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上京デイサービス体験ルポ

〜到着すると顔つきがやわらぐ〜
 在宅福祉サービスの中で、最も人気が高いのがデイサービスです。これは、介護を必要とするお年寄りをデイサービスセンターで昼間預かるサービスです。そこでは、看護婦さんや介護職員といったプロのスタッフが介護をしてくれます。
 デイサービスセンターは老人ホームに併設されていることが多いですが、独立した建物(単独型)の場合もあります。なお病院などでも、日中、お年寄りを預かるサービスをしています。こちらは、デイケアと呼ばれ、そこはデイケアセンターと呼ばれています。
 デイサービスセンターで行われているのは主に、健康チェック、入浴、昼食、カラオケなどのレクリェーション、誕生会などの行事です。

 ここでは、京都市上京区にある京都市上京(かみぎょう)老人デイサービスセンター(以下、上京デイ)の例を紹介します。
 ここは、老人ホームの併設ではなく、単独型のデイサービスセンターです。利用料は1日、1000円(送迎、昼食、おやつ、入浴付き)で、利用するには福祉事務所に申し込みます。

 ある小雨模様の朝、送迎の車に乗って、奥田カツさん(88歳)の家を訪れました。ベルを鳴らすと待ってましたとばかりに、カツさんとその娘の菊江さん(58歳)が出てきました。「おばあちゃん、学校から迎えに来はったよ」と菊江さん。
 そう。痴呆症のカツさんはデイサービスのことを学校だと思っているのです。足下のふらつくカツさんを車に乗せてから、菊江さんは職員さんにカツさんの様子を伝えます。
 「昨夜も大変やった。『こんな毒のはいったもん、食べられますかいな!』と言って、ごはん食べはらへんし、『便所行こうか』と言ってもてこでも動かへんし。そのうち、おもらしして、シャワーできれいにしようとしたら、『殺される』と大声をあげて騒いで、大変やった。夜中には素裸で、私ら夫婦の寝ているところに来て、花笠音頭を踊って、寝えしまへんでした。便も3日間出てませんし・・・・」。菊江さんはたまっている愚痴を一気に職員さんに吐き出してました。
 菊江さんにとっては、母をデイサービスに送り出すときが1週間で1番ほっとします。週に2日、朝10時から夕方4時まで自分の時間が持てることになります。残りの5日は1日じゅう痴呆症のカツさんから目が離せません。
 車で10分、上京デイに着くと、カツさんの顔がコロッとやわらぎます。待っていた職員さんとボランティアさんが、「カツさん、よく来たね。おはようさん」とカツさんに声をかけます。毎日20人程度のお年寄りが上京デイを利用しています。この日は10人の職員だけでなく、ほぼ10人のボランティアさんも来ていました。

〜まずは入浴、午後はカラオケ〜
 今日は月曜日。3台の車で、上京区内から16人のお年寄りを集めてきます。5〜6人を1台の送迎車で順に拾いながら戻ると、40分〜50分かかります。普段家でじっとしているお年寄りなどは、この車での移動だけで疲れてしまいます。利用者の7〜8割が痴呆症で、8〜9割がおばあさん。週に1回の人もいれば、週4回の人もいます。
aunt  10時ごろに到着してからは、お茶を飲んで一服。その後、順番にお風呂に入ります。大柄で足腰が不自由なカツさんは、家ではなかなかお風呂に入れません。「やっぱり入浴が助かります。家のお風呂では、2,3人の介助がないと入れない。デイでお風呂に入れてもらえて、大助かり」と菊江さんは話します。お年寄りにとっても、お風呂が何よりの楽しみです。
 入浴を終えると、カツさんは別人のように笑顔になりました。入浴の後、しばらく貼り絵をして楽しみます。自分でできないお年寄りには、ボランティアさんがついて一緒に貼り絵をします。
 昼ごはんの時間。カツさんは食欲がなさそう。勧めても「お腹すいてない」とそっけないのです。でも、若い男性の職員が「カツさん、どないしはったん。一緒に食べましょう」とやさしく声をかけると、急に嬉しそうに食べ始めます。カツさんは若い男性職員の言うことなら聞くのです。この愛嬌が何ともいえず微笑ましい。
 午後はカラオケ大会。演歌のうまい職員さんが「岸壁の母」「東京だよおっかさん」を熱唱し、お年寄りも大喜び。お年寄りも順番にナツメロを歌います。懐かしいメロディーがいっぱい流れて、カツさんも嬉しそうです。
 3時過ぎにカツさんたちを送迎車で家まで送りました。菊江さんが出迎えます。半日の休みのせいか、菊江さんは朝よりもにこやかな笑顔です。今日、菊江さんは久しぶりにパーマをかけに行ったそうです。
 「上京デイのおかげで週に2回、命の洗濯ができます。心に余裕ができて、以前よりおばあちゃんにやさしく接することができるようになりました」と菊江さんは話します。普段は夜も手がかかるカツさんですが、デイサービスの日は昼間、活動的に過ごし、いろんな人に出会うせいか、晩はぐっすり眠ります。

〜「お元気そうなお年寄りが多いですね」!?〜
 デイサービスは、お年寄りを元気にさせるだけではなく、介護する人にとっても貴重な息抜きの時間となります。
 菊江さんの家は、自営業を営んでいます。ですから、徘徊が激しく、じっと座っていないカツさんを看るつらさから、夫婦仲までおかしくなりそうでした。「おばあちゃんが上京デイに行っている間に主人と話ができ、お互いをわかりあえるようになり、夫婦関係もよくなりました」と菊江さんは言います。

 その他にも、この上京デイを利用しているご家族の感想をいくつかご紹介しましょう。

・Aさん、娘・54歳 〜母も自分もイライラがなくなった〜
 「痴呆が進んだ両親を2年前から引き取って介護しています。母の徘徊・自分の家族のことで、精神的に追いつめられ、つらかった。現在は、週2回、両親ともに上京デイを利用しているおかげで、両親と離れる時間を持って、痴呆の人とのつきあい方を少しずつ理解できるようになりました。両親も生活にリズムができ、精神的にも落ちついてきています」

・Bさん、夫・78歳 〜妻の笑顔がうれしい〜
 「1番困っていることは、トイレ介助と衣服の着替えの手伝いです。こちらの思う通りの行動をとってくれないので、つい力任せになったり、イライラして怒ってしまいます。上京デイを利用することで、プロの看護婦さんや介護職員さんからアドバイスも受けられる。何より妻がデイからの帰り、笑顔で送迎車から降りてくる。そんな姿を見てホッとします」

・Cさん、長男の妻・43歳 〜家族の生活もっと大事にしたい〜
 「子どもが小学生で、育児真っ最中の私ですが、親の介護のために、人ができることが自分ができないのは、ストレスになります。姑がデイに行っている時は、子どもの行事にも参加できるし、親同志のお付き合いにも参加できます」

 全国社会福祉協議会の調査(1988年)によれば、75%のお年寄りがデイサービスにより元気になり、83%の家族が「デイサービスにより介護の負担が軽くなった」と答えています。
 このように素晴らしいデイサービスですが、家族の苦労もあります。朝、デイサービスの車に乗るときには混乱して「どこに連れていくんや!」「私を追い出す気か」と大騒ぎするお年寄りもいます。家族はお年寄りが車に乗ってくれると、ほっとして見送ります。帰りは、お年寄りもニコニコ顔で帰宅します。
 上京デイの看護婦である鎌田松代さんは、「見学に来た人は『お元気そうなお年寄りが多いですね』という感想を持つ人が多いです。でも、このお年寄りたちも家では大暴れしたり、ベッドで寝たきりだったりします。そんなお年寄りも、外出し、みんなと接すると穏やかに元気になられます」と話した。

〜スーパーへショッピング〜
 上京デイでは他にも、お寺見学、スーパーへ買い物、年末には忘年会、1月の新年会、2月の節分、3月はひな祭り、4月は花見などの楽しい行事があります。家に閉じこもっていては味わえない季節感が上京デイでは味わえます。

 私もスーパーへの買い物に同行しました。まわりのお客さんたちは、私たち車いすの一団に目をまるくされますが、人の目など気にしてられません。
 このショッピングは2,3カ月に1度の行事ですが、もう何年もショッピングをしたことがなかったという人が多いんです。だからおばあさんたちはスーパーに来るなり、目はらんらんと輝きだします。
 松太郎さん(81歳)は、脳卒中の後遺症で言葉が不自由です。食品売場を回りながら「どれがいいですか?」と私がたずねます。何周まわっても、無口な松太郎さん。かごが一杯のおばあさんたちとは対照的です。でも、やっと松太郎さんが「かつおのたたき」を指さしました。
「おっ、お酒のつまみですか」
「うん、うん」
 嬉しそうに松太郎さん。さば寿司も買いました。
 次に松太郎さんは、子ども向けのお菓子売場に行けと指さします。ガムやチョコレートとは、どうやら孫へのおみやげらしいです。
 「松太郎さん、お孫さんにばかりじゃなくて、愛する奥さんにはおみやげないんですか?」職員さんが声をかけます。悩んだ末、松太郎さんは恥ずかしそうにピンクのハンカチも指さしました。
 30分後に集合。1人の職員さんがそっと私に耳打ちしました。
「これ見てください。ハルさんが、口紅とスキンローション買ったんですよ」
 ハルさんは91歳。ぼさぼさの髪で化粧っけも全くありません。
「えっ、ハルさん、化粧されるんですか?」と聞き返すと、
「いくつになっても女は女。化粧をしよう、という気持ちが大切なんです。でも、ハルさんもデイサービスを利用するまでは、家で寝たきりだったんですよ」
 その日、松太郎さんを家まで送っていく車に私も乗り込みました。ハンカチをプレゼントする瞬間が見たかったからです。家に着くと、70歳を超えたぐらいの奥さんが出てこられました。
「ショッピングはどうでしたか。うちの人はなんか買いましたか」
「奥さんへのプレゼントがありますよ」
 職員さんに促されて、松太郎さんがきれいに包装されたハンカチを差し出しました。松太郎さんも奥さんも、とても恥ずかしそうでした。けれど2人とも、とても嬉しそうでした。

 このショッピングに限らず、デイサービスにより、社会との接点ができます。家族以外との出会いができます。すると、おしゃれをしよう、自立しよう、という生きる意欲が湧いてきます。化粧品を買ったハルさんは寝たきりだったのが、今では車いすでショッピングができます。
 このようにデイサービスの意味は、家に閉じこもるお年寄りを社会の空気に触れさせ、もう1度生きる意欲を持ってもらうことにあります。
 デイサービスセンターには、プロの職員さんやボランティアがいます。だからこそ、このようにショッピングにも行けます。さらに、家族だけでは到底できない行事やレクリェーションを楽しんでもらうことができます。そしてお年寄りは、生きがいや楽しみを持ち、生き生きしてきます。上京デイには、ハルさんのように、家で寝たきりだったお年寄りが元気になったという例が、たくさんあります。

〜人間は社会的動物である〜
 デイサービスは非常に評判がいいです。それ故、数が足りないという問題があります。街なかにあるこの上京デイには、121人もの待機者がいます。申し込んでから、1年以上待たければなりません。
 先日、デイサービスに欠員ができたため、ある職員さんが順番待ちの家庭に電話をしました。すると、1人目が病気で一時入院中、2人目も痴呆が悪化して入院中、3人目は死亡、4人目に電話してやっと、「行かせてもらいます」との返答を家族から得たそうです。
「もうショックで・・・・。そら1年も待たされたら、あきませんわねえ」
 その職員さんは、がっくり肩を落としていました。
 上京デイは京都でも街の中にある珍しいセンター。とはいえ、京都市での高齢化が進んでいるのは中心部なのに、中心部には地価が高くてデイセンターがないという矛盾があります。
 郊外のデイサービスセンターの待機者は少ないのです。しかし、ただでさえ身体が弱ったお年寄りは、40分も50分も時間をかけて、遠くのデイサービスセンターを利用できません。遠くなるほど、本当にサービスを利用したい虚弱なお年寄りが利用できなくなります。

 デイサービスセンターは1996年末現在で全国に約7500ヶ所ありますが、2000年までには17000ヶ所に増やす予定です。
 デイサービスは、次の3つがこれからの課題です。
・まず「待たずに必要な人がみんな利用できること」
・第2に「週に1,2回でなく、必要に応じて、毎日でも利用できるようにすること」
・第3に「遠いところでなく、住み慣れた地域にデイサービスセンターをつくるということ」

 巷では、デイサービスへの偏見がまだまだ強いようです。しかし今回の事例が物語っているのは、いくら優しく介護しようとも、家の中だけではよい介護はできない、ということです。デイサービスが訴えているのは、痴呆症や身体の不自由なお年寄りにとっての外出の大切さです。
 人間は社会的動物です。閉じこもりは、精神的にも肉体的にも不健康です。外出して家族以外の人と会うことによる緊張感とわくわくする気持ちが、お年寄りの生きる意欲と自立性を高めているのです。

 このコーナに関してのご感想、ご意見、ご要望などがありましたら
yamanoi@wao.or.jpまでお願いいたします。

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