この講演では、介護を必要とする高齢者にとっていかに住環境が大切か、また、家族との適度の距離感が必要かを述べました。
高齢者介護における“間”

                                    山井和則
                              やまのい高齢社会研究所所長

1 はじめに

 私は、大学院でバイオテクノロジ−の研究をやっていましたが、祖母が20年間寝たきりになった影響を受けて、薬品メーカーに就職するつもりが、松下政経塾に行って
「世界の高齢者福祉比較」をテーマに研究しました。
 アメリカ、イギリスなど合計約3年間、外国や日本の老人ホームで働いたりしながら、寝たきりと痴呆症の問題の国際比較を専門にしました。
 
 寝たきりと痴呆症は、だいたい両方とも100万人ぐらい日本にいるといわれ、合計で250万人ぐらいです。65歳以上の5%、80歳以上の4人に1人が寝たきりか痴呆症といわれています。

 日本の高齢者介護おいては、3つの「間」が問題と考えております。

 一、
「時間」という意味での“間”です。介護においては、時間がせかせかしている、ゆったりしていないということです。

 二、
「空間」、寝たきりや痴呆の老人にとって良い空間がないということです。

 三、
「間合い」です。どういう間合いかというと、家族とお年寄りとの間合い、介護者と介護される人との間合い、この辺がずれていることが問題ではないかと思います。

2 日本は世界一寝たきり老人の割合が高いのか

 日本は、アメリカの約5倍、ヨーロッパの8倍くらい寝たきりのお年寄りが多いと言われています。
 痴呆症についても、全世界どこの国でも、65歳以上の老人の6〜7%が痴呆だと国際的に言われています、国の差はありません。
 しかし、世界を回って私が研究している中で思うのは、日本には重度の痴呆症のお年寄りが多いということを感じています。

 3日前の新聞の一面記事に、国民基礎調査で「老老介護」が進んでいるという記事が出ていました。老人が老人を介護して共倒れしているという記事です。介護保険の議論をすると、よく言われるのが、「介護保険なんかはいらん。へたに介護保険なんかを作ると、日本の嫁を怠けさせることになる。もっと嫁にさせた方がいいんだ。」という意見があるのですが、実際の日本では、介護している人の半分以上が60歳以上になっています。

 また、欧米に比べて日本は同居率が高いということがあげられます。
 日本ではお年寄りと子供の同居率が50%ぐらいです。アメリカは15%、イギリス10%、スウェーデン、デンマークは1〜2%です。
 しかし、皮肉なことに家族がつきっきりで介護している人ほど寝たきりになり易いということです。
 奈良女子大学で教えていた時に「近頃は専業主婦が増えて家族が面倒を見ないようになったから寝たきりが増えた」ということよく言われたんです。
 実は家族がつきっきりで介護した方が寝たきりになり易いんです。
 つまり横に人がいると、自立心が奪われて甘えが出てくるわけです。

 ここで問題なのは、日本では家族がつきっきりで介護するのが一番の家族愛である、美徳であるという意識があることです。
 数年前に京都市でも調査があり、「どんな家庭が寝たきりになりやすいか」という調査では、「入浴サービスや看護婦さんやヘルパーなどや色々なサービスを利用して、他人が入ってきている家族ほど寝たきりになりにくい」ということです。
 「家族だけで頑張ります、一切他人の手は借りませんと言って家族で一番大事にしている家庭ほど寝たきりをつくっています」。
 これは、田舎へ行けば行くほど他人の手を借りるのは親不孝な家庭だと、お年寄り自身も福祉の世話だけにはなりたくないという意識が非常に強いです。その結果寝たきりが増えているわけです。

 ご主人が奥さんを5年間介護しているうちに、右腕が動かなくなって十分な介護ができなくなっても、「息子さん夫婦と同居するのも嫌だ、おむつ交換や食事の十分なお世話もできなくても、ホームヘルパーさんとか他人の手を借りるのは嫌だ、福祉の世話になるのは格好悪い」という人がいるわけです。そういう人間関係の“間”というか、そのあたりが介護にとっては問題があると思います。

 ですから日本では非常に寝たきりになる確率が高いのです。アメリカやヨーロッパだったら、車椅子や杖をついて歩いているような症状でも、日本は畳文化といわれまして、しんどかったらすぐに横になるわけです。
 「先は短いんやから寝かしといてって」いうわけです。と言いながら結局寝ていると足の骨が曲がってきてしまうわけですね。
 大体、70歳以上の人は4日寝ていると腕が固まって間接が固まって、腕や足が固まって骨が曲がり出すと言います。だから寝たきりになってしまうわけです。

 また、床ずれも出てくるわけです。
 アメリカではこういう床ずれがあると"Abuse":虐待と言われるわけです。
 ドイツなんかでも亡くなった方に床ずれがあると調査に入るいうくらいなわけです。
 日本ではどういう家庭に床ずれがあるかというと、介護をする気持ちはあるけれど、介護をする体力がない、安静にして一番大事にして床ずれができてしまっている。
 こういうのを私は日本の「根性主義」と呼んでいます。根性で頑張ろうと。
心意気は世界一美しいけれど、実際は悲惨な状況になっている。
 スウェーデン、デンマーク、アメリカに比べると日本は寝たきりの確率が非常に多い。
 この理由は恥の文化、つまり「人の手を借りない」、「お年寄り本人も寝かしといてと言う」そういう意識が非常に強いことが理由です。
3 世界的な痴呆症の治療法

 例えば病気で3ヶ月も入院していると、杖をついて歩いていたはずの人が寝たきりになっておむつもするようになります。
 病院に3ヶ月もいたら70歳以上の人は、急激な環境の変化についていけなくて大抵呆けてきてしまうわけです。
 日本はご存じのとおり世界一入院の期間が長い国なのですが、入院中に寝たきりや痴呆症になるという「つくられた」寝たきりや痴呆症が多いわけです。

 スウェーデンでも元々、痴呆症のお年寄りは、大きな病院や大きな老人ホームの痴呆専用棟という所に入れて、50人、100人とお世話するのが普通だったわけです。
 ところが、
バルブロ・ベック・フリスさんというお医者さんが10年ほど前に
「痴呆症のお年寄りは、ただでさえ混乱している。だから大人数の空間はダメだ」と。
 グループホームといって、家庭的な空間で6人ほどの痴呆症のお年寄りに住んでもらって、スタッフもそこに一緒に生活して、料理とか、趣味とか、残っている能力を発揮してもらうことによって、痴呆の病気は治らないけれど痴呆症状が和らぐという実験をされたわけです。

 一例として、料理が非常に得意な方は、病院の痴呆専用棟にいるときは、寝間着を一日中着て、言葉も忘れるような感じの人が、グループホームでキッチンで簡単なジャガイモの皮むきとかをしてもらったら、ジャガイモという言葉は通じないが、ナイフとジャガイモを渡すと皮をむくことはできるわけです。 これを「手続き記憶」と言います。指先が覚えている感覚があるのです。
 脳は動いてないんですが、指先がジャガイモとナイフを渡すと長年の感覚で動くわけです。
 ところが、この老人をもう一度、痴呆専用病棟に連れて行き、寝間着を着せて、ベッドの上でナイフとジャガイモを渡しても、なんとこの老人は、皮をむけなかったという続きがあります。
 なぜか。痴呆症の老人は、住み慣れた家庭的な快適な空間だと残っている能力を発揮できるのですが、病院のような住み慣れない空間では脳が働かないことが分かっています。
 だからそれまでは、どんな薬が効くとか、どんなお医者さんが良いかとかそんなことが言われていたわけですが、痴呆症の老人では、居場所の空間が快適な空間かどうかと言うことが、脳の活性化に非常に重要だということが分かってきました。

 また、痴呆症のお年寄りの研究で分かったのは、老人ホームや病院で20人くらいが寝間着を着て一緒にごはんを食べさせていると、痴呆症のお年寄りはフォークとナイフを持つことさえ忘れだしてきます。
 ところが、今まで食べていたような家庭的な環境に引き戻すとナイフとフォークの持ち方を覚えてくるということです。

 痴呆という病気は面白い病気で、病気なんですが病人扱いして病院に入れたら悪化する一方になります。
 効く薬もないし。それよりも病気なのですが私服を着せて、得意分野を発揮してもらって家庭的なリラックスできる環境にいた方が良いということです。

 スウェーデンと日本の病院を比べていただくと空間が違いすぎるわけです。日本は殺風景で生活空間ではない。
 着ている物も日本では寝間着を着ている。
 また、日本の痴呆病棟に行くと、お年寄りが一日中廊下から廊下を歩き回っています。
 なぜ歩き回っているのかというと、やることがないから落ち着かないためです。何で自分はこんな所にいるんだろうというのがあるわけです。
 本当だったら料理を運んだり、ここの中庭の土いじりをした方が脳に刺激が行って痴呆は治らなくても和らいだり、進行が遅くなったりするわけです。

 ところが悲しいかな、一緒に料理を運んだり土いじりをして草花を植えても医療保険の点数というのに認められない、病院としては儲からないからそういうことはしないということです。
 それで、「ウロウロせずにじっとして」と看護婦さんが怒るわけです。

 しかし、戦争以前から働きに働いてきた女性の人にとって、コマネズミのように動いている方が落ち着くわけです、誰かのために。
 いざ痴呆になって「何もせんでもいいからじっとしていなさい」と言われると余計に落ち着かなくなって痴呆症状が悪化するわけです。  

 世界の研究からいくと、「できるだけストレスを与えない環境」、「ストレスを与えない空間」、「それでゆったりとした時間のペース」で「一緒に料理をしたり、散歩したり、お年寄りのペースに合わせた方が良い」ということがもう常識になっているわけです。
 ところが、日本では、老人ホームに入りたいと言っても京都では大体2年待たないと入れないから、そういう生活空間ではなくて病院に入れてしまうわけです。
 しかし病院は、生活空間でないわけです。
 さらに痴呆病棟では昼間から寝ているようになります。昼夜逆転で、晩になると50人の動き回る痴呆症のお年寄りに、スタッフが3人ぐらいしかおらず、下手に骨折したら病院が訴えられるので、動き回らないように睡眠薬を飲ませるわけです。
 そうすると薬というのは痴呆症になると副作用が非常に大きくなるため、また、昼間から寝ているようになるわけです。

4 日本の痴呆症治療の現状と問題点

 日本の考え方では「もう呆けているだから、人前で用を足しても格好悪いと思わない」という考えがあります。
 しかし、色々な研究の結果から痴呆症のお年寄りというのは「非常に傷つきやすい、感受性が鋭い」ことが判ってきました。
 自尊心やプライドを傷つけたり、また恥をかかせると余計に落ち込んでガクッと痴呆症が悪化するわけです。

 また、痴呆症のお年寄りは、目で見える物、音、においなど五感が発達してきます。
 ですからグループホームの発想は、朝からみそ汁やスープ、コーヒー、目刺しの焼いたのや煮た魚のにおいなど、そうした生活のにおいを充満させると脳というのは働き易いのです。
 一番良くないにおい、おむつの厭なにおいと、薬のにおいが充満していると、ただでさえ脳が鈍っている人は余計に脳の働きが低下してしまうのです。

 日本の老人病院では、トイレへ連れていく人手がない、「もうええやん、呆けているんやから」とベッドの脇にポータブルトイレが置いてあり、これが臭いのです。臭い空間では人間の脳は働かない、どんどん弱ってくるわけです。そういう“空間”という意識が日本はないわけです。

 世界の流れでは痴呆症は、「病人扱いしたらダメ」、「昼間は車椅子に乗せて外に出して、私服着せて」というのが流れです。
 寝間着を着てベッドの上にいるとそれだけで病気になったような気分がしてくるわけです。
 老人ホームの方が私服着て車椅子でまだ快適です。
 ところが、日本では、病院に入れるか、老人ホームへ入れるかとなると、老人ホームに入れると親戚から批判が出るとか、また、老人ホ−ムよりも病院の方が数が多いと言うこともあり、病院にどんどん入れてしまっています。

 また老人ホーム自体も、外国では普通は個室か二人部屋ですが、日本の老人ホームは4人部屋で、そのため隣人がうるさくて寝られず昼寝るようになってしまうような施設なのです。
 痴呆は、昼寝て、夜起きるようになると悪化しやすいといわれていますが、4人部屋のようなにところではそうならざるをえません。
 また、そこに入るのに4年も待たないといけないというのも問題です。

 よく「お年寄りのお世話は赤ちゃんのお世話と一緒だ」、「子供に返る」のと言われますが、大間違いだと思います。
 お年寄りというのは、長い人生を生きてきた尊厳があります。
 恥というものを感じるわけです。私も「おむつをして、おむつが濡れて寝る時の気分はどんなんだろう」、大きいほうもしてみましたが大変でした。自分のおむつの臭いが部屋に広がって行くわけです、その情けなさ。
 「人間として生きてきた人生」、「尊厳を木っ端微塵に打ち砕かれる」ような気持ちです。
 正直言ってここまで恥をさらして生きていたくないという気分になります。
 そこが、日本の老人福祉の貧しさです。

 トイレ誘導すれば良いようなものですが、お年寄りというのは難しくてトイレに連れていっても、すぐ出るもんじゃなく連れて行ってから20分くらいついておかないといけない。それでおむつしておく方が、手間がかからないわけです。

 日本でもミニ老人ホーム、グループホームが増えてきています。
 家では料理ができない人もグループホームに来るとできるようになります。これは一つ“間合い”という問題です。

 例えば、「ご飯を食べていない」と痴呆症のお年寄りが言ったら、家では「何言っているの、今食べたでしょう、しっかりしいや」と怒ってしまうわけです。
 ところがプロのスタッフですと、「じゃあ一緒にお米研ぎましょうか」といえるわけです。
 つまり家族だと“間合い”が近すぎて、治って欲しいと言う愛情があるが故に怒ってしまうわけです。他人だと一歩距離をおいて、同じ話でもフンフンと聞けると言うことです。

 「痴呆症のお年寄りは鏡だ」と言われていまして、家族が怒るとお年寄りも怒ってしまうわけです。
 グループホームで判ったのは、他人の方が家庭的な介護ができると言うことです。
 皆さんは車の運転を絶対に家族に教えるなと言う話があるのをご存じですか。家族に教えたら腹が立ってきますよ。教習所の先生は他人なので、冷静に教えていられるんです。
 小学校の先生でも、クラスの子供にはやさしい天使のように思われている先生が、自分の子供に算数を教えだしたら、殴っていたり。
 他人だから笑顔でやさしく接していられる“間合い”があるわけです。家族だと喧嘩になります。痴呆症のお年寄りでも、他人がご飯食べていないと言っても許せることが、実の家族が言うと情けないとか、腹立つとか、ええかげんにしいやというのがあります。
 “間合い”が近すぎるわけです。

 老人福祉の分野ではこの“間合い”のことを、「ヤマアラシのジレンマ」と言っているわけです。ヤマアラシというのは夏は離れているんですが、冬になると寒いので穴に入って肌を寄せ合うわけです。ところが寄合いしすぎると相手の針が自分に刺さって痛いわけです。と言って離れると寒いというわけで一番良い“間合い”を見つけるわけです。

 介護もそうです。過去の私の研究によると、1日8時間、週休2日、これが人に優しく介護できるのは。これ以上やるとけんかになります。連合という組合の調査でも、3人に1人の介護者は、お年寄りに憎しみを感じたことがある。“間合い”が近すぎるからです。
5 まとめ

 “間”ということでまとめますと、
 1番目として痴呆症のお年寄りに関しては
ペースが大切です。急かすことが一番いけないことです。ただでさえ痴呆症で混乱しているわけですから、ゆったりとしたお年寄りのペースに合わせないといけないわけです。
 ご存じのとおり日本人は、世界で一番せかせかしている国なのですが、せかすほど痴呆症のお年寄りは混乱してしまうわけです。
 宇治に「宿り木」というグループホームがありますが、痴呆症のお年寄りが1年間グループホームにいて、ゆったりとリラックスした生活をしたら、白髪が黒い髪に変わったということがありました。
 言い換えれば世界で一番スピーディな日本社会というのは、お年寄りにとって一番暮らしにくい社会ではないかと思います。

 二番目は
空間です。やはりゆったりとした家庭的な空間というものが、お年寄りの能力を発揮させるわけです。
 痴呆症や寝たきりのお年寄りも、自己治癒力という自分で自分を治していく力を人間は内蔵しているわけですが、不適切な空間だとその自己治癒力が発揮されないので、それが発揮できる良い空間をつくることが大切です。

 三番目は
間合いです。グループホームの話のように、家族だと間合いが近すぎる。かえって他人の方が自立心を引き出したり、いい意味で緊張感で脳に刺激が行ったりするわけです。
 痴呆というのは面白い病気で、いつも一緒にいる家族の場合では呆けるが、時々合う人の前では、正気にみえる・戻るという傾向があります。
<参考>公的介護保険について

 介護保険は2000年4月にスタートします。
 保険料を平均3000円ぐらいを払って4月1日からサービスが受けられます。但し、どれくらいのサービスが必要なのか認定しないといけないので、認定の申請受付は半年遡って1999年10月1日スタートです。

 介護サービスが受けたいとなりますと役所に届け出ます。そうすると1ヶ月以内にどれぐらいサービスが受けられるかという結果の発表があります。
 そのために、申し込んでから2、3日で訪問調査員という人が役所から家に来ます。それで寝返りを打てますか、お風呂に自分で入れますか、自分で掃除できますか、食事が自分できますかという項目を85項目ききます。
 その結果がコンピューターで出てきています。
 それともう一つ主治医、かかりつけ医の意見書とを合わせて、もう一度役所に判定会議というのがもたれて、最終的に一番軽い要支援の6万円から、一番重い場合は35万円のサービスが受けられるという6段階の判定がされます。35万円のサービスを受けたら1割負担ですから3万5千円、6万円のサービスを受けたら6千円を支払うことになります。

 その結果によって、「施設サービス」―特別養護老人ホーム、老人保健施設、療養型病床―を選ぶか「在宅サービス」を選ぶかを決めます。
 今までは老人ホームに入りたいと言いますと、役場や市役所が老人ホームを決定していたわけですが、介護保険になりますと「医療保険」と同じイメージですから選べるようになります。

 介護保険で一番簡単な理解は、介護保険で医療保険と同じようになるという理解です。それで自宅にいる場合は、ここ(資料)にありますように先程判定された金額の範囲内でサービズメニューをつくることになるというのが介護保険です。超したら超した分は自己負担となります。保険料(掛け金)は、65歳以上の年金をもらっている人は年金から天引きされます。それから40歳から64歳までは健康保険と一緒に徴収されます。

 介護保険の問題点の一つは、地域によって保険料が違うことです。
 なぜ、違うかというと答えは簡単で、自治体によって病院にたくさん入れているところほど保険料が高くなるわけです。
 在宅でお世話しているところほど安いわけです。
 ところが今まで小さな町や村では、福祉に力を入れるのが大変だといって、病院にどんどん入れていたわけなんですよね。それが、今回一気に吹き出してきて、一番高いところは保険料が5000円ぐらいになり、高すぎるから安くしろという議論があるわけです。
 その一方で、それは病院に入れているから高くなるので、ホームヘルパーや在宅サービスを充実させて家で暮らせるようにしたら良いという意見もあるわけです。そこは先程言ったように「ホームヘルパーさんに来てもらうのは家の恥」とか、「煩わしい」とか、「それよりは病院へ入れた方が楽だ」という意識が、まだまだ田舎では強いわけです。
 

 

Q:老人保健施設というのはどんな施設ですか。  

A:変な言い方ですが、特別養護老人ホームと療養型病床を足して2で割ったような施設です。

Q:介護施設はだんだんと改善されていくのでしょうか。施設は全国一律ではないのか。  

A:一番のポイントは、やはり個室化だと思います。
 厚生省は、2年も待っている人がいるんだから、今は質より量だといっています。4人部屋でも8人部屋でも良いから増やせと言うのが厚生省の考えです。
 しかし、4人部屋はやっぱり病気になります。あるおじいさんが、出家するつもりで入りますといっていました。 この問題の苦しいのは、良いこと、サービスを増やせばをやると保険料が上がってくるということです。だからそのコンセンサスをとらないとダメですね。
 今、保険料が3000円といわれていますが、保険料を4000円にすれば全室個室にでき ると思います。
 今日本で一番福祉が進んでいるといわれているのが、秋田 県鷹巣町ですが、ここはすごく力を入れていて、サービスも日本の平均の2倍ぐらいあります。介護保険の説明会をもう60回ぐらいやって、鷹巣町の人が保険料4500円でも良い福祉ならOKといっているわけです。
 しかし普通の地域にいくと、サービスはどうでも良い、保険料が安ければ良いという声が強いわけですからどうしても地域に よって格差が出てくるわけです

Q:訪問調査とかで来られる方はなんか資格を持っているのですか。

A:訪問調査というのは非常に重要なので、役場か市役所の正規の職員か、ケアマネージャーといいまして国家資格を持っている人かどちらかです。  


Q:認定されると、ヘルパーさんが来られるでしょう。これは資格がいるのですか。  

A:必ずしも資格はいらないのですが、今は資格がないと雇ってもらえない。ヘルパーの3級なら50時間、2級なら130時間の講習で取得できます。これからどんどん増えるでしょうが、とても給料が安いし、1年契約だし、労働条件が非常に悪いです。労働条件が悪いので待遇を良くして上げようというのは良いですが、保険料がまた高くなってくるわけなのです。 


Q:民間の会社なんかでやるというのも出てくるでしょうね。  

A:セコムとか、ダスキンとか、フランスベッドなど色々なところがホームヘルプをやって、これは公より30%ぐらい安いです。松下電工もやり出すといっていますし、これ までの公でやっていたところは生き残れないのじゃないですか。
  例えば、市役所の職員がやっているホームヘルプというのもあるのですが、1日8時間労働の場合、実際にお年寄りの家にいっているのが4時間であとはデスクワークをやってしまうのです。
 また、1日に3軒しか回わらないとか。ところがシルバービジネスだと、デスクワークなんか1日30分でよい、1日7軒回われとか実労時間を増やすわけです。
 それから、公務員ですと50歳くらいのホームヘルパーさんなんて年収1千万円以上になるわけですが、シルバービジネスでやると、若い安い人を揃えますか ら年収300万円ぐらいでいける。  


Q:それで徴兵制度のない国やから、遊んでいる学生をつかまえて1年間やれというよう にしたら良いと思います。  

A:ドイツでは、徴兵を拒否した人は代わりに福祉活動をするという制度を既にやっています。  


Q:そろそろ歳がいってきたので、ちょっと高いけれど福祉の充実した町に移ろうかなんてこともありえるのですか。  

A:出てくると思います。例えば鷹巣町へ行ったら4500円だけど個室の老人ホームに入れるわけですから。
 今、有料老人ホームがありまして、いい有料老人ホームで個室の所は入居金が3000万円、月々30万円ですからそれを思ったら福祉の進んでいるところ へ行った方が良いわけです。
 これから問題になるのは、よそ者が来て個室の老人ホーム取られたら地域住民は起こるでしょう。だから他の自治体は後回しとか。  

C:すでに東京近郊なんかではかなり起こっています。この市の住民のための枠、都内から来る人の枠というのを数を決めて受け入れしています。  

A:例えば東京の人が神奈川の老人ホームを利用したいという場合には、東京がその老人ホームの費用を払うわけです。
 ただ、ややこしいのは、神奈川はそこで住民票を移すのはやめてくださいというわけです。逆もあるかも知れませんよ。自分は寝たきりにならないので安いところに引っ越すとか。  

C:介護・デイサービスを受けようという気に本人がなり、家族がそう思うかです。恥の文化、これがなかなかダメです。奥さんは介護に疲れているから何とか介護のヘルパーを家に入れたいと思っても、ご主人は嫌だという、また、本人も他人はいやだというように、意識革命が常に必要です。 老人ホームが正解なんだとか、ヘルパーをちゃんと入れないダメとか、そこからまずやらないといけないわけです。みんな実際に介護をしている人は、ヘルパーを入れたいという意識はものすごくあってもそこまで踏み切れない家がほとんどです。

C:家族の壁というか、その壁をうち破らないといけないわけです。島根県の農村部のある町に若妻の会が主催で講演に行った時に、幹事の方が来られて本当は60人ぐらい来てくれる予定だったのが、家族の反対で20人はこれなくなったと謝るわけです。結局、こうした福祉の勉強会で、老人ホームの話とかホームヘルプの話を聞くということは、あそこの嫁は、福祉の任せようとしていると言われるわけです。 この勉強会の後、若妻の会が、利用するしないは別にして、地元にある老人ホームというのはどんなものか見に行ってみようと見学会をしました。それがまた、「あそこの嫁は見に行っていたで、あんたもいれられるで」と町で大問題になりました。行っただけで入れる気やろうと、それから親子関係が気まずくなったということです。  

Q:そういうところが圧倒的に多いのでしょうね。  

A:多いです。デンマークの福祉の言葉で、"Love is not enough"という言葉があって、日本語で「愛はか弱い」といういうことで、愛だけでは長続きしない、愛も必要だけど、愛だけでは介護は長続きしない。愛が枯渇しないうちにヘルパーさんを利用するとか、他人の手を入れて家族も休息をとって愛を復旧すると言われています。  

C:1週間に1回、たとえ2時間でも3時間だけ自由に息を入れるというか、夫婦で買い物に出かけるというそれだけでも全然違うっていわれます。1週間に1度午後2、3時間だけでもなかなかとれないわけです。ましてホームヘルパーさんというのはもってのほか、老人病院なんかとんでもないという意識改革が必要です。それでは自分はどうかというと、自分の親父が80歳以上でまだ介護を拒否しているわけなんですが。何とかこういうものだよを教えようとしても、聞く耳をもってくれない。誰が一番困っているのかというのを認識してもらおうと思って、何か方法がないかなっていつも思っています。

C:介護保険の面白いのは、今3000円が平均と厚生省が考えているのですけど、介護が必要な人が250万人のうち100万人しか申請しないというのが前提になっています 。4割が申請したら3000円ということは、6割が申請したら4500円になる。だから、困 っている人の6割が、私は困っているけど家族に頼るといってくれた方が、国は助かるわけです。でも家族はたまらないわけです。保険料は支払っているのに、使うと申請しないのですから。日本のお年寄りや家族が、保険料払っている以上利用せな損やなと言い出したら大変なことになるわけです。  


Q:山井さんの研究所というのはどういうことをしているのですか。  

A:名刺の裏にも書いてあるのですけれども、本を書くというのが1つの大きな仕事です。今も2冊本を書いていまして、介護保険の本とグループホームの本を書いています。また、テレビ番組の企画をつくったり、自治体の計画書をつくったりもしますけれども。


Q:山井さんが認定した3ツ星の病院とかどうですか。  

A:痴呆になられたら、病院ではなくグループホームが良いです。今、日本に100カ所しかないです。

C:今言っておられたようにプライドが高くって、神経的に非常に難しい人もおられるでしょう。そういう人が入られて、中でまたトラブリそうと思います。社交的な人はいいですけど。

C:グループホームで問題になっているのは男性です。女性の方は、趣味とか、料理するとか、編み物をするとか何か役割があるのですが、男性はなかなか役割がないのです。  

 先日、京都南部のけいはんなプラザでの講演した内容のテープ起こしができましたので、掲載します。テープ起こしをし、掲載を許可してくださった沢尾さんに感謝申し上げます。


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