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   やまのい和則の
     「軽老の国」から「敬老の国」へ

     - Yamanoi Kazunori Mail Magazine -

            第57号(2000/10/24)

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 メールマガジンの読者のみなさん、こんにちは。
今日は精神病院訪問日記2日目です。

25日水曜日、衆議院厚生委員会で医療法改正に関する精神病院
についての質疑のために、今日も、阪大博士課程で精神医療を、
研究する竹端君と一緒に、3つの民間精神病院を訪問しました。
(昨日、滞在したのは公立の精神病院でした)

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-----1:6-----
 さて、朝9時に訪問した精神病院は、昭和30年代にスタート
して、今では、看護婦対患者は、1:3という非常に良心的な、
病院です(基準は1:6です)。1:3は人手が多いのです。

-----看護婦さんがいない-----
 今、精神病院の医師や、看護婦の人員基準を、あげるべきとい
うことが、医療法の改正に伴って議論されているが、この病院の
院長さんは、「都市部はまだしも、田舎の精神病院には、看護婦
が近隣にそもそもいない。看護婦の基準を増やすと、少なからぬ
精神病院はつぶれる」という。この病院でも九州などに看護婦の
募集に行ってもなかなか見つからないという。

「精神病院には偏見がある」
「人生すべてにかかわるので、やりがいのある仕事なんですけれ
どねえ」と院長さん。

-----差別-----
 看護婦さんも実際に勤めるまでは、精神障害者に「こわい」
という印象を持っている人が多いという。しかし、実際に接して
みると、「やさしい」「愛すべき人」と認識が変わるという。

「会って話してもらえればわかるんですけどねえ。精神医療への
差別と偏見を取り除く必要があります」と院長さん。 

 すべての病棟を見せてもらう。痴呆性高齢者の病棟もある。
「『痴呆病棟に移されたら辞めます』という看護婦もいてねえ」
と院長さんは嘆く。その理由は、「痴呆病棟はオムツ交換や下の
世話が多い。看護婦がそんなことできるか」の意識があるという。

-----黙認-----
 「精神病院の医師や看護婦の人員基準が高くなっても、この病
院はすでに多くの人手がいるので達成しているので全く困らない
が、今の1:6の看護婦さんも満たしていないところなどは、
つぶれてしまうのではないか」と院長さん。

今の精神病院の基準の医師数や看護婦数を満たしていない病院
が、一部あり、それでも保険停止にならず、事実上黙認されてい
るという現状だ。何かおかしな世界だと思う。

-----誇りをもち働きたい-----
 「精神病院は一般病院に比べて少ない人手で安上がりでまあえ
えやろ」という安易な気持ちが行政にもあったはず、と院長さん
は指摘する。

 「精神病院には地域の偏見がある。ここも『お山の上の病院』
と呼ばれていた。私たちも隠れ隠れ仕事をしていたような感じ。
みんなが誇りを持って働けるようになりたい」と院長さん。

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-----飛び込み-----
 あまり長く書くと終わらないので、次の病院に移る。飛び込み
で訪問させてほしいと電話する。オーケーの返事をもらったが、
あとで聞くと、「衆議院議員が訪問する」というので、院長さん
が会議をキャンセルして下さったとのこと。申し訳ない。

 院長さんは、「精神科は一般科と違って治療も少ないので診療
報酬が少ない」と嘆く。
「ここは町の中でいいですね」と言うと、「実は昔は竹林の中だ
った。あとで近隣に家が建った。だから苦情はないが、あとで精
神病院を建てるのなら周囲は反対運動をしただろう」とのこと。

-----デイケアが-----
 病棟とともにデイケアも見せてもらう。毎日デイケアをやって
いる。そのおかげで退院できた人もいるという。
退院してからの患者を、家族が受け入れるのが大変である。その
点、月から土まで日中はデイケアが対応してくれたら、家族も受
け入れやすいという。
ちょうどカラオケの時間で5人が集って「今はもう秋、誰もいな
い海・・・」とトアエモアの曲を女性の患者さんが歌っていた。

 患者さんの中には毎日、デイケアのスタッフとの会話を楽しみ
にしている人もいて、仲のいいスタッフが休みの日は、がくんと
症状が悪化する人もいるという。

「精神病の患者さんは一般の人以上に純粋で傷つきやすいのです」

-----ビジョン-----
 ここの院長さんは、「医師や看護婦の数を増やせばいいという
ものでない。リハビリのスタッフやケースワーカーなどトータル
で考えるべき」という。
また、「厚生省は精神病院のベッドを減らしたいならはっきり言
うべき。厚生省の精神病院に対する将来ビジョンが見えない」と。

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-----退院促進の施設が近くに-----
 次の病院は、精神病院だけでなく、退院を促進するため、多く
のサービスを提供している。
病院の前には、道路をはさんで精神障害者が働く印刷所、喫茶店、
パン屋さんがある。
また、徒歩1分のところに福祉ホームB型と言って、20人くら
いの退院患者さんが住む住居がある。家賃は5万円でスタッフが
常駐。看護婦寮を改装したものだ。
また、日中いろんな相談に乗るための生活支援ホームもある。
さらに、感激したのは5人が住むグループホームが10件も病院
の近所にある。一軒家を借り上げたものやアパートを新築したグ
ループホームもある。
しかし、近所から反対があり、グループホームの建設も難航した
という。案内してくださったスタッフの方は、「頭を地域の方に
下げてばかりいたのでこの通り頭がはげてしまいました」と笑う。

-----苦情-----
 近隣からの苦情が頭が痛いという。
「お宅の病院の患者さんはすぐ見分けがつくように同じ色の服を
着せてください」と言われたこともあるという。
ここは開放病棟なので入院患者さんも外出をするし、また、グル
ープホームや福祉ホームもこのあたりにあり住んでいる。

 本当は退院可能な人は沢山居る。
グループホームがなかなか増やせないという。病院の横ならいい
が、離れた地域だと必ず近隣から反対が出るという。

-----なぜ,病院に?-----
 あるときカナダから研究者が来て、
「あなたの病院は薬漬けでないので素晴らしい。でも、なぜこの
人たちが入院しているのかが私にはわからない」と言われたとい
う。確かに、欧米では退院できるはずの人が日本では入院してい
る。平均入院日数は欧米の数倍だ。

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-----なぜだろう?-----
 私は考え込んだ。なぜ、日本は先進国で唯一、精神障害者を精
神病院に隔離収容する施策をとり、地域に住めないのだろうか。

 「臭いものにはふたをする」という日本人の国民性か。なぜだ
ろう。あるいは、精神病院をそもそも作りすぎたのか。

-----受け皿を整備-----
 院長さんは言う。「退院を促進するにはグループホームや福祉
ホームなどの受け皿がいる。しかし、その報酬が低いので、なか
なか退院をさせようというインセンティブが一般の病院には働か
ない。この病院も儲からないけれど社会復帰を進めている。
厚生省も本気で病院のベッドを減らし社会復帰をさせたいなら、
受け皿整備にもっとお金を投入すべきだ」と。

-----個室を-----
 ある病棟のスタッフは、「雑居部屋なのでトラブルが絶えない。
個室がいい」という。しかし、ある精神病院では個室は差額ベッ
ドで一日3000円。つまり、1ヶ月いたら15万円プラスである。

「個室は権利であり、療養に必要な条件だと思うのだが」

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-----安田病院の場合-----
 その後、最終の新幹線を待つ駅で、人権センターの方に会った。
精神病患者への虐待で問題になり、閉鎖になった安田病院事件な
どに取り組んでおられた方で、情報公開の大切さを聞く。
安田病院事件の記事を頂き読む。劣悪な精神病院であった安田病
院が、大阪府の監査に手心を加えてもらうため、国会議員に100
万円政治献金をしていたという。その政治家は「病院と仲良くす
れば、票になると思った」とコメントしている。
よりよい精神医療へとリードすべき、国会議員が、逆に劣悪な病
院を、放置する片棒をかついでいる。

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-----感じた事-----
 長くなるが、ここ4日間、4ヶ所の精神病院をまわって感じた
ことを整理したい。
1、人手が少ない、雑居部屋で居住環境は悪い。
2、病院は入院患者を抱えていたほうが採算が成り立つ。
  退院させるインセンティブが働いていない。
3、グループホームやケア付き住宅、福祉ホームなどが不足。
  これが、地域の偏見や無理解、反対と相まって、社会復帰を
   拒んでいる。
4、以上のような事情で、日本は先進国でダントツに精神病院の
  数も多く、入院日数も長い。それを解決するビジョンがない!
5、一部に劣悪な精神病院は存在し、多くの関係者はそのことに
  危機感を感じている。

-----解決策は?-----
 安直であるが、解決策は、
医師や看護婦の人手を増やし、
診療報酬をアップさせ、
居住環境を良くして、個室を増やし、
そして、早期退院を進め、
地域にグループホームやケア付き住居の受け皿を整備し、
訪問看護やデイケア、作業所、外来などのバックアップ体制も
しっかりさせ、
地域の偏見もできるだけとりのぞく。
医科大学や看護学校での精神科教育にも力を入れ、
多くの精神科医や精神医療に関心のある看護婦を増やす。
また悪い精神病院をなくすために、
病院ごとの情報公開を徹底する。 

-----欧米ではすでに-----
 しかし、こう列挙してみると、この解決策は、欧米がやってい
るやり方ではないか。急性期に多くの医師や看護婦がかかわり、
もっといい居住環境で対応して、早期に退院させ、あとは地域で
暮らしてもらう。そのほうが結果的には、今のように長期入院を
増やすよりも医療費も高くはつかないはずだ。
なぜ、このことが日本でできないのか。過去40年。そして、
今もそのようなビジョンが見出せないのはなぜなのか。私たち
議員の責任かもしれない。

-----権利-----
 ある院長さんは言った。「らい病やハンセン氏病の患者さん、
そして、エイズの被害者も裁判をしたりして厚生省に謝罪を求め
た。でも、本当なら10年、20年精神病院での生活を余儀なくさ
れた患者さんは厚生省に謝罪を求める権利があるはずだ」と。
 私もその通りだと思った。 

-----紙一重-----
 今日も多くの方から現場の声を聞いた。そのスタッフの方々の
顔も何だか、「この方も精神病ではないか」というように見えた。
一日じゅう、精神病院を訪問してまわり、何百人という精神障害
者の方に出会い、ふとトイレの鏡で自分の顔を見ると、疲れた顔
で、「俺も過労で精神病になるかな」と感じた。

 あるスタッフの方は「住宅ローンを抱えて、家族を養っていて、
中年でリストラにあったら、そら、精神病になりますよ。ならん
ほうがおかしい。精神病の患者さんも私たちも紙一重ですよ。
20年もこの病院に勤めて私が勤める前から入院してる人もいる。
10年入院してる人なんかざらだ。他の病気なら治って退院とい
うことも多いのに、なぜ、こんなに必死に頑張っても精神病は治
せないのか、と残念でたまらず、歯がゆく思うのです」と。

-----協力するよ-----
 ある院長さんは言った。「ややこしい問題やから、国会議員な
んか誰も精神医療に関心もってくれへん。山井さん、頑張ってや。
協力するし。わしもこのままの精神医療の現状でええとは決して
思てへん。辞めさせたほうがええ、ええ加減な病院もあるわ」

 「今回は第一回の質問ですが、これからも現場の声をしっかり
聞いて、国会に届けます。精神医療の現場の方々が誇りを持って
働けるようにしたいです」

 今日も長いメールマガジンになってしまった。
これから、厚生委員会での質問を考えます。この4日間、初めて
精神病院という未知の世界に入ってみて、少し自分の人生が広が
ったような気がした。
           やまのい和則 拝

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