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介護保険でこう変わる〜親の介護は安心か〜
第3回 在宅か老人ホームを利用するか

 A子さん(53歳)は、3年間、実母の介護をしています。A子さんの実母B子さんはは奈良県で1人暮らしをしていました。近所の方から「B子さんの様子がおかしいよ」と連絡があったのが3年前。外出したきり、自分の家が分からず警察に保護されたりもしました。A子さんがお見舞いにいっても、同じ話の繰り返しばかり。
 そこで、A子さんは思いきって実母を引き取り、同居することにしました。しかし、実母は夜、暗くなると不安になり、ごそごそ動き回ります。1日中片時も目が離せません。睡眠不足と過労が重なって、とうとうA子さんはノイローゼになってしまいました。

 こんな場合、介護保険の導入でどうなるのでしょうか。
 第2回で説明したように、A子さんは、市町村の窓口に申請します。直ちに調査員が家庭を訪問し、福祉や医療の専門家が集まった「介護認定審査会」での議論を経て、介護ニーズが判定されます。

 B子さんの場合は、6段階ある内の5番目。つまり、「痴呆(ちほう)で全面的な介助が必要」と判定されました。ここで、在宅サービスを利用するか、老人ホームなどの施設サービスを利用するかを、A子さんは選択できます。
 ところが、在宅介護することに対する家族の反応は鈍かったのです。中でも2人の娘は何かと繊細な年頃で、「おばあちゃんが同居すると、家庭が息苦しくなってしまうわ。どうしても引き取るというのなら、私たちが家を出ます」とまで言い出しました。A子さん自身も体を壊し、共倒れ寸前。イライラするA子さんは、動き回る実母をつい怒鳴ってしまうという悪循環に…。
 そこで、A子さんは在宅での介護をあきらめ、施設利用を希望しました。

 介護保険の対象になる施設には3種類あります。特別養護老人ホーム(以下、特養)は痴呆や寝たきりの方が利用する従来からの老人ホームで、自己負担は平均月額47000円。老人保健施設は特養ホームよりもリハビリ機能が充実しており、自己負担は平均月額50000円。そして、療養型病床群は特養ホームよりも医療が充実し、現在の老人病院に相当するもので、自己負担は平均月額61000円です。
 B子さんの場合、当面医療の必要はないので、特養ホームで新たな生活を始めました。A子さんは毎日のようにお見舞いに通っています。時折、娘たちも同行してくれるようになり、実母もうれしそうです。24時間つきっきりで介護に追われていたときには、実母に対して憎しみさえ感じ、怒りを爆発させたこともありましたが「お互いが離れる時間を持つことによって、かえって母と笑顔で接することができるようになりました」と話すA子さん。久しぶりに笑顔が戻りました。

 ただし、このような老人ホーム入所については、大きな問題があります。深刻な施設不足です。
 入所を希望しても、現時点では1,2年待ちが相場。そのため、2000年に介護保険が導入されても、老人ホーム不足は解消されそうにありません。つまり、このままでは介護保険料を支払い、介護認定審査により老人ホームを利用する権利があると判定されながらも、施設サービスが受けられない、という事態に成りかねません。
 1人月額2500円(平均)の保険料だけ取っておいて「老人ホーム入所は2年待ってください」となれば、市民は黙っていません。施設サービスの充実を急がねば、介護保険は空手形に終わってしまうでしょう。
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