第六回 フィエリエベーゲンにご挨拶


     
●フィエリエベーゲン●

バスがルンド駅に着くと、
早く街に出たくて気持ちははやります。

ここから、どうやってホテルに行こうか?
距離はそれほどないのですが、
ルンドの街は石畳です。

我々のスーツケースを引きずって動くのは
ちょっと大変です。

ズルズル歩いているとタクシーに声をかけられました。

「どこへ行くの?」
「ホテルコンコルディアさ。」
「乗らないかい?」
「いくらなの?」
「80クローネ。」
実はちょっと高いのは解っていましたが、
4人と4つの大きな荷物ですから太っ腹に
まあいいかと乗ってしまいました。

メーターは倒さず走り出したので、
やっぱりと思いましたが、

納得して乗ったのですからあきらめました。
5分足らずで到着しました。


       
チェックインしたら、お部屋は1階と2階でした。
さっき買いこんだ雑貨や食品が結構重かったので、
エレベーターにのりました。

ところが…2Fのボタンを押して、
エレベーターのドアが閉まったはいいのですが、

動きません、ドアを開こうと思っても開きません、
いわばカンズメ状態になってしまいました。

あせって何かボタンを押して緊急通報だっても困るし、
このまま開かなかったらもっと困るし、

どうしようと焦っていたら、
なぜかスーッとドアが開きました。

私たちって、重すぎた?!

なぜか、スウェーデンのホテルのエレベーターと
相性のあわない私たちです。

もうエレベーターには乗るまいと
ズルズル荷物を引きずって

階段をのぼり2階と1階の部屋に入りました。
荷物をおいて、ふときがついたのですが、
このホテルには最初コネクティングルームを
リクエストしたのでした。

その時にコネクティングルームはないけど
同じフロアの近い部屋をくれるって約束でした。


でも、苦労して荷物も運んだ後だし、
とにかく時間が惜しくて仕方なかった私たちは、

もういいやって事にしました。思っていた通り、
昔のままのルンドの街並みをチラッと見てしまって

テンションの上がっている私と家内は、
もう早く外出したくてたまりません。

子供たちにここも、
あそこも知っているとアピールしたかったのかな?

●ドムシェルカン●
先ずは、情報収集のために
インフォメーションへ向かいました。

インフォメーションはドムシェルカンの向かい側です。
さすがは2年暮らしただけあって、
場所や地図、位置関係などはばっちりです。

久しぶりに目にするドムシェルカンは
悠久の時を超えてきたわけで、

たった15年くらいご無沙汰しても
何も変わっていないように見えます。


中に入るとあの荘厳さ、凛とした雰囲気、
これまた何も変わっていないように思えます。

インフォメーションで地図やら資料をゲットして、
いざフィエリエベーゲンへ。


ここは我々が2年暮らした通りです。
その21番地が住んでいた家です。
残念ながら主が変わっているのですが、
もちろんおうちはそのままです。

何はともあれ、ルンドに着いたら、
その日のうちにおうちを見に行こうと決めていました。

●なつかしいおうちの前で●

外から見るおうちは当時のまんまです。
私たちが住んでいた頃、築80年余と
聞いていましたから、今は約100才?!
茶色のレンガで外観が縦長の5角形の
とても伝統的なアンティークな形をしています。
家も門も、外からの様子は、
驚くほど私たちが住んでいた時のままでした。
両側のお隣の家も、お向かいの家も全く同じ様子です。
ともに時を経たはずなのに、
私たちだけがすっかり変わってしまったようで、
なつかしいと言うより、何とも不思議な感じがしました。

電気がついていて、誰かがいるようでしたが、
これまた決めていた記念撮影を皆で撮りました。

興奮も一段落。
うらのからすの林の方から
お庭も見てみようということになり、裏道に回りました。
懐かしいリンゴの木、洋梨の木、プラムの木、
庭のくだものの木も昔の場所で大きく育っていました。
芝生も元気です。
私も何度かこの芝生の芝かりをしたことがあります。

ワイワイ、ペチャクチャと東洋人が4人、
家のおもてや裏で騒いで写真まで撮ってる…
あやしいですよね!!
なかなか立ち去りがたく4人でそれぞれウロウロ。
ボーッと見ていると中から主が出てきました。
ちょっとドキッとしましたが、
挙動不審な行動を重ねていた私たちには
気がついていない様子で、
車に何やら荷物を一生懸命に詰め込んでいます。
みんなで、声かけてみようか、話かけてみようか、
なんて言っていたのですが、
3人の「パパ」コールに押されて
意を決して話しかけてみました。

「我々は以前この家に2年間住んでいたんです。」
「今回、スウェーデンに来て、
どうしてもこの家にごあいさつがしたくてやってきました。」
すると、意外なことに大歓迎してくれました。
奥様や息子さんを紹介してくれて、
突然の訪問だったにもかかわらず
家の中まで見せてくれました。

懐かしかったですね〜。
奥さんはお土産に庭でなったリンゴをくれました。
私たちも大好きで、よくもぎって食べたリンゴです。
皆でリンゴをかじりながら、おなごりおしく、
でも心は一杯に満たされて
フィエリエベーゲンを後にしました。
実はラトコ(大家さんの名前です、念のため)から、
家を売ったことはずいぶん前に聞いて知っていました。
外観や庭を見て記念写真を撮れたら、
それだけで満足と思っていた私たちでした。
家の中に入れたり、なつかしいリンゴまで
食べられるなんて夢にも思っていませんでした。
何という幸運!ステキな今の家主さんに感謝!大感激です。

夕方からは、実はお友達の家を訪問予定なのです。

先ずはホテルに帰って、シャワーを浴びて、
お着替えをして。

さあ、どうやっておうちまでいこうか?
さっきインフォメーションでバスの路線図をゲットしたし、
バスに乗っていこうということになりました。
バスはすべての路線がセントラムの
バスターミナルに集まってきます。

間違えないように確認して乗りました。
後で気がつきますが今回の旅行で
実はエレベーター同様、バスも鬼門だったのです。

終点で降りるようにと友人から言われていました。
そのバス停の名前も何となく覚えていたのです。
だから、何となく知ったかぶりになっていたのかも…。
それが、悪かった、ちょっと調子に乗ってしまったのかな?
聞き覚えのあるバス停の名前が
アナウンスされたものですから

あわててみんなで降りちゃったのです。

でも、どうも違うのです。
ストックホルムに続いて
再びバスで迷子になっちゃいました。

でも、今日は我々には
つよーい味方があったのです。

携帯電話です。
これで友人宅に電話したら、
ランドマークとしてガソリンスタンドがあったので

それを伝えると場所を解ってくれて、
すぐに迎えに来てくれました。
ありがたかったです。

おうちにつくとおうちの周りや
お庭をぐるっと案内してくれてお食事タイム。

懐かしい手作りのスウェーデンの家庭料理を堪能し、
お話も弾み、
あっという間に時間が過ぎ去りました。
日本と比べると陽が高いので
ずいぶんゆっくりしてしまいました。

帰り道を不安に思ったのか、
ホテルまで送り届けてくれて友人とはお別れしました。

また、日本かスウェーデンで再会を誓って…。