悪循環から良い循環へ〜


京都府介護老人保健施設  
介護福祉士 木村卓史

【はじめに】

 高齢者の自立支援に向け身体拘束が禁止され、「身体拘束ゼロ作戦」として拘束のないケアの実現に向け様々な取り組みが進められている。

当施設において、実態調査行ってみると100名の入所者のうち、つなぎ服8名、ベット4点柵15名、拘束はしない方が良いと思うがやむを得ないと感じているスタッフが82%もあり、身体拘束ゼロへの道のりが遠く感じられた。

そこで身体拘束廃止委員会での勉強会、マニュアルつくりと平行し、入所者一人ずつに焦点を当て取り組みを開始した結果、スタッフの意識改革ができ身体拘束ゼロに向け前進する事ができた。

事例を通して報告する。


【経過】

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O氏 78歳 要介護度4 痴ほう性老人ランクW

入所時のO氏は、急な立ち上がりのため安全ベルト使用、不潔行為のため終日オムツ・つなぎ服着用。痴ほう症状として、夜間せん妄、脱衣行為、暴言暴力がみられた。家族も骨折を恐れ、抑制して欲しいとの要望である。

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そこでO氏のアセスメントを行い、家族と共にケアの方向性を決めた。

1 安全ベルトを使用せず随時見守る。危険を予測し訪室回数を増やす。
2 不潔行為は不快感が原因と考え、清潔を心がけ排せつリズムをつかむ。
3 自ら起き上がり下肢を動かしていたため、筋力トレーニングをすることで歩行が可能と考え、リハビリプログラムを作成した。

【結果ー考察】

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プラン実施2週間は転倒の危険が何度も見られたが、行動を制限せずスタッフが必ず付き添って行動した。

つなぎ服をやめると、不潔行為、オムツはずしがあった。

オムツでは、かさ張り違和感があり、また尿失禁後のパットが不快へとつながったためトイレ誘導し、終日リハビリパンツにて排せつリヅムをつかんだ。

3ヶ月の期間を要したが、自ら尿意を訴えることができるようになり、夜間では自らポータブルトイレにて排せつを行えるようにまでなられた。

また、時間の経過と共に自力歩行しようとする本人の意志が見られ、筋力アップと共に4ヵ月後にはシルバーカー歩行まで可能になった。

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この事例を通じ、今まで行っていたケアが過剰予防といえるのではないかと感じた。

拘束廃止に取り組んだことでスタッフの質の向上が図られたと考えられる。

1

自由に歩行できることが、精神安定につながり、問題行動が無くなった。

また抑制を外したことにより、表情は明るくなり自ら話しかける場面が多くなった。 

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2

拘束をしてでも安全第一を考えていた家族も、ひとつひとつ拘束が外れていく課程で自由を奪われていた親の姿を思い浮かべ、苦悩し後悔していた。

拘束をしないことにより「自由」になれるのは入所者だけでなく、家族の心も開放された。

3)

拘束は最終手段と考え、なぜ必要なのかの原因を見つけ出し、できる限りの、ケアでカバーしようとするアセスメント能力が向上した。

拘束廃止委員が発足し、事例検討を行っていく中で再度実施調査を行ってみると、つなぎ服0名。ベット4点柵3名、拘束はやむを得ないと感じているスッタフは、17%へと大幅に減った。

今後の対策として、つなぎ服は排せつケアの工夫で不要となる見通し。

不快なオムツ状態を放置せず排せつリズムをつかみ随時交換する。

紙おむつの異食行為の対応には布オムツとする。

ベット柵への対応としては見守りの強化とバットの高さ調節、床に直接マットレスをしくなどの工夫を考えた。

 高齢者を拘束することにより、自由が奪われ身体機能の低下が生じてくる。

その結果、二次的な障害を招くこととなる。

それが悪循環となるのである。

高齢者の自立支援に向け、良い循環に変えていかなければならない。

今後も施設独自のマニュアルを作成し、入所者ひとりひとりの状態に合わせた個別ケアを充実させ、良い循環、拘束ゼルに向かって努力していきたい。

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【終わりに】

 自立支援が目的である以上、拘束の介護ではなく見守りの介護でなければならない。

家庭復帰施設である以上「拘束したままでは家庭に帰せない」をスタッフ全員の意識目標とし、今後も入所者のための介護を考えていき、また職員個々が誇りとやりがいのあるケアを喜びとして実感できるようにしていきたい。

           以上

平成13822日 全老健東京大会発表


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