第十回 春がきた!

 みなさん、春がきたことをどうやって感じますか?
 日一日と暖かくなり、花が咲き、森は新緑がまぶしいほどになり…。
 確かにそれもあります。でも、初めての北欧で私たちが本当に春を感じたのは
 "明るくなること"からでした。なんとなくうつむき加減で街を歩いていた
 スウェーデンっ子たちも顔を上げて元気に歩き始めます。
 自分でもうつ状態から一気に回復していくのが解ります。だって、本当に暗いんですよ冬は。
 ルシア祭の頃が一番夜が長く、それから毎日少しずつ日照時間が長くなっていきますが、
 それが2月頃から一気に加速していくようでした。まさしく"明るい春"がやってきます。

  まずはスノードロップの開花が幕開けです。
  次にクロッカスが歩道一杯に花を付けます。
  そうこうしているうちに春だまし、
  スキーラといった花が辺り一面に絨毯を
  敷き詰めたように咲き誇ります。
  順番をちゃんとわきまえていて、
  色が混じることなく黄色い絨毯の
  次に紫の絨毯が広げられるのです。
  それをかわきりに庭も公園も歩道も牧場も、
  土の上には"花だらけ"といっていいくらいにぎやかに、
  色々な花が咲きはじめます。

    紫の絨毯のような「スキーラ」の花


  土の上だけではありません。花が咲いてわかったのですが、
  庭先にも街路樹にもなんて果樹の多いこと。
  ペーロン(洋なしです)、リンゴ、アプリコット、クルミ等々…。
  上を見れば真っ青な空、目の前も足元もはな、緑、花…。
  本当にすばらしい自然が"春"がまるでお芝居の幕が変わるように、がらっと、突然、
  一度に日常の生活に飛び込んできたのです。その美しいこと!すばらしいこと!うれしいこと!
  今思い出しても胸躍る想いがします。
  こうして春を肌で感じ始めるとスウェーデンっ子たちは春を迎える準備をします。
  庭を整備するために冬の間に飛んできた小枝や葉っぱをかたづけたり
  花壇を整理したり耕したりします。

   
       
私達も春を迎える準備をしました。

  もちろん私たちもラトコとアナと一緒に庭の整理のお手伝いしました。
  虫たちも目覚めて動き始めます。はるなはスウェーデンのミミズともお友達になりました。
  (ユーゴスラビア語ではグリスタと言うそうです。なんかかわいい感じがしますよね!)
  春の準備が整った頃には虫だけでなく、
  なんと野ウサギやイーゲルコット(ハリネズミみたいなのですが…詳細は不明です)まで、
  もそもそと庭へ顔を出すようになります。
  「ホーホケキョ」ウグイスはスウェーデンでも春を告げにやってきます。

  止まっていた街の噴水も勢いよく水しぶきを上げ始め、一気に世界は活気づきました。
  急に人々は散歩に出かけます。家で"冬ごもり?"をしていた犬たちも飼い主に
  連れられて街に出てくるようになりました。その犬たちの大きいこと大きいこと。
  ベビーカーに乗っている「みちる」より、その横を歩く「はるな」よりずっと上に顔がある感じでした。
  飼い主と共にさっそうと歩いている大きな動物とすれ違ったり、
  目を合わせては二人とも目をまん丸くして驚いていました。
  そして、とうとうはるなが家内に聞いたそうです。

  「ママ、あの大きくて犬みたいな動物はなんていうの?」
  「犬よ。」
  「エエッ…??」

  みちるは当分の間、その動物のことを決して「ワンワン」とは認めませんでした。
  そうそう、「これも何かのご縁だったのかしら」なんて、とても日本人的なことをアナに
  言われてびっくりしたのですが、我が家の玄関先には見事な「桜の木」があったのです。
  日本のソメイヨシノにそっくりでした。ルンドの街に数本しかないうちの1本でした。
  何でここに桜の木があるのかは知りませんが、日本人としては何かうれしくなりました。
  この木もおそらく外国で住み慣れず苦労をしたのでしょう、風が吹いても、雨が降っても散りません。
  満開の状態をなんと1週間以上も楽しむことができました。
  また、チューリップの花にもびっくりしました。
  芽が出てつぼみをもってから花が咲くまでの間が長いこと長いこと。
  首ではなく茎がとっても伸びて花が咲く頃には、なんとみちるの背たけ程に茎がのびていました。
  そして、その上に巨大な花を開くのです。

  ある日、アナの花壇のチューリップをはるながブツブツ言いながら、
  端からずっとチェックして歩いていました。
  「オーイ、何してるんだ?」
  振り向くはるなが真顔で言いました。
  「私ね、おやゆび姫を飼ってみようかと思って、今さがしてんの。」
  「うーん、本当にどっかにかくれてるのかも…。」私もふとそんな気になってしまいました。
  こうしているうちに"イースター"を迎えます。
  日本では、まだあんまりなじみがありませんが、春を迎え、テンションが高くなっている人々にとって、
  このお祭りもとても大きな"春のイベント"です。
  街は色とりどりの羽かざりで飾られ、春の彩りを一段と華やかにします。
  光、音、色、香り…春のすべてが、とにかく、うれしくてうれしくて、
  人々は外へ外へとおどり出すのです。

    
   
       一気にいろいろな花が咲き始めます