第四十回  "我が家のセカンドカー"

  
  ●2人乗りも余裕。あみ袋と荷台で
  荷物もたくさんはこべます●
  (後ろの建物は幼稚園です。復活祭の日で
  くちべにでほっぺのあかはぬっています。)
今年の夏は例年より暑く、そして長く感じます。
私たちが住んでいた頃の
ルンドの夏といえば、6月と7月。
(8月からは秋の始まり…)

多くの人が長いサマーバケーションを
交互で楽しむため(旅行に行ったり、
セカンドハウスで暮らすので)
街の人口が驚くほど少なくなりました。
街を走るバスの本数も極端に減ります。
時刻表なんてまるで関係なくて、
時々走ってるという状態?でした。
そこで、日中はどこに行くにも歩いていく。
子供達のごきげんにもよりますが、
セントラムまで30〜40分。
愛用の街はずれにあったマーケット
「モビリア」までは約1時間。
週に何度か、この季節はお弁当と
着替えを持って、途中の公園で遊びながら、
一日仕事で買い物に行っていました。
ルンドについてまもなく、
インセビンセ号を購入した頃、
(留学記:インセビンセ号登場をご参照ください)
実は私にも是非セカンドカーを
という話も持ち上がっていました。
ラトコとアナさんが「よい出物はないか」と
毎日、新聞で探してくれていました。

 スウェーデン行きにあたって、日本から新車を準備して行ったのですが
  ルンドの生活には全く不向きだったからです。セカンドカー、それはみちるのベビーカーです。
  当時日本では、小さくて軽くて、片手でさっと折りたためるタイプがはやっていました。
  私は長い道中のことも考え、この新車を買って持っていきルンドでも使い始めたのですが、
  これが予想外に私は大変、みちるには迷惑な乗り物になってしまったのです。

  それは…
  その1.ルンドの冬はとっても寒い。
  防寒着を着たみちるをせまいバーと座席の間に乗り降りさせるのって大仕事。
  当然、彼女のごきげんもいつも悪くなる。
  その2.ルンドの街中は石畳のところが多い。(我が家のまえの道もそうでした)
  コンパクトなベビーカーの車輪はとても小さく、石と石の隙間に挟まってしまったり、
  つんのめったり。ひどい振動がみちるに直撃して、彼女の体にもよくないという気がしてきた。
  という理由からです。
  ルンドで見かけるベビーカーは、どれも大きなものでした。
  左右の車輪の幅も直径も大きく、座席の下には大きな荷物カゴもついていました。
  横に並んで座る2人用のもよく見かけました。また、ベビーカーに乗っている子供達の中には、
  どう見てもかなり大きな子も結構目について、時々ビックリしました。

             
  
●ルンドのバスターミナルで順番待ち●
  ライバルがこないといいけど・・・
でも、これには理由がありました。
ベビーカーに子供を乗せていると、
子供の年齢には関わりなく、その子と一緒の大人は
街のバスがタダで乗れるのです。
例えばみちるをだっこしてバスに乗ると
私は運賃がいるけれど、
ベビーカーごと乗ると、私はタダなのです。

私たちは、春になる前にラトコとアナのおかげで
中古の薄いブルーのビニール張りのスウェーデン式の
ベビーカーを手に入れることができました。
このセカンドカー、みちるは乗り心地がよくなって
ごきげんです。2人乗りをしてもビクともしないので
はるなも疲れた時には一緒に乗れて、
これまたごきげんです。
私は手をかけるバーの高さがちょっと高くって
最初違和感がありましたが、
バスの乗り降りにもすぐなれました。

どのバスにも中央には座席が無く、
横2列の2人用のベビーカーでも
2台乗れるスペースがあり、
手すりには太い車どめのベルトがついています。
ベビーカーは降車ドアから乗るようになっており、
バスが止まりドアが開くと、床がシューッと下がります。

ベビーカーの運転手はバックで
ベビーカーの重心を後輪にのせて段を上がります。
車輪が大きいので少しくらいの段差は問題なく
上がり下がりできます。降りる時は前向きに
後輪に重心を置き、前輪を浮かせてトンと降ります。
みんな一人で乗って一人で降ります。

ところが、このwithベビーカーでのバス乗車、
ドキドキすることもありました。
ベビーカーの指定席は1バスに2台。
2台先客がいるとバスはあっさりと
バス停を通り過ぎてしまいます。

実はこのことはルンドで生活を初めて
早々に身をもって学習しました。
生活を初めて1週間ほどは、
街のセントラムしか知らなかった私でしたが、
ある日アナさんからバスで反対方向に行くと
安くって大きなショッピングセンターがあると
教えてもらいました。バスはタダなのだからと
早速子供達をつれて出かけました。

  何でも山積みで、いかにも外国のスーパーという感じで、
  外国の庶民生活を実感してとても良い気分の私たちでしたが、
  帰り道に思わぬ事が起こったのです。
  ちゃんとバス停で待っているのにバスが通り過ぎてしまったのです。
  手を挙げるとかで合図しなければならないのかしら…。
  次のバスが来ると、今度は前の扉だけをパタンと開けて一緒に待っていた人だけを乗せ、
  運転手さんが私たちに何やらスウェーデン語で叫んで
  (その時はそんな風に聞こえました)ドアを閉め、走り去ってしまいました。

  どうして!!

  それからの私たちは、不安を通り越して、恐怖を覚え、とってもうろたえました。
  真冬の、しかもはじめてきた場所だったのですもの。
  そんな私たちを、次にバス停にやってきたおじいさんがベンチに腰かけてじっとみていました。
  そして、3台目のバスが来ました。やっぱり真ん中のドアは開きません。
  おじいさんを乗せる前のドアだけが開きました。
  今度はおじいさんがはるなにスウェーデン語でなにやら話しかけ、
  手に5クローネを握らせました。

  「えーっ、ママ、知らないおじいさんがお金をくれたよ!!」
  はるなのパニックに拍車がかかります。
  はるなの様子が、また私のパニックに拍車をかけます。
  おじいさんの行動がゆっくりだったのが幸いしました。
  ドアの外から運転手さんに「のせてください」と叫ぶことができたからです。
  でも、返事は…"You can't."でも理由が解りました。
  座席は空いていてもベビーカーの席が満員だったのです。
  私の記憶はそこまでで、その後、どうやって我が家まで帰ったのかはどうしても思い出せません。
  きっとおじいさんは、はるながかわいそうになって(みちるは寝ていました)
  あめでも買ってもらいなさいとお金をくれたのでしょう。
  ルールが解ってしまえばあとはへっちゃら。
  待つことも見切りをつけることも、じきに体得してしまいました

    
  
●ベビーキャリーに載ってハイキングはもちろん
    ユングフラウも見にいけました●
そして、このベビーカーを使い始めて
気がついたこと。街の石畳の部分には
どこでもフラットなわだちがあったのですが、
それがベビーカーのタイヤの幅と
ピッタリでした。さらには車椅子の方の
車の幅にもピッタリなことも発見しました。
何か基準があるのでしょうか?
素晴らしいことだと思いました。
さすがはスウェーデンと感じました。

そして、それと同じ頃、4人で外出する時は、
みちるをだっこのベルトに入れて
私がだいて歩くことが多かった私たちの
スタイルに、今度はハンスから
チェックがはいりました。

ある日、病院帰りの主人と一緒に
ハンスがやってきて、
「さあ、これから春の準備の買い物に行こう」
というのです。ハンスのおすすめの逸品は、
子供を入れるリュックサックです。
春になれば山歩きの機会も増える、
歩く時は、赤ちゃんはパパの背中が一番
というのです。Tadashiに色々なタイプの
リュックをしょわせ、みちるを入れたり
出したり…彼の品定めでブルーのリュックを
買いました。先日、愛子様も乗っていらした
パパの背中のリュックのスウェーデン版です。

こうして、またたく間に私たち家族の
生活必需重要アイテムがドンドン
スウェーデン化されて見かけも
"スウェーデンに来た人"から
"スウェーデンにすんでいる人"
に変わっていったのでした。