第十五回 初めてのバケーション2(メルヘン街道)


 
ミッドサマーのお祭りが終わって、
  翌日は私達にとって初めての長旅の用意に追われました。
  着替えなどの一般的な旅支度には少し慣れてきましたが、
  今回はなんと約3週間の長丁場!
  用意する物だって違います。
  まず変圧器?!なんでって思われるでしょう?
  実は旅の間、電気釜とお米を持参して、ホテルでご飯を炊く、
  そして「おにぎり」を作って昼食にするんです。
  これはルンドで生活する留学家族に代代伝わる秘伝!!
  たいていのヨーロッパのホテルには、しっかりと朝食がついています。
  我々が泊まるような利口な?ホテル(要するに安いって事です)でさえも
  飲み物はもちろん、パン、チーズ、ハムやサラミ、
  ヨーグルトやフルーツまでバイキング形式の食べ放題ってところが多いのです。
  だから、朝食はホテルでしっかり食べます。それから車で大移動、
  アウトバーンを使うと1日400Kmを越える日だって結構あるのです。
  そうすると、正直言ってお腹はそんなにすきません。
  昼食は街の広場で売っているソーセージやサンドイッチでも良いのですが、
  我々日本人にとっては「おにぎり」の方が胃にももたれず格好の昼食になるんです。
  一食分の外食代?もうきます。でもこれって、大変は大変です。
  ホテルにつくと大きな変圧器と電気釜を運ぶわけで…。
  いったい何をするんだろうって思われるんじゃないかといつも「コソコソ」運んでいました。
  これも自動車で大きな荷物が運べる長期旅行ならではですよね!良い思い出です。

  今回の旅行は、6月24日に出発し7月15日に帰ってくる予定でフェリーの予約だけしてあります。
  その他はホテルもなーんにも予約はなし。気が向くままの旅行です。
  ルンドで買った地図と日本から持ってきた「地球の歩き方」数冊が頼りの旅です。
  「小さな子供を抱えて、本当にそんな旅行ができるんだろうか?
  そんな旅行をしても良いものだろうか…?」
  なんて不安に思う余裕もなくその日はやってきました。
  大まかな日程は、ドイツを縦断しメルヘン街道からロマンチック街道を通ってフッセンに、
  一つの目玉のノイシュバンシュタイン城を見てスイスに入る。
  アルプスを満喫したらもう一度ドイツに戻るか、はたまたオーストリアに足をのばすか、
  どこかで折り返してスウェーデンに帰るというものです。
  現金はあまり持たずに行くつもりでしたが、やはりまだ日本人?不安もあり
  日本円とスイスフランのトラベラーズチェックを用意しました。
  そうそう、忘れては行けないのが車につける「国の識別標」です。
  スウェーデンはS、デンマークはDK、ノルウェーはN、イギリスはGB、ドイツはDで…。
  日本はJPでしたっけ?日本では全く役に立たないですが、
  「ヨーロッパは地続き」本当にバケーションの季節はいろんな国の車がごく普通に走っています。
  日本で言うなら「京都ナンバーとか名古屋ナンバー」の感覚です。
  ナンバーを見て「ああ、あんなに遠くから来てるんだ…。」って思うことあるでしょう?それと同様です。
  私たちは日本人ですが、スウェーデン登録なのでもちろん「S」のマークをつけました。
  前日にガソリンスタンドで調達しました。
  出発当日、晴天。この日のために予行演習の旅行までした私たちです。
  天気にも誘われテンション高く、いざ出発と相成りました。

  マルメからコペンハーゲンへの最短ルートである
  「リムハムン、ドラオワ」のフェリーに乗って、まずデンマークへ。
  そしてデンマークを縦断し、ドイツの「トラベミュンデ」へのフェリーに乗り込みました。
  デンマーク縦断にどんなくらいの時間がかかるのかぜーんぜん知りませんでしたから、
  フェリーに遅れては大変ととりあえずちょっと急いで走りました。
  デンマークからドイツへは約3時間の船旅です。
  向こう岸が見えてきました。そこはもうヨーロッパ大陸です。「ドイツ」が目の前です。
  埠頭について、入国手続きは…と思ったのですが、やっぱりなーんにもなく?
  本当はヨーロッパ大陸に上陸した記念に入国のスタンプがほしかったのですが、
  やっぱりなくそのままドイツの街へ。

  

  
    
●フェリー乗り場にて
    (みんなバカンスに向かいます)
ひたすら南へ走り出しました。
トラベミュンデを抜けて、走ってゆくと、
いわゆる「アウトバーン」に入ります。
アウトバーンはご存じのように
速度無制限で「速い車が強い」道です。
本当にポルシェやBMW、
メルセデスは速いです。
バックミラーに映ったかと思うと
直ぐに第一レーンを譲らないと
一瞬で後ろにいます。
日本で走っているそういった車は
日本へ連れてこられたばっかりに
かわいそうに時速100Kmの制限を
与えられてしまいます。


  何か動物園に連れてこられたライオンやチータと同じような気がします。
  ポルシェやベーエムやメルセデスのオーナーさん、
  そのことをよくわかってかわいがってやってくださいね!
  その中で、とっても似つかわしくない「変な車」が時折アウトバーンをよちよちと走っていました??
  これが、「トラバント」でした。ご存じですか?いわゆる「ベルリンの壁」が崩れ、
  東ヨーロッパからの車がアウトバーンにも流れ込んでいたのです。
  トラバントはトラビーという愛称も持つかわいい車ですが、
  性能的には全く前時代的でとてもアウトバーンを走れる代物ではありませんでした。
  そういった車に囲まれて、恐る恐るアウトバーンを南へ南へ、私たちも進みます。
  日本では優良ドライバーを誇っていた私は、
  せいぜい間違って時速120Km?!を経験したくらいです。
  アウトバーンの周りの車に誘われて、恐る恐るアクセルを踏みました。
  踏んでも踏んでも警告チャイムはもちろん鳴らずビュンビュンスピードが出ます。
  でも、インセビンセ号はアクセルを踏みきっても
  時速160Km程度がどうも限界だったようです。
  また、走っている車の中から「道路標識」や「進路案内」を
  識別する難しさをイヤと言うほど知りました。
  特にアウトバーンでなんてとんでもない。
  同じようなドイツ語のアルファベットが瞬きとともに通り過ぎてゆきます。
  周りの車の流れに円滑に乗りながら降りたい場所で降りること、
  これって予想以上に緊張する大変なことでした。
  ハンブルグを通り過ぎ、第一夜はあまり疲れの出ないうちに「ハノファー」に泊まることに決定。
  ハノファーで始めての宿探しと相成りました。

  ホテルを決めない旅でのホテル探しの一番安直な方法は
  「ツーリストインフォーメーション」を利用すること!
  ツーリストインインフォーメーションは必ず駅の近くにはあるものです。
  早速ハノファーの駅へ、駅について…。どきっ!!
  今日は日曜日。
  日曜日はツーリストインインフォーメーションは休みだったり、早く閉まったりです。
  駅に行って「ガーン!!」やっぱり閉まっていました。
  日曜日は道行く人もまばらで、まして初めてのドイツ、どうして良いやら解りません。
  ハノファーは国際会議等も行われる街ですからホテルくらい…。
  と思って車でぐるぐる。どこをどう走ったかなんて全く覚えていませんが、
  街のはずれに一件の瀟洒なホテルを見つけました。
  「もうここにきーめた。」とおそるおそる中に。
  「今日の部屋はありますか?」って聞くと、ドイツ人の(あったり前か)お姉さんが
  英語で「ありますよ、部屋を見てみますか?」って案内してくれました。
  見てみるとダブルベッドとシングルベッドのファミリールーム。
  すてきな部屋でした。
  その後もずっとそうでしたが、まずホテルを訪ねると値段の交渉、
  その後必ず部屋に案内され「ここで良いか?」と確認。そして交渉は成立となります。
  私たちには初めての経験でした。高いんだろーな?と思って
  「いくらですか?」と聞くと当初立てていた1日の宿泊費の予算はちょっとオーバーしましたが、
  まずまずOKでここに決定。もちろん豪華な朝食付きです。
  ホテルにチェックインして、荷物を運んで、
  ほっとするやいなや今度は夕食に困りました。
  ホテルにはレストランはありません。
  さっきのお姉さんにたずねると
  「この先にイタリアンレストランがある。」との情報を得ました。
  何とか宿と夕食を手に入れ生き延びました。教訓として、
  日曜日はツーリストインインフォーメーションは休みと心得ること。

  ちょっと豪華な?ホテルで一夜を明かし、
  豪華なバイキングの朝食(ケーキまでありました)をお腹いっぱいにおさめ
  「クレジットカード」で支払いを済ませ、インセビンセ号に。
  今日の目的地はハーメルン。「ハーメルンの笛吹」で有名な街です。

   
      
●ハーメルンの笛吹きの像の前で
ハーメルンは小さな街ですが、
中世の香りがいっぱいの街で
とても観光化されています。
ハーメルンの笛吹の像や
ネズミ男の家等もあります。
街のメインストリートには
オープンカフェが並んでいます。
婚礼館には「仕掛け時計」「チャイム」
があり時間になると鳴り響きます。
それを見て、早々に公園で
「第一回おにぎりパーティー」
を済ませました。そしておにぎりを
食べながらの作戦会議で、
今日の宿泊は北ドイツの小さな街
「ゴスラル」に決定しました。
めざせゴスラル!
      

 ゴスラルでは皇帝居城の直ぐそばの
 小さな"Zinmmer Fri"と出ている
 ホテルに飛び込み。
 "Zinmmer Fri"というのは
 空き部屋ありの目印です。
 聞くと「ダブルベッド1つの部屋ならある。」
 と言われました。
 「4人でそんなとこに泊まって良いの?」
 と聞くと
 「ちょっと狭いけど良いよ見てみるか?」
 という事になり…。
 確かにダブルルームだけど
 そのダブルベッドが大きいのなんのって。
 それで朝食4人分ついて確か70マルク
 (当時1マルク70〜75円
 前後だったと思います)
 くらいだったと記憶しています。
 昨日ちょっと豪華だったので、ここに決定。
 標識を見きわめるにも、
 ホテルを決めるのも
 "野性的な直感と決断力"がものをいいます。
 ゴスラルは木組の家が建ち並んだ
 古い町並みがとっても印象的な街でした。


●古い町並みが建ち並ぶゴスラルの町

  スウェーデンでは当時からチャイルドシートが義務づけされていました。
  みちるはまだ一歳半なので助手席に後ろ向けに取り付けたチャイルドシートに座っていました。
  みちるはそれが大嫌いでした。はるなも後部座席にシートベルトでロックされたまま!
  これもまたじっとしているのが大嫌いの彼女にはとても苦痛でした。
  大人でも三日目にもなると「車の中でじっとしている苦痛」って結構感じます。
  移動距離が長いので長時間車の中って事にもなるわけです。
  これからの長旅、子供たちも喜ぶところも回らなければと急遽計画を立てました。
  そこで、翌日はザバブルグのヨーロッパ初といわれる自然動物園から、
  赤頭巾ちゃんの町シュバルムシュタットを目指すことに決めました。
  動物園と聞いて、二人はてっきりゾウやキリンのいる動物園に行けると大いに期待していたのですが、
  "自然"というところに大きなミソがありました。
  広々とした原っぱを馬車に乗って一周し、馬や牛、その仲間たちを見学するというスタイルでした。
  でも、あまりの暑さのせいか動物たちも木陰でお休み!何がどこにいるのかも解らずじまいで、
  みんなもばてばて!早々に立ち去りました。

  さて、今度は赤ずきんちゃんだ!!と気を取り直してシュバルムシュタットを目指すことにしました。
  しかし、これが実は大変でした。田舎道を走ること走ること、
  もしこの先に街がなかったら今日の泊まりはどうなるんだろう…。
  なんて思いながらようやくたどり着いたら、ツーリストインインフォーメーションの閉まる30分前。
  駆け込んで予算と条件を言うとこんな立派な木組みの家のホテルを紹介してくれました。
  田舎なので物価が安いのか、大満足でした。また、地元の料理を出すレストランも一階にあり、
  今日はそこで地ビールとともに舌鼓をうちました。

このホテル、一階よりも二階が
でっぱっているの解りますか?
北ドイツでは昔土地にかかる税金が
一階の面積に従ってかけられたんですって。
節税のために二階を広くとってある家が
多いそうです。でも、何か頭でっかちで
バランスが悪そうな気がするんですが…。

明日は、みんなが期待していた
「カッセルの水のフェスティバル」
を見に行きます。
ちょっと後戻りになるけれど、頑張ろうっと。

 ●二階が出っ張っているのがわかりますか?