どんぶりこぼればなし


 第二十七回  「新年早々・・・どうなっちゃうんでしょう?」


 新年明けましておめでとうございます。
 今年もおがわ医院をよろしくお願い申し上げます。

 今年のストーブリーグは野球ではなんと言っても松坂選手のポスティング移籍でしょうね。
 移籍の単独交渉権が60億って、一体これは何なのでしょう?
 スポーツビジネスがおかしくなってきているんじゃないかって本当に思います。
 あまりに現実離れした額なので、私もだんだん感覚がおかしくなってきました。

 サッカーではサンガは残念ながらJ2に落ちました。
 京都サンガFCと改名するそうですし、元日本代表の秋田豊選手と森岡隆三選手が入団することが決まったようです。
 加藤久さんもフロント入りされたようですし、J2降格してもなんか楽しみな感じがします。
 早くJ1に復帰できるといいですね。

  

 今日のどんぶりは新年早々、くら〜い話になりました。
 今回から病院の地域連携室の職員さんが新規参加してくださって、
 盛り上がっても良かったのですが…人数も少なかったせいもあるのか、暗めの話に終始しました。

 一言で言うと、現場で実感している状況から
 「一体、日本の医療制度は福祉はどうなってしまうんだ?」って事です。

 痰の吸引や体位変換等の処置を頻回に必要とする医療依存度の高い方が長期入院されていた
 「療養型病床群」が廃止されることは良く報道され知られています。
 介護保険の療養病棟は2011年中に全面廃止、医療保険の療養病棟も
 2011年度中に15万床に削減との方針が示されています。
 廃止され、病院を追われた患者さんはどうなるのでしょう?
 行き場がなくなってしまいますよね。

 そこで、在宅に療養の場を移すしかないだろうと言われています。
 しかし、在宅の現場にそれだけの方々を支えていくための訪問診療医、訪問看護、
 訪問リハビリ、デイサービスやデイケア、ホームヘルパー、入浴サービス等々の社会的資源は
 充分用意されているとは思えません。
 そこで、それに向けて、受け皿を用意しなければと地区医師会や府の医師会は
 委員会を立ち上げて色々議論したり、啓発のための研修会やシンポジュウムを
 開催しようと動き始めています。実は私もそういう委員会の委員として参加しています。

 しかし…会議で皆の意見を聞いていると、いつも何か違和感を感じるのです。
 何が違和感かって…。
 言葉で言うのは難しいのですが、例えば医療依存度の高い患者さんの受け皿を準備するために
 各医療機関に「どういう処置や検査ができるか?」なんてアンケートを取って
 その情報を開示しようという動きがあります。
 しかし…それを本当に利用できるのでしょうか??

 6年ほど前に、実は私も地区医師会の理事として情報を集めて開示しようとしたことがありました。
 しかし、残念ながら全く機能しませんでした。
 情報の一人歩きも怖かったし、そういう紙面の情報は利用できないという意見も耳にしました。

  

 情報の独り歩きというと…
 最近あったお話ですが、突然「往診をお願いしたい」と患者様のご家族が訪ねてこられました。
 お話を伺うと、奥様が「息が苦しい」と言って居られるとのことでした。
 相当以前から、動いたとき等の呼吸困難はあったらしいのですが、
 病院嫌いできちんと診てもらった事は無いとのお話でした。
 数日前から痰の量が増えて、呼吸困難が増強して、動くとしんどいというので
 病院嫌いとも言っておられない状況になり往診して欲しいとの相談でした。

 残念なお話ですが、こういうケースではなかなか往診を受けられない場合があります。
 先ずは、以前から基礎的に何か病気があって、その上に感染がおこって
 現在の状況になっておられると思われますよね。
 そうなると、今の状況を正確に把握しそれに対する治療方針を決定する必要があります。
 訪ねてきていただいたご家族にして見れば
 「往診するってホームページに書いてあるのに何でしてくれないの?」
 って事になるのかもしれませんが、往診や訪問診療でできる治療、
 検査等には限界があることも承知いただきたいと思います。
 往診するという情報が独り歩きしてしまっているということかな〜と思いました。

  


 また、最近の在宅医療関係の報道や講演会に参加すると
 「在宅で病院と同じ医療がケアができる」という文言が目立ちませんか?
 そんなこと言っちゃって、書いちゃっていいのかな〜と私は思っていました。
 私だけかな〜 と思っていましたが、どんぶり仲間もそう思っているようで、
 ちょっと安心? しました。

 そういう医療機関も確かにあると思います。
 在宅専門で、何人もの医師がチームで診療に当たっていて、
 訪問看護ステーションやヘルパーステーションも併設していて、
 いわゆるフル装備している医療機関ならできるのかもしれません。

 しかし、そういう医療機関ばかりが取り上げられ、在宅医療はこういうものだという情報が、
 概念が出来上がってしまうことを私は懸念します。
 多くの医療機関の医師は、外来診療を行い、学校医や産業医といった活動もし、
 医師会活動や健診事業といった活動もされています。
 その傍らで、訪問診療も行われているのが実情だと思います。

 そういう一般的な医療機関の訪問診療は「要らない」のでしょうか?
 「レベルが低い」のでしょうか?
 そうではないと私は思うのです。

 本当に多くの患者さんが療養型等の入所施設から在宅に戻ってこられたとき、
 在宅専門医療機関ではなく、一般的な訪問診療を行う医療機関の力がないと
 絶対に支えきれないと思うのです。専門性や高度の医療を必要とする患者様も
 帰ってこられるでしょうし、そういう受け皿も必要なのですが、
 そこにばかりスポットライトが当たってしまうと多くの一般的な医療機関は尻込みしていってしまいます。

 今回の診療報酬改正で出てきた「在宅療養支援診療所」もまさにそうでした。
 ハードルを高くするのではなく、むしろ低くして、多くの先生方に在宅に関わりを持っていただく活動が
 今後必要なのではないかと切に思います。そういう、一部の特殊な医療機関や地域にスポットが当たったり、
 当てようとする状況も私に「違和感」を感じさせるのだと思います。

 また、最近の介護老人福祉施設(いわゆる特別養護老人ホーム)の入所状況も話題に上りました。
 予想通り待機者が多くって入所困難は続いているようですね。
 よほどの状態でなければ待機者リストにも載らないなんて話もあるようです。
 一方で、今後認可される介護老人福祉施設はいわゆる「新型特養」といわれる施設で「個室」になっています。
 個室であるがゆえに、個別ケアが必要な入所者の方にはいいのでしょうが、
 いわゆる「ベッド代と食費の自己負担化」で15万円以上もの負担を強いられるようです。
 そうなると、年金生活の方にはとても入所できない施設になっていくのではないでしょうか?
 また、個別ケアが必要でない身体状況の方がでも、介護老人福祉施設に入所するためには
 個室に入らなければならない、「ベッド代」を支払わなければならないという矛盾も生じる事になります。

 本当にお金がないと老後の介護も受けられないという雰囲気になってきています。
 政府は本当にどういう社会を作ろうとしているのか…本当に国民はそういう社会を望んでいるのか、
 そうなっていくことを解っているのか…非常に疑問です。

 あ〜嫌だ、嫌だ、新年早々。
 来月はもっと楽しい話題で盛り上がりたいな〜と思っています。

  

    Next