第六十一回  "育児手当でごほうび"



日本男子バレーボールチームは残念ながら
アテネオリンピック出場権を逃してしまいました。残念です。
一方サッカーはもうすぐワールドカップ一次予選が始まります。
親善試合とはいえ、ユーロ2004直前の本気モードであるはずの
イングランド代表との試合にも引き分けました。

これは調子があがってるといい気分でいられるかと思った矢先…
ロスタイムに稲本選手が腓骨骨折で全治3ヶ月…
高原選手もいわゆる「エコノミークラス症候群」再発、
中田英選手も股関節を痛めて戦線離脱、大丈夫なんでしょうかね?
チョッと不安になってきました。
アテネオリンピックへのオーバーエージ枠選手も
まもなく発表されるでしょう。

そういえば、ついに6日近畿地方も梅雨入りしました。
ヨーロッパは良いですよね、梅雨がなくって。私は梅雨が大嫌いです。
さて、今回は家内からうれしい申し出がありました。
以前に、皆さんにお約束して書いていない事があるって?
よく調べてみますと…スウェーデンでの歯科のお話を書くと
宣言したままになっています。
というわけで、今回は再度家内にバトンタッチをします。







 ●ドムシェルカン大聖堂●
"Can you stand?"の日から、帰国ギリギリまで、
私はいつの間にか歯科センターのご常連となり、
夏休みやクリスマス休暇をはさんだものの、ペトレとは、
週1回づつのおつきあいをしていました。

前にもお話ししましたが、当時、一般的にスウェーデンでは
地域に歯科センターがあり、パーソナルナンバーをもっている住民は、
そのセンターでの保険診療が受けられるようになっていました。
私が通った歯科センターも、ご近所で集合住宅の1階にあり、
お隣は今考えるとデイケア?をしている老人福祉センターのようでした。

1つのセンターには何人かの歯科医師がいて、
それぞれが1件の歯医者さんのような独立した診察室をもっていました。
どの部屋も作りは同じようでしたが、
診察室はそれぞれの歯医者さんの個性でいろいろな雰囲気でした。

カーテンの色も色柄ものだったり、
レースだったりと当時はじめてみたときは、とても驚きました。
(今は日本でもおしゃれな歯医者さんが多いですものね)
ペトレの診察室へ行くまで、
キョロキョロとよその部屋をのぞくのが楽しみでした。

そして、ペトレの部屋はといえば、一見とてもシンプルで、
チョッとがっかりだったのですが、診察台にのり、
ゴロンと寝転がると多彩色のアフリカの草原に動物がたわむれている、
ピクニックシートのような大きな大きなポスターが天井に貼ってありました。
それが、周りがシンプルな分だけ強烈に迫ってきて大迫力でした。


          





  ●大学のメインビルディング●
小さい子供がいるお母さんは、歯医者さんに行かれるとき困るという
お話を聞きますが、スウェーデンの歯科センターには、
待合室のスペースに、赤ちゃん用のベッドがあり、
子供の遊び場(ブロックやオモチャがあるコーナー)がありました。
絵本や週刊誌、新聞等の図書コーナーもありました。

そういった、設備が充実していた分、親についてきた子供は、
年齢に関係なく、そこで待っていなければなりませんでした。
泣こうがぐずろうが絶対に診察室には入れてもらえません。

だから、毎回、私の診察時間が長くても短くても、
一緒についてきてくれたみちるは、そこで待つことになりました。
(はるなはバンティメに行っていました)

ぐずられたり、一緒に歯科に行くことを拒否されたりした記憶がないので、
彼女はご機嫌に時を過ごしていたのでしょうか?
それともNoと言えない切迫感を母に感じて我慢していたのでしょうか…。


              




●アルヘゴナ教会●   
毎回ペトレとの診察は握手ではじまり握手で終わります。
ペトレの演説によれば、彼はスウェーデンの歯科医療は
世界の最高水準だと自負していて、
それに次ぐのが日本とカナダだと思っているとのこと。

ただ、実際に日本人もカナダ人もまだ診察したことがなく、
実際の技術のほどが、どのくらいなのか見たことがないというのです。
そんな、彼の興味を満たすに充分すぎる
私の歯のコンディションでした。

むし歯が多いことも、それをちゃんと治していることも、
私はちょっと自慢でした。

だから、私は彼にとって、とってもWelcomeだった訳です。
口の中をチェックしても、レントゲンを見ても、
彼のやる気は満々とわいてきたようで、
私の帰国の時期を確かめた上で治療の長期スケジュールを組んでくれ、
着々と実践してくれました。

1年半で何本の歯を治療してもらったのかな…。
大きな仕事としては奥歯のブリッジを2カ所と前歯3本を
セラミックで入れてもらいました。

きっと日本だったら自費扱いの治療なのだと思いますが、
すべて保険で、しかもはるなとみちるの母として
スウェーデンから頂いていた養育手当金で充分まかなえました。






Made in Swedenのセラミックの、前歯を入れるとき、
型を取るのはペトレがしてくれましたが、
色あわせは「街のラボに行って直接するように」といわれました。
色あわせはスペシャリストに任せた方が完璧になるからと…。

彼の気合いが伝わってきました。そこで、はたと思いました。
私は黄色人種、肌の色も髪の色も瞳の色も違うけど、
歯の色ってどうなんだろう…。
合う色がちゃんとあるのだろうか…。
素朴にそう思いました。

彼の答えは「スウェーデンのセラミックはインターナショナルだ!」
ごもっとも。

美しく自然な色が見つかりました。

そして、最終の診察日
長期プロジェクト終了にあたり
「自分は99%パーフェクトな仕事をした」と誇らしげに力強く
握手をしてくれました。

そして、帰国ギリギリに完成した、このMade in Swedenの義歯は、
私にとってはこの2年間の頑張りに対してもらった、
ごほうびの様な気がしました。

ペトレとの出会いは、
私にとってもとっても幸運だったと思っています。
ありがとう、ペトレ!!

あなたの治してくれた歯は、約束通りまだ故障知らず。
大事に毎日磨いていますヨ!