やまのい和則の
     「軽老の国」から「敬老の国」へ


            第120号(2001/04/02)


 メールマガジンの読者に皆さん。
 まず、今日のメールマガジンは恐ろしく長い(今までで一番長い)
ことをまずお詫びします。今日の報告のトピックは3つ。

 痴呆性高齢者向けグループホームで泊まり込んだ報告。
 30日衆議院厚生労働委員会での、雇用対策法とグループホーム
についての私の質問。
 そして、神奈川県の質に問題があるグループホームに対して、国
と県の指導が入った報告(グループホームに指導が入ったのは日本
で初めて)です。


 さて、話は前後しますが、29日木曜日は午後2時から、翌日の
厚生労働委員会での私の質問への「質問とり」。私の衆議院第一議
員会館240号室の狭い部屋に、厚生労働省の担当者が8人も登場。
私の翌日の質問について打ち合わせ。

 私が7つの質問案を読み上げ、
「それはうちの課の担当です」と言って、それぞれの担当者が、
「その質問については、こういう大臣の答弁になると思います」と
答えるのです。「わかりました」と私が納得する場合もあるし、
「それは、おかしいでしょう。前回の委員会の答弁では、こうなっ
ていますよ」などとやりとりし、ストーリーを積み上げます。

 私は委員会質問が今回で7回目で少しはわかってきたのですが、
詰め将棋のように、自分の主張を、大臣や厚生労働省に、論理的に
認めさせ、自分の期待する答弁を引き出す戦いが、委員会質問です。

 かたや答える側は、「今そんなことを聞かれても前向きな答弁は
できません。こう聞いてもらえたら、こう答えられますよ」などと
言います。

 私が納得することもありますし、「それはおかしい。ここはきっ
ちり質問します。省内で議論して明日答弁してください」と反論す
ることもあります。

 この日の質問とりも紛糾し、1時間半かかった。

 メールマガジンの読者の皆さんは、
「なぜ、そんな下打ち合わせをするのか。ぶっつけ本番で大臣に聞
けばいいじゃないか」と思われるかもしれません。
しかし、ぶっつけ本番で質問して大臣を立ち往生させたとしても、
十分な答弁が得られなければ、質問した意味がありません。だから、
価値ある前向きな答弁を得るために事前に打ち合わせするのです。


 聞くところによれば、担当者が、こうやって質問の前日に質問と
りをして、どんな質問が明日の委員会で出るかを知り、すぐに上司
にそのメモをあげます。同時に、係長さんや課長補佐さんが、質問
への答弁の原案を書き、それを課長さんが書き直し、局長さんが
チェックし、という作業を徹夜に近い状態で、役所はするそうです。

 だから、この「質問とり」が夕方や晩遅くなれば、徹夜になるの
で、私は今回も午後2時でしたが、できるだけ前日の早いうちに
「質問とり」をするようにしています。


 この日の質問とりの具体的な議論を書き出せば、きりがありませ
んが、私は「グループホームには夜勤が必要であり、宿直で対応す
るのは労働基準法違反である。夜勤がつけられるようにグループホ
ームの介護報酬を一日も早く引き上げるべきだ」という趣旨の質問
をすると言いました。


 そのあと、晩は、家西悟議員のパーティーに出席。
薬害エイズの無罪判決の翌日であり、家西さんは、悔しい! 許せ
ない! と連発しておられた。パーティーには、私が今までお世話
になっている山本コータローさんも来ておられた。「走れ コータ
ロー」「岬めぐり」などの歌手であり、今は白鴎大学教授として環
境問題にも取り組んでおられる。


 パーティーのあと、あるグループホームに9時45分に到着。
グループホームの夜勤問題について質問する以上、現場の実態を改
めて確認したかったからだ。

 前回のメールマガジンでも書いたが、「明日、国会で質問するの
で今から2時間後に行って今日、泊まらせてほしい」と急に電話し
て、すぐに泊めてもらえる仲間がいるのが私の財産だと思う。
国会議員は現場から離れたら意味がないからだ。

 おまけに、その日の夜勤スタッフが偶然にもこのメールマガジン
の読者というラッキーもあった。


 まず、議論を整理せねばならないが、痴呆性高齢者向けグループ
ホームは「宿直」で対応できることになっており、介護報酬でも
夜勤を想定していない。
しかし、このグループホームでは「夜勤」で対応している。

 このグループホームの夜勤スタッフは、晩9時から翌朝8時半ま
で。まず、私が訪問すると、夜勤スタッフは、介護日誌を読み、
いろいろと書き加えているところであった。介護の仕事には、この
ようなデスクワークが意外と多いのだ。

 私はこのグループホームに来るのは3回目。
4年前、開所して1週間後にも来たことがあるので、来るたびに
居心地良さそうなホームになっていて嬉しい。

 「灯りは暗くしてあります。もう皆さん寝ておられますので」と
言われ、リビングの椅子に座る。 

 「今日は、ゆっくり皆さんも寝られると思いますよ」と言われた
ので、「なぜ、『今日は』なのですか。日によって違うのですか」
と尋ねると、「違いますよ。昼間、活動的に過ごされれば、疲れて
ぐっすり眠られます」とのこと。

 「今日は、皆さん近くの桜のお花見に行かれたんです。そして、
マクドナルドでハンバーガーとマックポテトを食べられました」と
のこと。

 ただし、9人の入居者のうち一人は行かないと言われたので、
8人が2人のスタッフとボランティアさんと共に出かけたという。
このグループホームは街の中にあり、ほぼ毎日、買い物や散歩で外
出している。近くで花壇を借りて、花の手入れもみんなでしている。


 このような話をすると、「入居者の症状が軽いから、いろんな活
動ができるのでは?」と思われるかもしれないが、入居者の要介護
度は、要介護2・3・4と3人ずつで、軽くはない。

 確かにグループホームにもいろいろある。当初から軽い痴呆性高
齢者だけを集めているグループホームもある。しかし、この日私が
訪問したグループホームは、私も今までかかわっているが、初期・
中期の痴呆性高齢者だが、ケアがゆきとどいているので、入居者が
落ち着いているのだ。


 わざわざ私を待っていて下さったホーム長さんは、
「夜のケアは非常に大事です。晩、ぐっすり寝られたら、日中も
元気にお年寄りは過ごせます。でも、晩、トイレ誘導や見守りがき
っちりできず、十分に寝られなかったら、そのお年寄りは昼間、
うつらうつらすることになり、その結果、晩、起きるようになり、
昼夜逆転で、痴呆症は悪化します。昼間、活動的にして、晩、ぐっ
すり寝ることができれば、痴呆症のいわゆる問題行動や周辺症状と
言われるものの多くはなくなります」という。

 「ただし、ここで重要なのは、いくら晩ぐっすり寝ると言っても、
トイレに起きることもあるし、寂しくなって目を醒ますこともあり
ます。その時にきっちり対応できないと、お年寄りは睡眠不足にな
り、昼夜逆転になります。だから、グループホームには宿直でなく
て、夜勤が必要なのです」とホーム長さん。

 久しぶりに会ったホーム長さんが、「山井さん、疲れた顔をして
おられますね」とおっしゃるので、「毎日忙しくて、もうボロボロ
ですよ。私にこそグループホームのゆったりした生活と、グループ
ホームの癒しが必要です」と言うと、笑っておられた。

 私たちがこんな話を薄暗い居間で小声でしている間にも、30分
に一人くらいお年寄りがトイレに行かれる。そのたびに、夜勤スタ
ッフが付き添い、トイレに誘導する。
「逆に、付き添われるを嫌がる入居者も2人います。しかし、残り
の入居者は、夜中トイレには行けても、自分の部屋に帰れない。
トイレに行けても自分でパンツをおろせない。トイレに行けてもす
でに失禁してしまっていて、その場でパンツやオムツを替えねばな
らない、というケースもある。さらに、最高齢の方は、寝ぼけてト
イレに歩く途中に転ぶ危険性があるので、付き添います」とのこと。


 ここは、本当に居心地のよいホームだ。「入居希望者も多いでし
ょう。待機者は何人ですか」と尋ねると、「10人待っておられます。
でも、待たないで下さい、と言ってあるんです。待たれても、入居
者の方が1年後に亡くなるか、2年後に亡くなるかわからないんで
すから。だから、ほかのグループホームを紹介しています」と。


 しかし、グループホームにものちほど述べるように、ピンから
キリまである。グループホームだから良いということにはならない。
 
 なお、このグループホームは入居費は月15万円。特別養護老人
ホームの2倍以上で高い。利用料が高いことが、グループホームの
問題点の1つだ。

 9人の入居者のうち2人は、「寂しいから」と電気をつけたまま
寝ている。 

 このグループホームは入居者は、9人中8人が自立歩行ができる。
一人は高齢で少し介助が必要。

 先日、入居者が一人亡くなられた。家族も泊り込み、グループホ
ームでターミナルまで面倒を看られたのだ。

ホーム長さんは、「痴呆症のお年寄りには環境の変化が一番良くな
いのですから、死期が近づいたからと言って、簡単に施設や病院に
移って下さいとは言いたくありません。

家族もこのグループホームに最期まで置いてほしい、と願われまし
たので。でも、その方の死は悲しかったですが、このグループホー
ムで最期まで看取れたことは嬉しかったです。夜勤だから、ターミ
ナルまで対応できたのです」という。

 このようなグループホームでのターミナルを希望するケースがこ
れからも増えてくるであろう。ますます宿直では全く対応できない。

 このグループホームのお風呂をのぞいた。
ここでは、日中から夕方にかけて入居者は入浴する。ここは、当然、
一人向けの家庭的な風呂だ。入浴といえば、私はある老人病院での
実習を思い出す。汚い話になるかもしれないが、お許し頂きたい。


 ここは、当然、一人向けの家庭的な風呂だ。入浴といえば、私は
ある老人病院での実習を思い出す。汚い話になるかもしれないが、
お許し頂きたい。

 老人病院や特別養護老人ホームの現場を少しでも理解するため
に、今までいろいろやってきた。特別養護老人ホームのベッドで
3日間、オムツをつけて生活したおぞましい記録は私の拙著「体験
ルポ 日本の高齢者福祉」(岩波新書)に出ている。

本には書いてないが、実は、その時、オムツ体験だけでなく、わざ
と片手をベッドの柵にヒモで結んで、「身体拘束」体験で寝ること
も経験した。寝返りも打てず、恐ろしい経験だった。気分が悪くて
吐き気までしたので、一晩で止めた。「縛られる」というのは、
想像を絶する心理的打撃を本人に与えることを痛感した。


 また、老人病院で入院している痴呆症のお年寄りと一緒に入浴し
たこともあった。朝から50人くらいがこのお風呂につかる。まあ、
銭湯みたいなものだ。しかし、看護婦さんから、「山井さん、アホ
なことやめときなさい、病気がうつるよ。先日も、この湯船にはウ
ンチが浮いてたんだから」と叱られた。

 話はグループホームに戻るが、また、お年寄りがトイレに向かっ
て歩いている。

 よそ者が滞在すると、グループホームの平和なくつろいだ雰囲気
を壊し、入居者に混乱を与えかねないので、できるだけ私も入居者
に見つからぬよう、静かに行動する。


 さすがに、翌日の委員会では、眠たい顔では質問できないので、
徹夜はできない。そこで、私はトイレの横の居間に、お布団を敷い
て、2時から仮眠。夜勤スタッフの方は、もう少し起きていて、
介護日誌を書いたり、普段からたまっている書類書きをしながら、
お年寄りがトイレに行く際の、介助などをするという。


 なお、このグループホームを訪問するに先立ち、私の知り合いの
京都のグループホームに電話をした。ちょうど、私の知り合いが宿
直であった。

 彼女に聞いた。「宿直ということは今晩、寝られるんですか」。
「寝られませんよ。寝るようじゃ、よい痴呆ケアなんかできません
よ。今晩は、1時間おきにお年寄りの部屋を訪問して、様子をみて、
オムツ交換やトイレ誘導をします。夜中に目を醒まして眠れないお
年寄りには、一晩中、付き添うこともあります」とのこと。

 「じゃあ、1時間おきに目覚まし時計をかけるのですか」
「いえ、だから、ほとんど寝ないんですよ。お年寄りが起きてトイ
レに行こうとするとすぐわかるように、居間のコタツのところで日
誌を書いたりして起きています」
「それじゃあ、宿直じゃなくて、夜勤じゃないですか」
「そうですよ。でも、介護報酬が低くて夜勤の給料が出せないので、
宿直にしているんです」

 「宿直の場合、どんな勤務形態なのですか」
「私は、今日の11時から7時まで日勤で働いて、そのまま、明日
の7時まで12時間宿直です。実際は、20時間働き通しです。夜中
にお年寄りが寝れないことも、トイレに行くこともありますから、
ウトウトと横になることはありますが、熟睡はできません」

 「明日朝7時に宿直が終わったら、すぐに帰れるんですか」
「そんなことないですよ。やはり、翌日のスタッフへの引継ぎなど
もありますから、気がつけば帰るのは朝の8時か9時です。でも、
宿直だから、宿直の当日は休みですが、その翌日はまた日勤になる
のです」

 このグループホームも非常に素晴らしいケアをしているが、それ
を支えるスタッフは大変である。そこのスタッフは言う。
「早く夜勤を制度かしてもらわないと、職員が身体を壊します」と。


 今回の質問にあたって、この「宿直・夜勤」問題について調べた
ところ、横浜市では、グループホームは「夜勤でないと認められて
いない」とのこと。

 横浜市は、日本で最もグループホームに力を入れている自治体の
1つで、現在29ヶ所のグループホームがあるが、すべて「夜勤体
制」でやっているという。

 早速、横浜市の担当者に聞いてみると、
「夜勤でないと認めないというわけではありませんが、横浜市では
介護保険以前からモデル事業としてグループホームに補助金を出し
ていて、その時から夜勤でやってもらっていたので、今でも『夜勤
が望ましい』とお願いしています。実際、宿直ではまわらないと思
います」とのこと。

 結局、夜勤体制を持つよいグループホームでは採算が成り立ちに
くく、増えにくいことになってしまう。


 さて、2時に仮眠に入った私だが、やはり、30分に1回、一人く
らいは、お年寄りがトイレに行き、夜勤スタッフがそれに付き添っ
ている。そのたびに、私も目が醒める。

 4時ごろには、もう本格的にお年寄りが起き出し、顔を洗ったり、
お年寄り同志の話し声も聞こえる。

 夜勤スタッフも4時からは朝食の準備も含めて、大忙しです。
私も一度5時ごろ起き上がろうとしたのですが、入居者である痴呆
症のお年寄りのから、「もう少しゆっくり寝ておいてくださいね」
とやさしく声をかけられ、断るわけにもいかず妙に納得して、「わ
かりました。もう少し寝かせてもらいます」と再びふとんに入る。

 さすがに、6時には数人のお年寄りが起き、居間の電気もついた
ので、私も起き上がる。昨夜のことを夜勤スタッフに尋ねようと思
ったが、夜勤スタッフはそれどころではない。9人の入居者のお世
話でてんてこ舞い。一人の歯磨きを手伝い、朝食準備をし、寝間着
からの着替えを手伝い・・・・。息つく暇もない。

 あるおばあさんは、廊下の家具のぞうぎんがけをしている。
あまりきれいにはなっていないようだが、「・・・・さん、ありが
とう」と夜勤スタッフがやさしく声をかける。

 最後の入居者が起きてきたのが7時前。ここでは、起床時間も自
由だ。

 あとで聞いた話だが、夜勤スタッフは2時過ぎから4時ごろまで
トイレの横に布団を敷いて仮眠したという。しかし、30分に一度
くらいお年寄りがトイレに行くので、そのたびに起きて介助したと
いう。


 7時からみんなで朝食。ただし、一人の入居者は、気が進まない
ようで、食卓に加わらず、一人で居間の端っこで、タバコを吸って
いる。小規模だけど、個人の意思を尊重している。これがグループ
ホームの良さだ。

 今日の朝食は、トーストとソーセージ、ほうれんそう、目玉焼き
など。基本的には、みんな自分で食べられる。しかし、トーストの
ジャムで手がべたべたになっている方や、トーストをスープにつけ
て、ごちゃごちゃにしてしまっている方もいる。

 夜勤スタッフのその介助などでまた、大忙し。やっと、みんなが
食べ終わりかけた7時半頃に夜勤スタッフもテーブルに加わり、朝
食。グループホームでは、スタッフも入居者と一緒に食事を食べる
のが特長だ。

 「こののどかな雰囲気がいいですねえ。私もここに来させてもら
うのは3回目ですが、来るたびに良くなっています。皆さん、穏や
かな顔をされているし」と私が、夜勤スタッフの方に話すと、
「誉めてもらって嬉しいねえ」と私の隣の入居者の方がおっしゃる。
この方は要介護3の痴呆症なのだが、私が、「ここを誉めている」
ということは直感としてわかっているのだ。


 朝食が終わってからが、また、忙しい。これはグループホームの
カラーだと思うが、このグループホームでは、わりと、入居者が
自立していることもあり、入居者に役割を持ってもらっている。

 「・・・さん、お皿洗い手伝って」
「・・・さん、カーテンをあけてもらえますか」
「・・・・さん、掃除機をかけてもらえますか」。
ちなみに、この掃除機をかけている方は、まだ50代の若年性痴呆。
自分はこのグループホームで働いていると思っておられる。

 夜勤スタッフにすれば、自分でやったほうが早いのであるが、少
しずつ一人一人に役割と
「自分はこのグループホームに必要な人間なんだ」と存在意義をも
ってもらうのが、グループホームケアの重要なポイントだ。


 私が国会の委員会質問の原稿を書くために、部屋のはしっこでこ
のパソコンを打っていると、「お茶どうぞ」と、一人の入居者がお
茶を持ってきてくださる。やさしい。

 その方は、私の横にちょこんと座って、
「いつかここにお見えになったことがありますね」と私に言う。
「ええ、今日で3回目です」と言うと、「ああ、そうですか」との
こと。しかし、5分すると、また「いつかここにお見えになったこ
とが・・・・」と同じ質問。私が答える。すると、また5分後に同
じ質問・・・。と続いた。

 そして、「お茶のおかわりをどうぞ」とのこと。一気に飲み干し、
二杯目をもらう。また、「いつかここに・・・・」と同じ質問。
そして、「お茶のおかわりを・・・」。また、3杯目をもらう。
「熱いかもしれませんので、気をつけて飲んで下さいね」とのこと。

 痴呆症のお年寄りはやさしいのだ。そして、世話好き。
しかし、自宅や大規模な施設では、この痴呆症のお年寄りが世話を
する相手がなかなかいない。痴呆症のお年寄りはお世話される一方
の存在になりがちだ。しかし、グループホームでは一人一人のお年
寄りに役割と出番を持ってもらう。


 それにしても、グループホームの夜勤スタッフは、偉いと思う。
痴呆ケアスタッフの鏡である。私の多くのグループホームや特別養
護老人ホームや老人病院を過去10年まわっているからよくわかる。

特に、痴呆ケアはスタッフが大事だ。

決してお年寄りを怒ってはならない。
せかしてはならない。
至れり尽せりでもダメ。
適度に出番と役割を持ってもらう。
それで、「ありがとう」「おかげで助かったわ」とお礼の言葉や誉
め言葉を連発する。
動作も言葉もゆっくりしたペースが必要。
しかし、実は、やるべき仕事は多く、一人で多くのお年寄りをお世
話せねばならない。
愛と忍耐と勉強のいる仕事だ。

 「グループホームは人なり」と言える。小規模であるがゆえに、
スタッフの人柄、人間性、専門性、力量が問われる。


 8時にグループホームを後にして、国会に向かう。
「そろそろ失礼します。お世話になりました」と挨拶すると、
「どこに行かれるんですか」とお年寄り。
「出勤です。仕事に行ってきます」と言うと、
「あっ、そうですか。また、来て下さいね」と言って下さる。
掃除機を使っていた若年性痴呆の方も、
「いつでもまたお越しください」と言って下さる。

夜勤スタッフの方が、
「私たちが笑顔で暮らせるように、これから国会で仕事をして下さ
るんです」と説明するが、もちろん、その言葉を理解できる入居者
はいない。


 グループホームを出て国会に向かう。実は、今日はあるホテルで
菅直人さん主催の朝食勉強会だったのだ。グループホームでの朝食
はなかなか経験できないので、菅さんの勉強会はさぼってしまった。

 さて、国会事務所で少し国会質問の準備。
 たった一晩のグループホーム滞在だったが、改めて感じたのは、
グループホームのスタッフは、晩はゆっくり寝ていられないという
こと。

 なお、有難いことに坂口力厚生労働大臣は、2週間前にあるグル
ープホームを視察されているという。

そのグループホームに電話して、その時の様子を聞く。何か国会質
問の参考になればと思って。

ホーム長さんは、「夜間は宿直ですが、実質上は、夜勤に近い仕事
をすることもあります。私たちも困っているんです。制度では宿直
ということになっているけど、実際は、夜勤に近い業務だし、この
グレーな状況を何とか整理してほしい」とのことだった。


 朝の10時50分から厚生労働委員会がスタート。
私の出番は11時35分から12時05分まで。この日は、雇用対策法
の法案審議なので、冒頭、雇用対策のことと、痴呆ケアの人材が今
後必要になることなどを述べて、グループホームの話に入った。

 まず第一問は、「坂口大臣は先日、グループホームを視察された
そうですが、ご感想はいかがでしたか?」の質問でスタートした。

 「とても良かった。グループホームに入って、穏やかになったお
年寄りも多いと聞いた。しかし、現場からは、グループホームに入
って、落ち着くと介護度が下がって、介護報酬が減るので、経営が
苦しくなる、よいケアをすると経営が苦しくなるので何とかしてほ
しい、という声を聞いた」と坂口大臣は答弁。

 その後30分間、議論を戦わせた。前回のメールマガジンでもお
伝えしたように、「痴呆性高齢者向けグループホームには夜勤が必
要だ」というのが私の質問の趣旨だったが、前向きな答弁は得られ
なかった。

 詳しく書きたいが、書き出すと「泥沼」になるので、あえてやめ
ておきます。前向きな答弁は得られないし、介護報酬の引き上げも
2年後の見直し時期までわからないということで散々な結果でし
た。なかなか壁は厚いと痛感。


 この議事録は、衆議院の委員部が作成しますので、2週間後くら
いには出ます。私のホームページに掲載します。ちなみに、今でも
ホームページ( http://www.yamanoi.net/ )から映像で見ることが
できます。ご覧になった方は、是非、ご感想をお聞かせください。 


 グループホームの介護報酬を引き上げることは、グループホーム
関係者の悲願ですが、それに向かっては、やはり、全国で

「グループホームは必要だ」
「グループホームは良いサービスを提供している」
「いまの介護報酬では無理がある」

という声を大きくあげていく必要があると思います。

 つまり、これは私が政治家を志した原点でもあるのですが、声の
大きな業界団体をバックに持たない問題は、国会では取り上げられ
ないのです。痴呆性高齢者も100万いますが、声をあげられませ
ん。そのご家族もなかなか大きな声は、あげられません。グループ
ホームの協会も、大きな声をあげられません。

 グループホームを増やそう!

 といううねりを全国に広げるしかありません。そのための運動媒
体に、このメールマガジンがなってほしいと願っています。正直言
って、私の民主党の中でもグループホームへの関心はまだまだです。

私の努力不足でもあります。

 繰り返しになるかもしれませんが、私がグループホームにここま
でこだわるのは、グループホームというサービスが、

「利用者が主人公」
「一人一人を大切にする個別ケア」
「地域で暮らせるノーマリゼーション」

という21世紀の福祉のシンボルだと思い、グループホームを増やす
ことが日本の福祉に革命を与える突破口になると思うからです。


 さて、今日のメールマガジンは長くなり、ご迷惑をおかけしてい
ますが、もう1つ大きなトピックがあります。それは、神奈川県の
あるグループホームへの国と県の指導についてです。


 グループホームの質が最近、問題になっています。
劣悪な質の悪くグループホームも増えています。そんな中で、
神奈川のこのグループホーム(株式会社経営)に日本で初めて県と
国の監査が入り、さる3月29日に改善の指導命令が下されました。

2ヶ月以内に指導に沿って改善しなければ「介護保険事業者として
の認可を取り消す」というものです。

 指摘された問題は、「相次いだお年寄りの転倒事故などに適切な
緊急対応ができていなかったり、人員配置面や料金徴収に不適切な
面がみられる」などの点です。

一言で言えば、「グループホームとは何か」を十分に理解せずに
グループホームを開設し、お年寄りへのサービスの質よりも、経営
を優先させたということです。


 私は、「とうとう来るべき時が来たか」という悲しみを持って、
このニュースに接しました。老人病院のベッドで縛られている痴呆
症のお年寄りの姿に涙し、1989年にスウェーデンでグループホー
ムに出会い、希望を見出し、日本でグループホームを普及させるた
めに、
「グループホームはいいんだ」
「グループホームを増やそう」
「グループホームが痴呆ケアの切り札なんだ」

と10年以上、運動し、講演し、本を書き、そして、グループホー
ムを普及させるために議員にまでなった私にとって、国や県から指
導を受ける悪いグループホームがとうとう発覚したということはあ
まりにも悲しいことです。

 「グループホームといっても、良いものだけではない、悪いグル
ープホームもある」と、グループホームの評判も低下するでしょう。

グループホームを増やそう、という運動の輪を広げる時に、こんな
事件が起こることは残念無念です。

 もちろん、私もグループホームを増やす過程では、いつかは悪い
グループホームが問題化することはあるだろうと覚悟はしていまし
た。

しかし、悲しいです。


 このグループホームについても、さきほどの私の委員会質問と同
様に書き出せばキリがないので、あえて詳しくは書きませんが、非
常に重要なことなので、新聞報道を私のホームページ
( http://www.yamanoi.net/ )に掲載しました。


 この問題をしっかり教訓としないと大変なことになります。この
ような悪いグループホームがあるからこそ、厚生労働省は「今より
介護報酬を引きあげれば、悪徳グループホームが増えるからあげら
れない」と言うのです。

 深刻なのは、行政担当者は、
「今回問題になったグループホームは、氷山の一角。金儲け目当て
にグループホームの何たるかも十分に理解せずにグループホームを
開設したいと相談に来るケースが多く困っている」と言っている。


 実際、先日のメールマガジンでも流したように、厚生労働省も
グループホームの質の確保に危機感をもち、4月からグループホー
ムに対する指導強化に乗り出します。

 それがしっかり機能することを祈っていますが、同時に、事後で
はなく、事前にいかにチェックするか。今回もグループホームから
の内部告発があったので、県の監査が入り、問題になっただけであ
り、内部告発がなければ、何ら問題は発覚していなかったのです。

 その意味では、似たようなグループホームの例は全国各地にあり
ます。厚生労働省のサービスの質の評価基準をつくって、グループ
ホームのチェックリストに対して、
☆自己評価(自分で自分のグループホームについて各項目が達成で
  きているかチェック)、
☆相互評価(近隣のグループホームのホーム長に訪問してもらいチ
 ェック)、
☆第3者評価(第3者である専門家が訪問しチェック)

という方法で質を確保することを目指しています。

 このことを通して、グループホームの質を高め、同時に、量を増
やさねばならないと思います。

 以上、非常に長い長いメールマガジンで申し訳ありませんでした。
 3時間もメールマガジンを打ってしまいました。
 このグループホームの問題は今後も報告を続けます。
              やまのい和則 拝


<お知らせ>  一般傍聴歓迎!

 民主党「介護保険を良くするワーキングチーム」会合
 4月4日(水)午前9:30−10:30
 衆議院第二議員会館 第一会議室にて

 内容
 厚生労働省の介護保険担当部局からのヒヤリング
「介護保険 1年目の現状と課題 −各自治体の調査報告などから」

 介護保険がスタートして1年で、各自治体での実態調査が出てお
り、それを踏まえて、厚生労働省もさまざまな取り組みをしていま
す。また、2年後の介護報酬改定に向けての議論もスタートします。
そのヒヤリングです。

とても参考になる内容で、民主党議員だけで聞くのはもったいない
ので、ご関心のある方は傍聴にお越し下さい。
 事前にやまのい事務所(電話03−3508−7240)にお電
話下されば、会館に入る手続きをします。
 なお、この会合から、「介護保険を良くするワーキングチーム」
は、座長が私、事務局長が中村哲治議員になります。

   (2001/04/02現在 読者数 1218)

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