おはよう 21 より転載  第1回


国会でのスライド使用は
前例がない!?

『おはよう21』の読者の皆さん、こんにちわ。ご無沙汰しましたが、前回掲載から3年9か月ぶりです。今年6月から衆議院議員をしています。

「なぜ、衆議院議員が、『おはよう21』に原稿を書くのか?」と、不思議に思われるかもしれません。そこで、まず自己紹介をします。

私は、現在38歳。家庭が崩壊した子どもたちの児童福祉施設で、18歳の学生の頃からボランティア活動をし、それがきっかけで、福祉に関心を持ちました。

当時、私は、大学ではバイオテクノロジーを専攻していましたが、ボランティア活動を通じて、

「豊かと言われる日本でも泣いている人たちは多い。一度しかない人生を、最も社会の光が当たっていない方々のために使いたい」と考えるに至りました。

また、祖母が20年間の寝たきりの末に亡くなったこともあり、高齢者福祉の研究者を志しました。


全国各地の特別養護老人ホームなどでを実習し,さらに、英国米国、スウェーデン、デンマークなどの老人ホームに1〜3か月単位で泊まり込み実習をし、特にスウェーデンには2年間留学して、世界の、局齢者福祉を研究しました。

私は、『体験ルポ世界の高齢者福祉』『体験ルポ日本の高齢者福祉』一岩波新書一などで、「豊かな日本の貧しい介護」について書き、また、この『おはよう21』にも長らく連載させていただくほか、全国各地を年間100回以上講演して回りました。


しかし、現場の声が国会での福祉の議論に全く届いていないことに怒りを抑えられなくなり、大学講師を辞めて政治活動を始めました。

キャッチフレーズは、「国会に福祉のプロを1」。福祉現場の声、お年寄りや障害者の痛みを国会に届けられる議員が必要だと思ったのです。それから5年が経ち、このたび衆議院議員になることができました。

前置きが長くなりましたが、このような私にとっては、『おはよう21』に再び連載させてもらえることは、涙が出るほど嬉しいことです。なぜなら、私は自分の意見を国会で言うために議員になったのではなく、まさに、『おはよう21』の読者の皆さんのように、日々、介護現場で献身的に働いておられる方々の声なき声を国会に届けたいという一心で議員になったからです。


国会での初質問

さて、本題の国会報告に移ります。6月25口に当選が決まり、早速、介護や医療、年金を担当する厚生常任委員会に所属しました。

そして7月27日、待ちに待つたFAXが来ました。

「8月4日に厚生委員会が開かれることが決まった。質問の希望者は連絡せよ」という内容。

「このチャンスを逃せば、8月末の概算要求に間に合わない」と、私は早速、「何としても質問させてください」と申し込みました。

つまり、来年度の介護関連予算の大枠要求を厚生省は8月末までに出すので、この臨時国会で質問しておかないと、私の意見が来年度予算に反映させられないのです。


8月4日(金)、午後2時10分から2時50分までの40分間、とうとう人生初の質問が決まりました。準備の期間は4日間だけ。

質問項目は、

「身体拘束ゼロ作戦」
「痴呆性高齢者向けグループホーム」
「痴呆性高齢者の要介護認定」
「ショートステイを利用しやすくする」の4つにしました。


過去13年間、現場で実習して最大のショックは、老人病院で痴呆性高齢者がヒモでベッドに縛られていたのを何度も目撃したこと。

「人間がこんなに軽く扱われていいのか」というショックが私を政治にまで駆り立てました。

また、痴呆ケアの切り札と言われながらも数が全然足りないグループホームの問題。

さらに、家族の立場からは、痴呆の要介護認定とショートステイの問題は深刻な問.題です。


質問の2日前に厚生省の担当者が「質問取り」に来ました。

そこで、質問項目を言うと、厚生省の担当者が厚生大臣のために模範答弁を作るのです。

私の4質問のために、当日の朝10分程度、厚生大臣は役人さんからレクチャーを受けます。私が質問する厚生大臣は津島雄二さ(70)。1990年に続き、二度目の厚生大臣。


初めての質問ですが、私は事前に3つの希望を出しました。

1つ目は、「厚生大臣に直接質問するので、役人さんは答えなくてよい」。これは、役人任せの議論は無責任になるからです。

2つ目は、「質問内容は言ったが、当日は似たような内容で多少違う質問をするかもしれない」ということ。これは、全く事前に予告した通りの質問で、大臣が模範答弁を読むだけだったら意味がないからです。

3つ目は、スライドを使うこと。


この3つ目がもめました。

「国会でのスライド使用は前例がない。国会は言論の府なので写真や映像を見せるのはおかしい。写真は議事録に残らない」などと反対意見が強かったのです。

しかし、私は言い張りました。

「身体拘束やグループホームなどは写真を見ないと口だけでは議論できない。実態の写真を、厚生大臣も厚生官僚も厚生委員会の40人の国会議員も一緒に見ながら、議論することに意味があるんだ」と。

その結果、日本の国会史上初めてのスライドを使った質問を私がおこなうことになりました。


この40分間については、字数の関係上ここでは、すべては書けませんが、ポイントだけ書きます。

まず、当日、最初の質問。ベッドに痴呆症のお年寄りがヒモで縛られているスライドを見せて、厚生大臣に尋ねました。

「このような現状を大臣はご覧になったことがありますか?」と。

「10年前、厚生大臣をしていたときにも、身体拘束の質問を受けたことがあったので、実態は見たことがあります」と大臣。


次は、「身体拘束ゼロ作戦に厚生省がどのように取り組むのか」という予告通りの質問。

大臣は、役人さんの書いた答弁をえんえんと読み上げます。

私は、模範答弁を読むだけでは委員会の意味がないと怒りが込み上げてきました。

そこで、あえて、予告した内容と少し違う次のような質問をしました。

「私は世界各国で過去13年間調査してきたが、日本ほど安易にお年寄りがベッドに縛られている国はない。縛られたお年寄りも泣いている。現場の職員さんも泣く泣く縛っている。家族も泣いている。大臣は、このような現状を10年前から認識していると言うが、一体全体、この10年間、厚生省は身体拘束問題の解決のために何をしてきたのですか」


責任ある回答を求めて

この質問でシーンと委員会室が静まり返り、緊張感が走りました。

あわてて答弁書を探す大臣。しかし、答弁書があるはずはありません。予告した質問と少しだけ聞き方が違うのですから。

大臣が目配せをし、あわてて厚生省の役人さんが答弁席に駆け寄り答弁。長いので省略しますが、「いろいろやったが、解決できず残念だった」という趣旨の答弁。


本当なら「『身体拘束』といったこんな根本的な質問になぜ大臣が答えられないのですか。役人さんには質問していません」と言いたいところでした。しかし、初質問なので我慢しました。

このやりとりに象徴されるように、大臣が官僚の答弁書を読むだけでは厚生委員会の意味がないと思います。


そのあと、グルーブホームについての質問。

単独型グループホームヘの建設補助などを要望しましたが、大臣席で大臣が拙著『グループホーム入』一リヨン社一を読んでおられたのには驚きました。

そのあとは、痴呆性高齢者の要介護認定が軽く出る問題、ショートステイが介護保険で利用しにくくなった問題の早急な対策を要望しました。

さらに私は厚生大臣に尋ねました。

「このような問題は、介護保険が施行される前から指摘されていたはず。なぜ、こんな欠陥のある介護保険になったのですか。

そもそもこのような介護保険の内容はどのような審議会のメンバーで議論したのですか。

手元にある老人保健福祉部会のメンバー20名、介護給付費部会のメンバー21名には、介護している家族の代表が入っていないではないですか。

だから、こんな家族が苦しむ内容に介護保険がなったのです。さらに、介護保険のサービスを利用する当事者の代表もメンバーに入れるべきです。

サービスの提供側の代表の意見だけでは良い介護保険になるはずがありません。主人公である利用者を審議会に入れるべきです。

さらに、この審議会にはホームヘルパーの代表も入っていません。おまけに、介護保険の要であるケァマネジャーの代表も入っていない。

こんなことだから、介護保険でケアマネジャーが苦しむ現状になったんじゃないですか。

さらに、老人保健福祉部会ではメンバー20人中女性はたった2人。介護給付費部会もメンバー21名中2名。介護者の85%が女性なんですから、せめて半数は女性や介護経験者を入れてください」

私はまくしたてました。

さすがの大臣も、「私も山井議員の意見には共感を覚えます」という趣旨の答弁でした。

あっという間の40分間。質問の最後に大臣に言いました。

「初質問で偉そうにいろいろと言いましたが、これは山井個人の意見じゃないんです。私は全国250万人の寝たきりや痴呆症のお年寄りやそのご家族、介護現場の方々の代弁者として、この場に立たせていただいています。現場は2年、3年も待てないんです。これからも厳しいことを言いますが、現場の声としてお許しください」


ぜひ皆さんの声を!

委員会のあと、厚生省の方に改めて尋ねました。

「審議会にはなぜ、介護家族もホームヘルパーもケアマネジャーも入ってないんですか?」。

厚生省の方が言うには、「今までそんなことを指摘する議員さんがいなかったんですよ。山井さんのように介護の実態を知っている議員さんは初めてですよ」とのこと。

私は今回、多くの方々のご支援により衆議院議員にならせていただきました。

しかし、この議席は私個人のものではなく、日々献身的に働いておられる全国の介護現場の方々の議席です。

是非、ご意見やご要望を私にお聞かせください。国会や厚生省と、福祉現場とのパイプ役として働きます。


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