介護保険で後悔しないために

良いケアマネジャーを選ぶ5カ条

 これは週刊読売・2000年1月23日号に掲載された記事を、タイプしたものです。 山井和則の名前が、3ヶ所に出て参ります。

 
4月の公的介護保険制度のスタートが迫ってきた。今月末には介護サービスの公定価格が正式決定され、」介護が必要と認められた人それぞれについてのケアプラン作りが始まる。自分にあったケアプランをつくって、寄りよい生活を送れるかどうかは、ケアマネジャー次第。信頼できるケアマネジャー選びのコツはーーー。

 1年ほど前に、脳卒中で倒れた都内に住む68歳の主婦Aさん。退院後は立つのがやっとで、排泄もおむつかポータブルトイレだ。2人暮らしの72歳の夫も病弱で、Aさんの介護はもとより、自分の食事作りなどもままならない。

 地域の在宅介護支援センターに相談すると、ケアマネジャー(介護支援専門員)が来て、毎日のホームヘルパー派遣と週1回の入浴付きデイサービス、月2回のデイケア(通所リハビリ)などを組み込んだケアプラン(介護サービス計画)を立て、サービスの手配をしてくれた。

 しかし、外出が好きでないAさんは、デイサービスやデイケア になじめかなっかた。そこで、ケアマネジャーは、自宅で入浴できるよう、風呂場の改装と入浴ヘルパー派遣を手配し、デイケアを月2回の訪問リハビリに変更した。横浜市に住むAさんの娘が話す。

 「デイサービスやデイケア だと行くのを嫌がってサボるんです。お風呂にも入れないし、リハビリも進まず、母も無気力になってしまって。初めのプランのままだったら、本当に寝たきりになって、両親は共倒れだったと思います。今は、一人でトイレに行けるようになりたいと言って頑張っていますよ」

生活の明暗を分けるプラン

 介護が必要になったお年寄りや、その家族の生活の明暗を分けるのがケアプラン。やまのい高齢社会研究所の山井和則所長

 「85歳の寝たきりの妻を90歳の痴呆の夫が自宅で介護サービスを受けながら面倒みているケースもあります。良いケアプランだから可能なんで、普通なら2人とも施設に入れられて生き別れですよ。ほかにも、家庭の事情にあったケアプランを立ててもらったおかげで家族崩壊が防げた、などと言った話は枚挙にいとまがありません」。

 そのケアプランを作成する専門家がケアマネジャーだ。公的介護保険制度では、市町村に申請して介護が必要と認められたら、ケアプランをつくって、それに基づいてサービスを受けることになっている。ケアプランは自分でつくっても良いが、素人には難しいから、大半の人がケアマネジャーに依頼するとみられる。ケアマネジャーは市町村などから派遣されると誤解している人が多いが、介護保険の他のサービス同様、自分で選ぶ。

 良いケアマネジャーに出会うことが、介護保険を上手に使うための第一歩。選び方のチェックポイントをまとめてみるとーーー。

当たりハズレがある“急遽参入組”

<1>ケアプラン作成事業者の運営主体は?

 今のところ、個人営業のケアマネジャーはいない。都道府県の指定を受けたケアプラン作成事業者(居宅介護支援事業者)に依頼して、そこの所属するケアマネジャーを派遣してもらうことになる。

 たいていの市町村には、ケアプラン作成事業者の一覧表があって、要介護認定の通知にそれを同封するところも多い。基本的には、この中から選び、自分で連絡を取ることになるが、その際、気をつけたいのが運営主体の業種だ。

 ケアプラン作成事業者になっているのは、在宅介護サービス会社、在宅介護支援センター、訪問看護ステーション、病院など医療機関、社会福祉協議会、薬局、老人ホームなど様々。山井所長

 「これまでに、在宅介護の実績がある事業者を選んだ方が間違いがありません。1番良いのは、在宅介護支援センターでしょう。ケアプラン作りにも慣れていてノウハウもある。次が訪問看護ステーション。その次が、医療機関で、訪問診療や訪問看護をやってきたところですね。急に介護分野に乗り込んできたところは、当たりハズレがあると思います」。

 また、いくら良いケアプランを作っても、実際に求めるサービスが介護サービス事業者によって提供されなくては意味がない。ケアマネジメント研究所の井出信子代表は、

 「あらゆる種類の介護サービスを提供している事業者は安心かもしれません。あるいは、地域でネットワークを作るなどして、自分の所にないサービスも必ず提供できる体制を取っている事業者がいいのでは」。

<2>ケアマネジャーの経歴は?

 ケアマネジャーになることができるのは、医師、薬剤師、看護婦。保健婦、作業療法士、社会福祉士、あんまマッサージ指圧師など、保健・医療・福祉の分野での資格と5年以上の実務経験を持ち、ケアマネジャー養成研修者。介護関係の仕事についたことがあるかどうかは関係ない。

 シニアライフ研究所の佐藤義夫代表は、こう指摘する。

 「はっきり言って、訪問診療の経験のない医師や、病棟勤務の看護婦、薬剤師などにケアプランを作れといっても無理。自分の専門に偏ったプランになりがちです。そもそも経験のないのになぜケアマネジャーをやろうとするかといえば、薬剤師なら自分の薬局の薬を売りたいとか、マッサージ師ならケアプランにマッサージをくっつけようとか、動機があるんですよ。利用者は、遠慮しないで、事業者にケアマネジャーの経歴を聞くべきです。また、ケアマネジャーを代えてくれといっても、応じない事業者は、避けた方がいいでしょう」

 佐藤代表や山井所長は、まずソ−シャルワーカー(社会福祉士)、次に訪問看護婦や保健婦が望ましいとアドバイスする。

<3>利用者の希望に対応してくれるか?

 実は、ケアプラン作成のためのコンピューターソフトが何種類か出回っていて、似たような症状なら、だいたい同じプランが出来上がってくる。

 ただ、ここから先が問題だ。佐藤代表が話す。

 「これまでのケアプランは“現状維持”を目的としていたんです。プラン作成ソフトが作るのも、その考えにそったもの。しかし、今は車いすだけど3ヶ月後には歩けるようにしたい、となれば、プランは全然違ってきます。目標を立てて、そのためには今、何をしなければならないか、と考えるのが本当のケアプランです」

 本人の希望を考慮せず、1つのプランを押しつけてくるのは、無能なケアマネジャーの証拠。佐藤代表が続ける。

 「利用者は、1年後に温泉旅行に行きたいとか、春には花見がしたいとか、どんどん目標・希望を伝えるべきです。その実現に向けたプラン作成や、実際の外出サポート態勢の手配などをしてくれるか。無理なら、その理由をきちんと説明してくれるか。そのへんがチェックポイントですね」

<4>所属する事業者の営業マンになっていないか?

 ケアマネジャーには本来、中立性が求められる。自分の所属する事業者のサービス以外の情報も持っていて、必要に応じて利用者に紹介、提供できなくては、単なる自分の会社の営業マンだ。

 「例えば、ヘルパー派遣をしている事業者のケアマネジャーでも、利用者が負担を軽くしたいという場合は、ボランティアのヘルパーを手配するなど、利用者に様々な選択肢を示すことが出来なくてはなりません」(井出代表)

 自社のサービスを売りつけるだけの営業マンが、利用者の側に立ったプランを作るはずもない。地域のサービス資源に精通していて、利用者に様々な情報を提供してくれるケアマネジャーを選びたい。

自宅近くのプラン作成事業者を

<5>苦情などに素早く対応してくれる?

 「容体が悪くなったから何とかして」「あのヘルパーさんとは気が合わないので代えて欲しい」。介護を受けていれば、こんな事はしょっちゅうあるはず。

 これに対して「忙しいから来週行きます」とか「そのくらい我慢して下さい」では、利用者はたまらない。

 「24時間対応してくれることが大事ですね。さらに、何かあったらすぐ来てもらえるように、なるべく家の近くのケアプラン作成事業者にケアマネジャーを派遣してもらう方がいいかもしれません」(井出代表)

*   *   *

 ケアプラン作成の費用に関しては、利用者の自己負担はないので、複数の事業者に依頼して比較検討してみるもの手だ。

 また、佐藤代表は

 「地域で評判のいい救急病院の相談窓口に行ってみることをおすすめします。救急病院のケースワーカーは、患者の退院後のケアの手配をしているので、一番情報を持っているんです」。

 ケアマネジャーとの付き合いは、1回プランを作れば終わりというものではない。ケアプランは原則として3ヶ月に1回は見直すことになっているし、何回でも変えられるから、心身の状態が変わったり、サービスを受け始めてみて不都合に気づいたりすれば、その都度、相談に乗ってもらうことになる。旅行など特別なイベントも、サポート態勢の手配をはじめとしてケアマネジャーの協力なしには実現は困難だ。深く長い付き合いになる。

 いいケアマネジャーに出会いたければ、利用者も情報収集に努め、ケアマネジャーの室を判断する能力を磨いておく必要がある。(林 真奈美)


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