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介護保険のここが問題 12 

介護保険は景気の足を引っ張らないか?
介護サービスは建設業より経済効果も大きい

 介護サービスを充実させることは、国民に安心感を与え、未来に向けた消費に結びつきます。だから、介護保険は根本的な景気対策であるとも言えます。

 まず第一に、景気回復のためには、内需を拡大することが必要ですが、従来型の大きな建物を建てる公共事業よりも、介護サービスを増やす公共事業の方が、経済波及効果や雇用効果が大きいという研究結果が出ています。

 この点については、岡本祐三先生(神戸看護大学教授)が、著書「福祉は投資である」(日本評論社)で、かねてから主張されています。
 池田省三先生(龍谷大学助教授)も指摘されていることです。

 福祉と言えば、経済の足を引っ張ると思われがちでした。
 しかし、介護サービスの充実が地域経済を活性化させる効果は、従来型の公共事業よりも高いのです。

 茨城県福祉部がまとめた「高齢者福祉の充実がもたらす経済効果に関する調査研究」では、1996年から1999年の4年間、老人福祉計画(老人ホームの建設やホームヘルプなどの在宅サービスの充実)に1228億円を投資した場合、経済波及効果は1862億円、雇用誘発は1万2270人と試算しています。

 一方、同じ額を従来型の公共事業に投資した場合は、経済波及効果は1827億円、雇用誘発効果は8280人にとどまり、介護サービスの充実のほうが従来型の公共事業よりも経済波及効果がやや高く、雇用効果は約1.5倍と、地域経済を活性化させる効果は大きいことを示しています。

 この理由は、介護サービスの充実に対する投資は地域内で発生しやすい上に、関連サービス産業への影響が大きく、ホームヘルパーなどの雇用創出が大きいからと分析されています。

 さらに、「介護型公共事業」は、3300市町村の地域に密着した事業であるため、一部のゼネコンでなく、地域の中小企業に対する経済効果が大きい。

 このように介護サービスの充実は、景気刺激策としても効果があり、安心の基盤づくりになります。「福祉は弱者対策であり、経済のお荷物である」という従来の認識は改めなければなりません。

 景気対策のための「新しい経済政策」として、介護サービスの充実に力を入れ、景気対策と老後の不安解消が両立できれば一石二鳥です。

 第二に、負担が増えるからと、介護保険を「延期」あるいは「中止」したらどうなるでしょうか。ますます老後の不安が深刻化し、高齢者の貯蓄率が上昇します。

 日本人の平均貯蓄率は13%で、欧米の五%に比べて非常に高く、世界最高です。これはお金を持っている高齢者の貯蓄率が高いからで、その理由は、病気になったり寝たきりや痴呆になったりしたときに、いくらかかるか判らないという老後の不安です。その意味では、介護保険が導入されて、少しでも介護の不安がやわらげば、高齢者の財布のヒモもゆるくなり、消費が活発化します。 

 介護保険によって介護不安を軽くしないと、逆に、景気の足を引っ張るということになります。そして、いま、介護保険を延期すれば、雇用不安は高まり、シルバービジネスも 介護への進出を控え、介護保険に備えて新規雇用を計画しているところも取りやめになります。まさに景気を冷えさせる結果になります。

 無責任に「介護保険の延期」を言うよりも、これを機に、日本の公共事業のあり方を考え直し、整備新幹線や干拓、ダムなど大型建設プロジェクト重視から、「介護型公共事業」重視に転換することが必要ではないでしょうか。

 ゴールドプラン、新ゴールドプランに続き、2000年からの介護サービス基盤の整備のために、「スーパーゴールドプラン」が今こそ必要です。そのためには、「介護サービス基盤緊急整備法」(スーパーゴールドプラン法・仮称)というようなものをつくって、建設に偏っている公共事業を一割でも介護基盤整備の公共事業に切り替えることが必要です。

 公共事業は年間、約10兆円といわれますが、その一割を介護基盤の整備にまわし、高齢者住宅の整備、グループホームの普及、介護保険施設の増設と個室化などを行なえば、安心して年をとれる社会をつくることができます。


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