第四回「スウェーデンでのお仕事は?」

  あわただしく、振り回されて、ほっとしたのもつかの間。
   私も家内も子供達も皆長旅で疲れきっていました。であるにもかかわらず…。

   「今夜、食事に行こう。家族はセベリン家の人が面倒を見てくれるので、おまえだけ迎えにくる。」
   ボスからのありがたい2つ目の命令を頂戴しました。
   「ゆっくりしたい。」これが本音でしたが、いやといえず。
   "What time will you pick me up?"とか何とか言ってしまう自分に腹が立ちながら、
   やはり「にこにこ」しているのでした。
  実は、我々が着いた日はクリスマスの4週間前の日曜日
  つまり「ファーストアドベント」という日でした。
  クリスマスはプロテスタントの人が多いという
  スウェーデンでも大きな行事で、このアドベントは
 クリスマスまでの1ヶ月を指折り数えて待つ始まりの日でした。
  4本のロウソク「アドベントキャンドル」を毎朝灯し、
  最初の1週間は1本だけ、次の1週間は2本と灯してゆくと、
  ロウソクが「だんだん」になるのです!
  分かりますか?そして、クリスマスを待つのです。
  最近は日本でも「アドベントカレンダー」なるものを
  見かけるようになりましたが、
  スウェーデンではごくあたりまえの物でした。

●4本のロウソク
「アドベントキャンドル」

  クリスマスを待つ気持ちは、我々のように信仰心のない立場とは、やはり多少違うのでしょう。
  街の中心部にある朝市広場には「にわか遊園地」ができ、
  皆でアドベントのお祝いをする日だったのです。

  話がずれましたが、私はボスに連れられ「スウェーデン初めてのお食事をレストランで」
  家内と子供達は「セベリン家で」頂戴しました。家内たちはその後で例の「にわか遊園地」へ
  連れて行ってもらったと後で知りました。(やはり、「いや」と言えなかったようです。)

 ボスと食事をともにし、別れ際に「明日は9時に病院の7階に来るように。」と指示されました。
  「着いたばかりなのに、片付けや整理もあるのになー」と思ったものの、
  やはり笑って「OK」と答えてしまいました。

  翌日、時差に悩みながら起床し、9時に病院に駆けつけると早速手術。

 そうそう、いい忘れていましたが、私は大阪医科大学第一内科、循環器疾患班で不整脈治療、
  ペースメーカー手術等を担当していました。
  スウェーデンではルンド大学胸部外科ペースメーカーセンターの
  ハンス・シュラー先生の下でペースメーカー手術、管理、
  トラブルシューティング等を勉強に行くつもりでした。
  臨床の仕事ができるのか、研究活動になるのか、その両方なのかは
  本当に知らないままに着いてしまいました。

  「手術」といわれ体は反応し、着替え、
   手洗い(トイレじゃないです。ブラシで手術の前に手をゴシゴシ洗うことです。念のため。)を済ませ、
   術衣に着替えました。最初は助手をしましたが、あっという間に手術終了。
   
   ●ドイツ人と日本人の「勤勉民族コンビ」
驚くまもなく、30分後には次の手術が始まります。
「いったいここは何例の手術があるの?」と聞くと。
「あるときは1日に4例でも5例でもある。
ない時は、数日間1例もないこともある。」との答え。
驚くなかれ年間約400例の手術を
こなしているとのこと。
日本一手術の多い施設でも100例そこそこと聞きます。
その4倍の手術を
ほぼ2人(ボスのハンスと部下のトーマス)で
こなしているのですから、その密度は非常に
濃いものになります。
えらいところにきてしまったと思うまもなく、次の手術、

  そしてお昼になりました。昼食は「ハンス」は
   (たとえ教授でもスウェーデンではファーストネームで呼び合います。
   「ドクターシュラー」とでも呼ぼうものなら、かえって文句をいわれるかと構えてしまうのだそうです。)
   持参のサンドイッチで済ませていました。病院には立派なレストランがあり、
   メインディッシュとパンとサラダそれに飲み物がついて「セットメニュー」になっていました。
   しかし、そこに行くには白衣を脱いで着替えなければなりません。
   ハンスは「そんな時間はもったいない。」という主義で持参のサンドイッチとなっていたようです。
   しかし、大方のスウェーデン人は昼にしっかり食事を取ることが多いようです。
   朝と夜はサンドイッチやパスタといったもので手軽に済ませ、昼に職場でしっかり食事をとる。
   共働きがほとんどなので、お互いに負担をかけないようにでしょうか?ハンスは実はドイツ出身で、
   そういったスウェーデン人の習慣になじまないことが多々あったのだろうと思います。
   その後、私も家内に「おにぎり」を作ってもらって持参することになるのですが、
   スウェーデン人にとっては非常に奇異に写ったことでしょう。変なドイツ人のもとに
   変な日本人がきたと思われたのだと思います。

   ご存知のように、日本人もドイツ人同様、勤勉な民族として認知されています。

  ドイツ人と日本人の「勤勉民族コンビ」がこうして誕生したのです。