これは「2000年1月10日付の朝日新聞関西版・主張・解説」欄に掲載されたものを、タイプしたものです。インタビュー記事です。
 新聞のようなインパクトがなく残念です。どうぞ図書館で本物の新聞で再度ご覧下さい。
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どこへ日本

家族は心、身体はプロに

寝たきり、痴ほう症・・・
21世紀も「軽老社会」が続きますか

財源・サービス、知恵絞って

新ミレニアムに

■2025年の日本は、65歳以上の高齢化率が27.3%で世界一となり、寝たきりの人が229万人、痴ほう症は322万人に達するという推計があります。

 「一億総介護不安の時代。とくに中年以降の世代は親の世話、自分の老後と,考え詰めれば深刻にならざるを得ない。無理心中が起き、寝たきりの親の世話に退職する人もいる。介護離婚も増えている」

 「寿命が延び、核家族化が進んで寝たきりや痴ほう症の問題が出てきた。1989年にスウェーデン、イギリス、アメリカなどの老人ホームを8ケ月かけて回って「軽老国・日本」を実感したが、その象徴が『寝かせきり』です」

■二十代から高齢者問題にかかわったのは。

 「大学院で化学を研究しながら、福祉施設でのボランティア活動に熱中した。いざ就職という時に、『社会のぞうきんになれ』という高校時代の恩師の言葉が よみがえって福祉の道へ進みました。1988年に実習に入った特別養護老人ホームでのことが忘れられない。帰り際、『一緒に連れて帰って』と私の腕を離さない 寝たきりのお年寄り。横で泣いておられた面会の家族・・・。もう、この問題か ら逃げられないと感じました」

 「寝たきりの多くが、十分な介護を受けられなかった『寝かせきり』の人災。『経済大国』なのに、福祉を軽視したからです。お年寄りにお金をかけるのはも ったいないと考えるのか、安心して老後を送れる社会を作りたいと考えるのか、問題を突き付けられているのに気づきました」

■今春、介護保険制度がスタートします。

 「まがりなりにも後者を選び、老後を家庭内の問題ではなく社会問題だと位置 づけたのです。介護保険は、保険料を支払う被保険者として気兼ねなくサービス を受けられ、同時に受ける権利を主張できる点で画期的。『保険あってサービス なし』には異議申し立てができます」

 「でも、介護保険ができてもう安心、とは言い切れない。寝かせきりは介護の プロの手が入るので少なくなるが、150万人いる痴ほう症については『痴ほう ケアの切り札』グループホームの整備が遅れている。今、約百カ所しかなく、お 年寄りを住み慣れた地域で支えるため、小学校区に一つ、2万5千カ所は欲しい」

■介護保険に不安・不満が多いです。

 「発足当初は混乱しても、長い目で見ればきっと良くなるはず。介護保険は、保険料を安くして低いサービスで我慢するか、高い保険料で手厚いサービスを受 けるのか、さらに保険給付にないサービスを付け加えるかは、住民の意向を反映した市町村の判断。住民にとっては、老後の沙汰も住んでいる市町村次第にな る。安心して年をとれる地域を目指し、介護保険を権利者としてどう育てていくかが問われます。そのためにも、自主財源を伴った地方分権を実現しなければ」

■スウェーデンを参考にしているようですが。

 「『高負担、高福祉』の印象が強いですが、注目すべきは改革の決断力です。1990年代の初めに医療中心から福祉中心へ転換した発端は痴ほう対策。『社会的 入院』が医療費の高騰を招き、どこでみるかの議論の後、家庭では無理としてグループホームを推進したのです。今何が必要か、何をすべきかを見極め、政策として取り上げる姿勢は参考にすべきです」

■今後、日本の取るべき方向はどうなりますか。

 「高齢化率が『敬老』の形を決めます。21%を越えた超高齢社会は、医療・ 看護・介護の三面でお年寄りとその家族を支えるしかありません。医療費の膨張 を抑えるためにも、在宅医療、在宅福祉を充実させる方向に向かうべきです。24時間巡回ホームヘルプや夜間医師・看護婦訪問制度を普及させ、痴ほうや寝たきりをできるだけつくらない予防的高齢者対策を強化し、『家族は心、身体はプロに』の役割分担をつくりたい。一部の政治家の言う『子供が親の面倒を見る 美風』は時代錯誤、家族が優しく介護できるのは一日八時間が限度です。ただ、増え続ける独り暮らしのお年寄りが抱く孤独感にどう取り組むか、答えは出てい ない。ボランティアの力が必要でしょう」

 「日本はどこの国も経験したことのない速さで超高齢社会への道を走ってい る。医療、介護いずれの保険も財源問題が課題であり続けるだろう。お年寄りにどのようなサービスを確保するのか、どの程度の負担を覚悟できるのか、まだ 万民の合意はできていない。みんなで知恵を絞り、議論を積み重ねるしかない。『敬老社会』の入り口はまだ先。実現は、私たち中年世代の頑張りにかかっています」


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