季刊 Shelter-less No.10 より
「ホームレス対策の新展開」INTERVIEW
身寄りのない人の人権を守りたい


質問

山井さんは、国会議員になられる前もずっと社会福祉の専門家として活動してこられたわけですが、そもそも社会福祉を志すきっかけになったことからお話していただけますか。

山井和則

 高校が進学校で、受験勉強ばかりしていたのですが、その中で、自分自身が変わってきているような気がしたんですね。「人の悲しみは自分の喜び」「人の喜びは自分の悲しみ」みたいな感じになって、友達が成績アップすると「チクショー」と。友達が病気になったりすると、「アイツ、脱落しよった」と。

そういうことばっかりしていると、人の喜びを素直に喜べない自分になるんですよ。それで大学入って、そんな生き方変えたいと自己嫌悪に陥って、ボランティア活動を始めました。

そして僕が6年間ボランティア活動したのが、家庭が崩壊した子どもたちの福祉施設でした。その中で、豊かな日本と言われているけれど、泣いている子どもたちも多いんだなあ、ということを痛切に感じた。

かつ、その子どもたちは、社会に対して、政治に対して、もの言うことができない。その上、「乱暴な子どもだ」ということで、世間から差別を受ける。そういう姿を見てきました。

 そんな中で当時、ロッキード事件もあって、政治というものが献金や選挙に結びつくことしか政治課題にならない。

しかし、木当の政治課題というのは、子どもや障害者や病気の方などのお金のない人、あるいは選挙権がなかったり、選挙に行けない人の問題の方が逆に深刻であって、本当に大変な人たちは政治献金も選挙運動もできないんだと。

だから裏返せぱ、票にも献金にもつながらないことをやる政治家が出てこない限り、こういう福祉の問題というのはよくならないんではないか、ということを、僕は学生時代から十数年ずっと思い続けてさました。

それで、5年前の落選を経て、2回目の選挙で去年の6月、国会に来させてもらったわけです。そういう意味で、福祉に命をかける、ちょっと変わった議員だと自分でも思っています。

そういう私ですから、ホームレスの問題というのは、ぴったりあてはまるわけです。

献金できない。

選挙権がない。

だから今の日本の国会では、当然のごとく、放置されてきた問題なわけですよね。

だからこそ私は責任感を感じると。

 

質問

 高齢者の施設における処遇の問題などを熱心にやっていらっしゃいますよね。

山井和則

 そうです。理由は単純で、選挙に行けない人、一番弱い人のお役に立ちたい、というのが私の考え方なんで、寝たきりの人というのは選挙に行けませんよね。

その上、寝たきりや痴呆になると、家族も疲れきって、劣悪な施設でも、「預かってもらえるだけでも有難いから、処遇が悪くても文句は言えない」となってしまう。

極端な話、痴呆症のお年寄りが睡眠薬で寝かされようが、紐でベッドにくくられようが仕方ない、と。

そういう現実を老人病院や精神病院で実習しながら目の当たりに見て、家族が守れないなら、誰かが守らないと駄目だ、という思いで、人権問題という視点から高齢者の問題に取り組んできたんです。

このホームレスの問題も高齢者の問題とだいぶ重なっていますよね。

 

質問 

また精神障害者の病院での処遇問題、特に朝倉債院の問題にも取り組んでいらっしゃいますよね。

山井和則 

 一つの象徴的な問題が朝倉病院問題です。

これは、埼玉の病院であるにもかかわらず、200人の患者の中で100人以上が東京から来ている。そしてその中には数多くのホームレスの患者が含まれていた。

そこでは、過剰な医療で死期が早まったり、ベルトで痴呆症のお年寄りをくくりつけるなど違法な身体拘束が行われていた。

そういうことに非常にショックを受けましたね。

 そこには、「身寄りのない方だから、ちょっとぐらいやり過ぎたことがあってもいいじゃないか」とか、

「預かってあげてるだけでも、喜んでもらっているのじゃないか」という意識があったんだと思うんです。

そういう意味でも、ホームレスの問題と精神障害の問題というのはつながっていて、私が朝倉病院の問題を通じて考えたのは、身寄りのない人の人権をどうやって守るのか、と。

家族がいる人は、限度を超える虐待が行われたら、家族が文句を言いますよね。

ところがホームレスの方や身寄りのない方は守ってくれる味方がいない。

そして行政の方も「(病院に)預かっていただいている」という意識ですから、

「ホームレスでいるよりは、劣悪な精神病院の方がマシじゃないの」という考え方になってしまい、精神病院で問題が起こったとしても弱腰になってしまう、という問題がありますね。

 

質問

 そこに共通するのは、お金がなく、身寄りのない人の人権の問題ですね。

山井和則

 だから私の問題意識では、自分で自分の身を守れなくなった人が、どのような暮らしを最低限保障されているか。それがその社会の真の豊かさを計るものさしだと思うんです。

昔、マザー・テレサが日本に来た時に、「多くの日本人がカルカッタの『死を待つ人の家』に来るけど、日本人はカルカッタまで来なくていい。日本にも困っている人がたくさんいるじゃないか」と言ったそうですね。

実は私自身も一週間、カルカッタにボランティアに行ったことがあるんですが、そのマザー・テレサの言葉から私がつくづく感じるのは、カルカッタで多くの人が路上で暮らして、十分な医療が受けられずに人が亡くなっている、というのと、東京の路上で人が亡くなっているというのは、根木的に全く違う問題だということです。

 つまりカルカッタでは、住んでいる人がみんな貧しくて、路上生活の人まで手が回らない。

ところが、日本は世界の中でもお金とモノでは最も豊かな国でしょ。例えば若い女性がファッションの最先端を極め、世界一高価な服を着て街を歩いているのが東京じゃないですか。

その東京で、多くの人が仕事に就けない、屋根のあるところに住めない、十分な医療が受けられない、そして路上で人が亡くなってしまう、というのは、やっぱり異常ですよね。

 

質問

 そういう問題意識から、今回、民主党のホームレス問題ワーキングチームに入られて、実際、釜ヶ崎や山谷を視察されて、いかがてしたか。

山井和則

私は大阪の八尾生まれでして、釜ヶ崎の雰囲気というのは知っていたのですが、改めて訪問、ホームレスの方の多さに驚きました。

それと、70年の大阪万博以降、70年代、80年代の日本の高度成長を建設事業で支えてこられた方々が、今、仕事に就けていない、と。

これは本人の努力不足というよりも、やはり社会がその方々の仕事を提供できなかったという、社会なり、行政の責任の方が大きいと感じました。

 東京ではホームレスの方から聞いたお話が印象的でした。

お二人の方と話をさせていただいて、お二人とも60歳過ぎの方だったので、

「現在、生活保護の適用年齢が実質、65歳以上になっているケースが多いので、その年齢を引き下げて生活保護を適用することが一つの解決策になるのではないか」と提案をしたら、

「いや、そうじやない」と。

「私たちは働きたいので、仕事がほしい。生活保護はいらない」とおっしゃられたんですね。

それが私にとって衝撃的でした。自分の考え方は間違っていたな、と思いましたね。

それまでは「かわいそうだから助けてあげたらいい」という安直な考えだった。

それが「働けるんだから、仕事がほしい」とおっしゃる。

この切実な叫びというのは、私はこのホームレス問題の本質だと思いましたね。

 だから一つにはワークシェアリングといった方式を広めていくのが必要だと思います。

日本は一人当たりの労働時間が世界一長い国ですよね。

かたや働きすぎで過労死したり、家庭が崩壊したりする人がいる一方で、かたや働けるのに仕事がない、と言っている人がいる。

これは政治の責任だと痛感しました。

 

質問

 その上で現在、「ホームレスの自立の支援等に関する臨時措置法案」を作っておられるわけですが、その基本的な観点というのはどういったものですか。

山井和則

 まず前提として、この問題は超党派で取り組むべき問題やと思います。

イデオロギーや政党の主張というのは関係ない。

ホームレスの方々が仕事を持って、屋根のあるところで暮らせるようにというのは、政党を超えた人間愛の次元の話ですから、これは超党派で取り組むべき問題だと思いますね。

 この法案のポイントは一つは国の責任を明記するということですね。

私が大阪でも東京でも聞いたのは、やはり国の責任でしてほしい、と。

国の責任というのは、やっぱり財政的に面倒を見て欲しいということですね。地方自治体の持ち出しでは限界があると。

 二点目は、就労ですね。とにかく仕事に就けるように。仕事に就ければ収入ができますから、自動的に住まいに住める、と。ですから、就労、住まいで、それから医療とか生活という順になっていくだろうと思います。

 さらに、この法案の中で重要なのは、民間団体、NGONPOとの連携ということを唱っていることです。行政も頑張ってもらわなければなりませんが、きめ細かな自立支援というのは、行政には限界があると思います。

その点では行政はNGONPOと連携したり、支援したりするという関係が必要だと思います。

 それと実行計画の策定ですね。

都道府県は法案の中で実行計画を策定して、取り組まなければならないと明記しています。そのためには実態調査もしなければならないということです。

 また、この法案は平成20330日までの時限立法にしています。というのはそもそもホームレスが多数存在するというのが異常な事態であって、この法律によってホームレスをできるだけゼロに近づける。

そしてこういう法律自体が必要でなくなるように、早急に取り組む必要があると思います。

 

質問

 この「ホームレス対策というのを考える時に、どうしても地方自治体などから「公園のテントをなんとかしたい」という声があがって、排除の観点が入り込むことが多いのですが、そのあたりの兼ね合いというのはどうお考えですか。

山井和則

 仕事を提供するとか、住まいを提供するという地方自治体ないしは国の責務を十分に果たさないでおいて、

「テントが目障りだから撤去したい」というのは無責任だと思いますね。

これは日本人の悪い癖で、ハンセン病問題でも問題になったことですが、自分たちの目のふれないところに隔離して放ったらかしたら、それで「一件落着」と。

根本的には問題が解決していないのに、自分たちの目のつかないところに追いやったら、それで解決したかのごとく錯覚してしまう。

だからホームレス問題だけでなく、老人福祉施設も精神病院も山奥に多いし、ハンセン病の施設も離れ小島にありますよね。

そういう日本人の「排除の論理」というのを考え直さないといけないと思います。

 ニューヨークにいる知り合いの話を聞くと、ニューヨーク市は500億円をかけてホームレス対策をしている。

それは排除や放置ばかりしていると、結局は地価が落ちたりして、逆にコストがかかってしまう、ということに気づいたんだと言うんですね。

だから住民や企業も行政と一体になって対策を進めている。

 もちろん、お金でどっちが高いか安いか、という話ではないと思いますが、日本人もそのうち、こういうことを放置することが結局は自分にとっても損をするんだ、ということを気づくんじゃないか、と思います。

 

一本目はお忙しい中、本当にありがとうございました。


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