痴ほう性高齢者グループホーム

介護スタッフと暮らす“我が家

 2015年には4人に1人が65歳以上になる。
 高齢者を支えるシステムづくりを急ピッチで進めなくてはならないだろう。
 そんななかで注目されているのが、痴ほう性高齢者のための「グループホーム」。
 4月から始まる介護保険制度でも、グループホームは高齢者の居宅とみなされ、居宅介護サービスの対象となる。
 ハウスメーカーもグループホーム向け商品を開発し始めた。
 グループホームはどんな住まいで、どんな利点があるのか、やまのい高齢社会研究所所長の山井和則さんと、大和ハウス工業標準建築事業本部シルバーエイジ研究所長の廣瀬元紀さんに聞いた。


  • 小規模で家庭的な環境生かす    山井さん

  • 全員に個室、バリアフリーも      廣瀬さん


2010年には225万人にも

 ――高齢化が進むなか、痴呆の高齢者も増えています。

 廣瀬
 現在、痴ほう性高齢者は約150万人。2010年には約225万人と予想されています。痴ほう性高齢者の75%は自宅で介護され、残りは特別養護老人ホームや老人保健施設、病院などにいます。家族や高齢者本人の負担をやわらげることが急務です。

 山井 
 11年前、スウェーデンに留学し、痴ほう性高齢者が暮らすグループホームを知りました。お年寄りは寝間着ではなく洋服を着て、ジャガイモの皮をむくなど簡単な家事をこなしている。残っている能力を使い、穏やかな表情で人間らしく暮らしていました。痴ほう症状を和らげるためには、殺風景で大きな施設ではなく、小規模で家庭的な住環境がいいのだと、帰国後、グループホームの必要性を訴えてきました。

 ――グループホーム。まだなじみのない言葉ですが。

 廣瀬
 5人から9人の 痴ほう性高齢者 と、お世話する専門の介護スタッフが共同生活をする住まいです。施設ではなく、あくまで住まいです。

 山井 
高齢者のペースに合わせて生活をします。介護の専門知識を備えたスタッフが、高齢者と「水平な関係」を築き、支えていくのです。在宅介護と施設介護の良さをミックスしたものといえます。

 廣瀬 大きな敷地は必要ないので、都心部に作れることもメリットですね。本人も住み慣れた地域で暮らせ、家族も訪問しやすい。
 また、これまでの介護施設は相部屋が基本でしたが、グループホームには個人の居室があります。

 ――小規模で、スタッフと入居者が「水平な関係」だとケアのあり方にどのような違いが出てくるのでしょうか。

 山井 
これまでの施設は、スタッフが「全部してあげる」介護でした。料理を作ってあげ、食べさせてあげる。グループホームでは、スタッフとお年寄りが一緒に料理を作って一緒に食べます。料理を作ったお年寄りに「〇〇さんのおかず、おいしかったですよ。ごちそうさま」と言うと。うれしそうな表情をされます。自分が役に立っている、必要とされていると感じる、その実感が痴ほう症を和らげるのです

 廣瀬 
個室に使い慣れた家具や思い出の品を置くと、痴ほうのお年寄りも「ここが自分の場所だ」と認識でき、安心するのです。当社が2月から発売を始めた「ダイワカーム21」にも入居者全員に個室があり、そこからリビングなど共用空間へ自然と移れるような設計になっています。キッチンは広め、段差のないバリアフリー設計も採用しました。

 自社工場でコスト削減  

――今後、どのぐらいのグループホームが必要なのですか。

 山井 
厚生省は2004年度までに3200ヶ所を目指していますが、5年後の目標値としては低い。せめて中学校区に1ヶ所。つまり、全国に1万ヶ所ないと、いざ希望しても利用できません。

 廣瀬 
2004年度には痴ほう性高齢者は約180万人になる予測。3200ヶ所ではわずか2万数千人分しか確保できません。

 ――数を増やそうとすれば、建築費や人件費などコストの問題は避けて通れませんね。 

 廣瀬 
当社がグループホーム市場への展開をしたのも、その点を考ええのことです。自社工場を持ち、工業化技術によって、良質なローコストで提供できます。住まいづくりについては大きな蓄積がありますし。

 山井 
すでにスタートしているグループホームでは、高齢者一人当たりの介護・運用費用に35万円から40万円使っています。痴ほうの人を受け入れる病院では45万円ほどかかりますから、グループホームの方が質の高い介護サービスを提供できる上、社会的コストも低く押さえられます。が、介護保険で認められた報酬は一人当たり25万2千円。あまりに低すぎますが、将来的にはアップするはずです。

 小規模だけに、ケアの質がスタッフに左右されます。スタッフの教育研修が重要。グループホームは、領の拡大と質の充実を両輪で進めていかないと・・・・。

 ――他に今後の課題は?

 廣瀬 
グループホーム向け住宅に最新技術を搭載することはたやすいが、安全性や利便性を優先しすぎるのは良くないかもしれない。高齢者の使い慣れた旧式のガスコンロがいいのか、あくまでも安全を考えて電磁調理器が良いのか。試行錯誤が続くと思います。

 山井 
穏やかに生きている痴ほう性高齢者の姿を身近に見れば、地域の人々の痴ほうを見る目も変わります。地域の人々が気軽に立ち寄れるグループホームを増やしていきたいですね。

 廣瀬 
保険料を払う代わりに、サービスを権利として主張できるのが介護保険制度のもう一つの側面。行政に対して箱(建物)の建設だけでなく、サービスの内容や質についても求めるチャンス。グループホームは行政の福祉に対する意識を変える起爆剤になるのではないでしょうか。


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