1991年10月1日付 朝日新聞「天声人語」

 やまのい和則 が取り上げられました。
古い記事ですが、変わらぬ活動をしております。
お読みいただければ幸いです。

天声人語

 山井和則(やまのいかずのり)さんは、この夏から2年間の予定でスウェーデンに住み、勉強をしている。

 先月の総選挙で社民党政権が敗退した。高福祉が曲がり角に来たのか、と日本では受けとめた人もいた。そうではない、高負担は苦しいが、高福祉への反対はない、人々は長期政権に飽きて新しい政治を選んだのだ、と彼は日本の友人にファクシミリで書き送った。

 高福祉・高負担は二十年前から各党の合意だ、とも書いた。二十九歳の山井さんは英、米、スウェーデン、デンマーク、シンガポールなどの老人ホームを実習しながら回ったことがある。日本の各地も回った。

 その体験を留学の前に本にまとめた。岩波新書「体験ルポ・世界の高齢者福祉」。具体的で示唆に富んでいる。英国の下宿に落ち着くと電話帳でボランティア団体を探し、電話をかける。教えてもらった施設で奉仕をした。

 週に一度、つめ切りを持って現れる高齢の女性がいる。施設の高齢者たち一人一人のつめを丁寧に切る。時間をかけて、話をしながら、「家にいても仕方がない」と、すでに十五年も続けているボランティアだ。

 デンマークの老人ホ−ムで寮母さんが紙巻きたばこを作っていた。たばこも酒も、欲しい人の望みはかなえる。家具も自分のものを持ち込ませる。ホームは病院のようなものではなくて、自宅なのだ。

 高齢者をすぐに寝かせようとする日本と、高齢者自身が寝ようとしない英国。痴ほう症のお年寄りに施設内の戸締まりをしてもらったら徘徊が止まったデンマークの例。その老人は会社の支店長だった昔、毎日、最後に戸締まりをしていたという。

 介護する家庭に自治体が給料を払うスウェーデンの法制度の紹介。家族だけで支えようとするアジアの国では公的福祉が遅れがちで、日本は「敬老」ならぬ「軽老の国」だと山井さん。今日は、国連が決議した国際高齢者の日だ。


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