチイ学館、コムスン、ベネッセコーポレーションなどが全国展開しています。
また、JR日本の子会社である二社は、介護サービス計画(ケアプラン)の作成の事業に参入、大手家電メーカーでも松下電工が有料老人ホームをスタートさせ、三洋電機は在宅ケア支援システムを開発しています。

 ただし、介護保険から給付を受けるためには、都道府県から指定事業者に指定を受けなければなりません。
 その説明会が1999年の5月頃から各地で開かれ、不況の中、新規事業を展開したいと意欲を持った企業関係者が多く集まっています。
 一番の関心は介護報酬の額です。
 たとえば、ホームヘルパーの派遣の場合、1時間当たりの介護報酬が高ければ採算がとれると判断し、多くのビジネスが参入するでしょう。

 また、いったん参入したならば、同じ地域内に多くの利用者を確保した方が効率的です。
 特にホームヘルプの場合など、一定の地域に顧客(利用者)が多いほど、効率的に介護サービスが提供でき、採算が成り立ちやすくなります。
 利用者の獲得競争、今まで、公的なホームヘルプサービスを利用していたお年寄りを医療法人とシルバービジネスが取り合うという構図にもなるかもしれません。

 さらにシルバービジネスは営業に力をいれ、地域を戸別訪問を行い、
 「介護に困っておられませんか?」
 「介護保険に申請されてはいかがですか?」とご用聞きをして、利用者を獲得する可能性もあります。
 こうなれば、今まで待ちの姿勢だった行政や社会福祉法人が利用者を奪われるかもわかりません。

 「介護サービスは金儲け目当てにすべきではない」という意見もあるでしょう。しかし、より安く、よりよいサービスを提供する事業者が生き残る時代になりそうです。
 逆に言えば、介護保険によって利用者はどこの事業者からサービスをうけるかを選べるわけで、サービスの質の向上も期待できます。

 ただし、問題点もあります。
 在宅サービスなどは特に密室で行なわれますので、サービスの質のチェックがしっかりできません。
 手を抜いて利益をあげようとするシルバービジネスが出てくれば大問題です。介護サービスは労働集約サービスですので、人件費やスタッフの数を減らすしか、コストダウンの方法はありません。
 となると、十分な訓練や教育を受けていないホームヘルパーをたくさん雇えば、儲かる仕組みです。
 下手に過当競争になり、たたでさえ悪いホームヘルパーの待遇や賃金や労働条件が介護保険を機に低くなるなんてことがないようにせねばなりません。
 この点は、シルバービジネスに限らず、すべてのサービス事業提供者に言えることです。

 このような問題については、利用者がしっかりと質のチェックに目を光らせねばなりませんし、不正や劣悪なサービスがあれば、都道府県は指定業者の指定を取り消すべきです。


次へ 戻る 目次へ タイトルに戻る