グループホームとの出会い、
                          設計ポイントとは?


 介護保険の中で「痴呆ケアの切り札」と言われるのがグループホームです。
グループホームとは、5−9人の初期から中期の痴呆性高齢者が介護スタッフと共同生活をする場です。

そこでは、家事や趣味を楽しみ、本人の持てる力を発揮してもらう「生活リハビリ」が行われ、痴呆症状をやわらげ、その進行を遅らせる効果があります。

 私が生まれて初めてグループホームを訪問したのは、今から11年前。スウェーデンの「バルツァゴーデン」というグループホームでした。ここには、病院に入院していた痴呆性高齢者が7人移り住み、介護スタッフと共同生活をしていました。 

 痴呆症の入居者が私服で暮らしていたことが、私にとってはまず感動でした。病院や施設では、病衣や寝間着が多いですから。

 入居者のシグバードじいさん(92歳)は、元散髪屋さん。病院の痴呆病棟に入院していました。病院では、寝間着姿で一日過ごし、目もうつろで、ベッドの上に座っていたり、病院の廊下をあてもなく歩きまわるばかりでした。
しかし、シグバードじいさんが、グループホームに住むようになってから、キッチンをのぞきこむことが増えました。

グループホームでは、朝からコーヒーやスープのいい匂いをグループホームの中に充満させています。
「家庭の匂い」がすれば、入居者の脳の働きも活性化するからです。

 家族によると、シグバードじいさんは、昔から料理が得意だったそうです。だから、いい匂いがしたり、調理をする音がすると、キッチンをのぞきこむのでした。

 痴呆であるためシグバードじいさんは、難しい調理はできませんが、ジャガイモの皮をむくということぐらいはできます(スウェーデンでは主食がジャガイモ)。グループホームでは、家庭的な雰囲気を演出するため、スタッフも入居者と一緒に食事をします。

 スタッフが、「このジャガイモおいしいわ。シグバードじいさん、ありがとう」と声をかけると、シグバードじいさんも笑顔になります。ジャガイモの皮をむくという簡単な役割を持つことによって、シグバードじいさんは顔もいきいきとし、痴呆症状もやわらぎました。


 生きる意欲を失っている痴呆性高齢者に、生きがいを取り戻してもらうこのような取り組みは「心のリハビリ」と呼ばれます。

 ここで一つの実験が行われました。再び、シグバードじいさんを病院の痴呆病棟に連れて行き、ベッドの上でジャガイモとナイフを渡してみました。ベットの上では、シグバードじいさんはジャガイモをむけなかったのです。

 この理由について、スウェーデンの老年科医であり、グループホームの産みの親と呼ばれるバルブロ・ベック・フリス博士は、
「家庭的で住み慣れた環境でないと、痴呆性高齢者の残っている能力は発揮できません。大きな施設や病院のような慣れない環境では、痴呆性高齢者はますます混乱し、症状は悪化するばかりです。つまり、痴呆ケアは、住環境が大切です」と言いました。 

グループホームが3200ヶ所に10倍増!

 日本でもグループホームの効果が実証され、グループホームは介護保険の正式メニューとなりました。現在、約300ヶ所ですが、厚生省が1999年末に発表した「ゴールドプラン21」では、2004年度までの五年間に10倍増の3200ヶ所に増やすことが明記されました。
 では、「痴呆性高齢者にとっての理想的な住環境」と言われるグループホームは、どのようなものでしょうか。以下に8つのポイントを述べます。

1、小規模な設計

 痴呆症のお年寄りは、大きく広い大人数の環境では、ますます混乱します。
小規模であれば、居心地がよく、落ち着きます。
この小規模とは、日本の厚生省では5−9人規模と定義されました。(スウェーデンでは、6−8人規模と定義されています)

2、家庭的で親しみやすい設計

 グループホームを「自分の家」と感じ、くつろいでもらえることが大切です。
 私が今日まで訪問したグループホームでも、民家改造型のほうがバリアフリーではないが、落ち着きがよいと感じました。
新築で完全バリアフリーのグループホームは、廊下など空間が広すぎて、「ミニ施設」になり、家庭の雰囲気でないようにも感じます。
 ここが苦しいところ。バリアフリーを徹底すれば、「ミニ施設」になりかねないし、こじんまりとした家庭的な雰囲気を残そうとすると、バリアフリーが徹底できないというジレンマがあります。廊下も短くし、広すぎないようにすることが大切です。
 イギリスでは、カーペットの床が、家庭的な環境をつくるために不可欠です。その結果、カーペットの掃除が大きな作業です。日本では畳。
 高すぎる天井や大きすぎるスペースや部屋なども、「家らしさ」を奪ってしまいます。

3、地域に溶け込んだ設計

 外観からはグループホームとわからないくらい、まわりの住宅と違和感のない建築が理想です。あくまでも「普通の家」であることが、居心地の良さのポイントです。

4、分かりやすい設計

 居住者が自分がどこにいて、どこに行こうとしているかが見え、感じ取れるための「視覚的なアクセス(見通しのよさ)」が大切です。
介護者にとっても居住者がどこにいるかを見ることができます。
 年齢とともに眼球が黄色味を帯び、視覚が弱ります。たとえば、トイレをわかりやすい位置に設置し、目印をつける。これは、お年寄りの排泄の失敗を減らすことになり、お年寄りの尊厳を保つだけでなく、介護者の仕事を軽減します。

5、落ち着ける設計

 無関係な刺激は減らさねばなりません。ギラギラ並んだ刺激は、お年寄りを混乱させ、場所をわかりにくくさせます。
 「痴呆性高齢者にとっての騒音は、車椅子にとっての階段のようなものだ」といわれています。見知らぬ人やけたたましい騒音の侵入を最小限にし、落ち着いた静かな環境づくりに配慮すべきです。
 ですから、個室と共用のリビングの両方が必要です。

6、自尊心・自立心・個性を高める設計

 「食事の用意」をし、「そうじ」をしたり、「洗濯物を片付け」たり、「犬を散歩」に連れて行ったり、「うさぎを飼ったり」、「庭いじり」をしたり、といった家事や日常の活動に参加しやすい設計が必要です。
 個性を高めるためには、個室で、思い出の品々を持ち込めるスペースが必要です。

7、家族や訪問者を歓迎する設計

 ある時、私がグループホームも訪問し、一人のお年寄りと話していると、「うるさい!」と他のお年寄りに叱られてしまいました。四人部屋の老人ホームを訪問した際なども、同じようなことを経験しました。
 グループホームには家族や訪問者を歓迎し、訪問しやすい設計が必要です。他の居住者を邪魔することなく、お年寄りと家族や訪問者が一緒にいるための寝室以外の場所が必要です。

8、安全な設計

 グループホームでは、「活動的な生活を奨励」するがゆえに、「転倒による骨折事故」が多いのです。風呂場、トイレのバリアフリー徹底も大切です。ただ、安全性のみにとらわれすぎると、自主性・自立心・自尊心の向上はどこかに行ってしまいますの、そのバランスが大切です。


 こう考えてみると、従来の痴呆病棟の大部屋という環境は、痴呆症のお年寄りにとって、もっとも適さない住環境であることがわかります。 
 健康な人々に対する以上に、痴呆の人々には住環境が、大きな影響を及ぼします。
「痴呆症だから、どこに居ても同じ」なのではなく、「痴呆性だからこそ、よい住環境で生活しないと、ますます症状は悪化する」のです.


 将来的には、グループホームは痴呆性高齢者のみならず、虚弱な高齢者の住宅としても増えるでしょう。
 グループホームが小学校区に1ヶ所(全国で25000ヶ所)くらいに増え、痴呆症になったり、身体が弱ったりしても、町はずれの施設や病院でなく、住み慣れた地域で住み続けられる社会になることを祈っています。
               
                   


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