やまのい和則の 「軽老の国」から「敬老の国」へ 第117号(2001/03/28) メールマガジンの読者の皆さん、こんにちは。 いま、私は「身体拘束ゼロシンポジウム」(赤坂プリンスホテル) に来ています。今日(27日)は、1時から3時まで衆議院の本会議。 森首相のアメリカとロシア訪問の報告を聞く。 そのあと、赤坂プリンスホテルに駆けつけた。このシンポの主催は、 老人保健施設協会。 1時からのシンポだが、3時過ぎに遅れて参加。 老人保健施設協会が、このようなシンポをするのは素晴らしいこ とだ。私が国会の慌しい日程の合間をぬって、このシンポに来るの には理由がある。今までもメールマガジンで触れたかもしれないが、 私が、老人福祉問題から足を抜けなくなった理由が、この身体拘束 問題だからだ。 10年前から私は老人病院や精神病院などで実習させてもらいな がら調査をしていたが、最もショックだったのは、柵のついたベッ ドの中でヒモに縛られた痴呆症のお年よりの姿であった。 人間が柵の中で縛られている。苦しみもがいている姿。 本来なら、手をつなげば散歩に行ける、トイレに行けるはずのお年 寄りが・・・・。 「兄ちゃん、このヒモほどいてください」 「兄ちゃん、トイレつれていってください」とヒモで縛られたお年 寄りから手を握られて、私は嘆願された。 実習生の私はどうすることもできなかった。 前日まで、自宅に居て、その日、入院して即、縛られたおじいさん は、なぜ、自分が縛られているかもわからず、 「トイレ連れて行ってください・・・」と必死の顔で私の目を見つ め、柵の中でもがき苦しんでいた。 柵を乗り越えてトイレに行こうとするのだが、ヒモで縛られている ために乗り越えられないのだ。 私は、そのおじいさんの手を握りしめ、 「ごめんなさい。僕にはほどけないんです。ごめんなさい。申し訳 ありません」と頭を下げた。 そのおじいさんは、見る見るやつれ、1ヵ月後に亡くなった。 縛られていなかったら、もっと長生きできたと思う。 このような痴呆病棟での実習を重ねる中で私は、 「人間がこんなに軽く扱われ、泣きながら死んでいっていいものか」 と悩み苦しんだ。 「痴呆症のお年寄りが縛られない社会をつくりたい!」。 地味なマイナーな夢かもしれない、しかし、私はこのような夢を持 って、福祉の運動を続けた。 つまり、身体拘束されたお年寄りの姿、悲しそうな顔は、私の人生 を方向づけたのだ。一言で言えば、「人間が人間として扱われない」。 それが身体拘束の恐ろしさだ。 そして、身体拘束をなくすために政治活動をはじめ、議員に当選し て初めての昨年8月4日の津島厚生大臣への質問で、身体拘束ゼロ 作戦の早急の実施とグループホームの推進を訴えた。 だから、1500人が詰めかけた熱気むんむんのこのシンポに来る と、私は万感胸に迫るものがあるのです。 このメールマガジンの最後に身体拘束の定義や廃止方法を、この シンポのパンフからの抜粋で載せさせて頂く。さらに、より詳しい 資料は、私のホームページに載せます。しかし、少し説明したい。 身体拘束とは、ベッドや椅子にヒモやベルトで縛る。痴呆症で動 き回るからという理由で部屋に閉じ込める、薬で寝かすなどである。 「安全のため、やむを得ない」という理由で、日常的に行われて いるケースもあるが、大きな問題が3つある。 まず、身体的問題。 縛ると身体がますます固まり、本当に動けなくなり、寝たきりにな ってしまう。 次に、精神的問題。 お年寄りを落ち込ませ、生きる意欲を奪い、痴呆症をますます悪化 させる。 最後に、社会的問題。 現場スタッフの士気を低下させ、介護施設への社会的不信を招く。 難しい理由でなく、ひとことで言えば、お年寄り本人が悲しみ、 苦しみ、早く死ぬ。 つまり、死期を早めるという意味で殺人的行為とも言える。 しかし、今日のパネラーの厚生労働省の山崎史郎課長も言うには、 「身体拘束ゼロ作戦には、現場からの批判が強かった。できもしな いことを計画して欲しくない。下手にヒモやベルトをはずして、お 年寄りが立ち上がったり、歩き回って転倒して骨折したらどうする のかという批判だった」とのこと。 パネラーの吉岡充医師(上川病院理事長)は、 「上川病院の経験では、縛らないには入居者2にスタッフ1以上の 人手が必要」という。 また、「過去の調査から85%の拘束は努力ですぐになくせること がわかっている。問題はあと15%の何らかの理由のある拘束をど うなくするか。ここがスタッフの腕の見せ所」とのこと。 まず、「拘束をなくす」と現場が決意することが第一歩だという。 上川病院には私も昨年現場を視察したが、吉岡医師は、「病院内 にグループホームをつくり、日中だけその10人規模のグループホ ームで生活リハビリをすることが有効だ」と発言された。 パネラーの笹森貞子さん(呆け老人をかかえる家族の会)は、「む かし、自らの母が痴呆症で入院していた病院でオムツをはずすから という理由で、ベッドの柵に縛られていた」と涙ながらで話した。 コーディネーターの山口昇医師は、「拘束せずに動いて万一骨折 した場合でも、家族に納得してもらえるように家族への最初の説明 と納得が何よりも大切」と発言された。 この問題については、「縛らない看護」(吉岡充、田中とも江編、 医学書院、1999年)が最も良い入門書だ。 また、厚生労働省は「身体拘束ゼロへの手引き」を発行している 私は、国会でこの問題については、次のように取り上げている。 「身体拘束はやってはならない」という啓発のポスターを日本中の 介護保険施設の廊下に貼り出し、家族や現場スタッフが「身体拘束 をゼロにする」という意識を高めあう必要がある。 昨年の8月と11月に国会の厚生委員会で、このポスター作戦を 「お金も少額でできるよい方法」として私は津島厚生大臣に要望し たが、「急にそんなポスターを貼ると現場が混乱する」と拒否され た。 私は引き続き国会で訴えていきたい。さらに、この身体拘束ゼロ 作戦の進捗状況をチェックするように求めたい。 「5年経ったけど、減りませんでした」ではダメだからだ。 シンポを山口医師は、 「このシンポをスタートとして、身体拘束ゼロ運動のうねりを全国 に起こそう」と力強く訴え、締めくくられた。 この身体拘束問題の1つのポイントは、「人手は増やさなくて、 身体拘束は減らせるか」という点だ。 前述の「身体拘束ゼロへの手引き」では、 「人手が少なくても縛っていない施設があるのだから、まず人手増 員ありき、はおかしい。いまの人員配置でも身体拘束はなくせるは ず」と書かれている。 私の意見は、いまの人手で身体拘束をなくす努力をするとともに、 同時に、施設の介護職員は増やさねばならないと思う。 やはり、いまの職員は少なすぎる。 また、このように介護保険施設で身体拘束ゼロの運動が広がるの はいいことだ。最大の問題は、介護保険以外の療養型病床や精神病 院。そこにも身体拘束ゼロの運動を当然広げるべきだ。 さらに、身体拘束ゼロのチェックだ。 この「手引き」を現場に配っただけでは身体拘束はまだまだ減らな いだろう。その際に、身体拘束をしている施設をいかに指導したり、 罰則を与えたりするかが課題である。 なお、この「身体拘束ゼロへの手引き」はよくできています。 近い将来、厚生労働省が多く増刷し、実費で配布するそうですが、 その増刷までの間、もし、このメールマガジンの読者の方でほしい 人があればコピーをお送りします(住所をメールでお送りください。 コピーの許可は厚生労働省から頂きました)。 なお、ここ3日を振り返る。急に話は政治に戻る。 3月25日日曜日。 早朝から勉強会。 そのあと午前中は式典に参加。 午後は、民主党京都の臨時大会と参議院選挙の会議。 そして、夕方から鳩山由紀夫さんを招いて、松井孝治さんを励ます 1300人のパーティー。おかげさまで大盛況。松井さんの演説が良 かった。「政治を変えたい!」という熱意が伝わった。 9時からは、山城町の町会議員選挙の開票。応援した候補の選挙 事務所に10時に着く、11時半に当選決定。そこを後にしたのは 12時半。 3月26日月曜日。 木幡駅で7時から8時過ぎまで、チラシを配りながら演説。久しぶ り。その後、参議院選挙に関して、支持者宅を2軒訪問。3時半か ら滋賀県でNPO法人の取得を目指す宅老所の相談に乗る。 7時から亡くなった知り合いのおばあさんのお通夜。その後、 最終で東京へ。 3月26日火曜日。 朝8時から、民主党の医療保険制度改革ワーキングチーム会合。 私は事務局長。日本医師会の副会長と理事さんから話を聞く。 昼食は、松下政経塾の親友の中原好司君(広島県会議員)と。 中原くんも広島県議会で、身体拘束ゼロとグループホームを質問し ているという。仲間が増えてうれしい。 午後1時から3時まで、冒頭で述べたように衆議院本会議。 そのあと、「身体拘束ゼロ」シンポに出席。 6時からは、ホテルで衆議院の厚生委員会の与野党メンバー(政治 家)と厚生省の幹部の懇親会。 主賓の坂口力大臣が壇上でスピーチ。「いつまでも大臣として頑 張りたいと言いたいところだが、森さんもそろそろ終わりのそうな ので、そうなると内閣改造があるかもしれないので、私の首もどう なるかわからない」と発言。会場に笑いがもれる。 それにしても、ころころ大臣が変われば、よい厚生労働行政なん かできるはずがない! 今日も長いメールマガジンになってすみませんでした。 やまのい和則 拝 追加資料 ☆身体拘束とは? 1.利用者の人権を侵害する行為であり、人間としての尊厳を奪 う行為です。 2.利用者の心身機能を著しく悪化させ、寝たきりの原因となり ます。 3.利用者の痴呆症状を進行させ、せん妄などの頻発をもたらし ます。 4.利用者のQOLを根本から損ないます。 5.家族に対して大きな精神的苦痛を与えます。 6.サービス提供者のケアの工夫への取り組みを阻害し、 質の向上ができません。 7.サービス提供者への社会的不信、偏見を引き起こします。 ☆身体拘束を廃止するには? ○身体拘束廃止のためにまずなすべきこと−5つの方針 1.トップが決意し、施設や病院が一丸となって取り組む。 2.みんなで論議し、共通の意識を持つ。 3.まず、身体拘束を必要としない状態の実現をめざす。 4.事故の起きない環境を整備し、柔軟な応援体勢を確保する。 5.つねに代替的な方法を考え、身体拘束する場合はきわめて限 定的に。 ○身体拘束をせずにケアを行うために−3つの原則 1.身体拘束を誘発する原因を探り除去する。 2.5つの基本的ケアを徹底する。 3.身体拘束廃止をきっかけに「よりよいケア」の実現を。 (2001/03/28現在 読者数 1211) |