「グループホームの基礎知識」の出版に込めた思い

2000年4月5日


 この本は、3つの理由から執筆しました。

 1つ目の理由。

 グループホームが介護保険の正式メニューに入ったため、多くの人がグループホームに関心を持つようになりました。
 
 私のところには、連日、「グループホームをつくりたい」「グループホームについて知りたい」「グループホームの記事を書いてほしい」という相談が舞い込みます。

「どうすればグループホームがつくれるか?」というガイドブックの必要性を痛感しました。

 本書では、5章で「グループホーム開設の10のアドバイス」を載せました。十分な内容ではありませんが、かかる費用のシュミレーションや行政との相談内容など、少しはお役に立つと思います。


 2つ目の理由。

 このようにグループホームを開設したいという声が増えるのですが、中には「グループホームとは何か?」を十分に知らないのに、「土地の有効利用」「金儲けになる」という次元でグループホーム建設を考える人も増えています。

 そこで、「グループホームケアとは何か?」「どうすればグループホームのケアの質を保てるか?」ということを述べました。「グループホームを始めるなら、最低限これくらいのことは知っていてほしい」という内容です。劣悪なグループホームを許さず、グループホームの質を向上させることは、私たちグループホームを推進する者の責務です。これからグループホームが増えようという時に、グループホームで事故や虐待でも起こったら大変なことになります。


 3つ目の理由。

 1つ目の理由とつながるのですが、いくら考えても「グループホームは採算が成り立ちにくい」のです。グループホームはつくりにくいのです。私もここ数年、グループホームづくりにかかわって、その難しさは骨身にしみて痛感しています。

 「グループホームが痴呆ケアの切り札」であるのに、このままでは増えません。現在、160万人痴呆性高齢者がいるのに、グループホームは推定300ヶ所(2500人分)。痴呆性高齢者500人に1人しかグループホームが利用できない。この整備の遅れに対する憤りを私は抑えることができません。

 具体的には、「グループホームの介護報酬がなぜ、療養型病床より17万円も安いのか」、「単独型グループホームになぜ建設補助がでないのか」、「グループホームの自己負担はなぜ特別養護老人ホームなどの二倍なのか」。

 もちろん、いろいろ理由はあるでしょうが、結果的に、グループホームは、制度上、まだまだ不当に増やしにくくされています。

 このことに対して、私は終章で問題提起し、目標として、全国に5万ヶ所のグループホームを2010年までに整備すべきだと述べました。

 「介護保険もまだ始まったばかり。グループホームもそのうち増える」という意見もあるでしょう。

 しかし、私は悲観的です。私は1989年にスウェーデンでグループホームを知り、1990年頃から本格的にグループホームの普及運動を日本でしてきました。
 当初から「グループホームが痴呆ケアの切り札」ということは、関係者ならわかっていたことです。にもかかわらず、10年たってもなぜ300ヶ所しかないのか。介護保険のメニューにグループホームが入るのは2〜3年前からわかっていたこと。

 なのに、なぜ整備が間に合わないのか。

 私は、ここに日本の根本的な問題点が潜んでいると思います。
「なぜ、よいサービスを増やせないか」。
「なぜ、悪いサービスを減らせないのか」。
「なぜ、こんなに10年以上も時間がかかるのか」。

その間に多くの痴呆性高齢者や家族が苦しんでいるというのに。

 さらに、私がグループホームにここまでこだわる理由は、

  • 「グループホームは、日本人の痴呆に対する認識を根本的にくつがえす」。
  • 「グループホームは、今までの日本の老人施設のあり方に根本的に問題提起する」。
  • 「グループホームは、今までの日本の福祉を根本的に変えるパワーを持っている」。
  • 「グループホームこそが、日本の福祉に夜明けをもたらす突破口である」
    と私は信じて疑いません。

本書に込めた私の願いは、

「絵に画いた餅(グループホーム)を、食べられる餅に!」ということです。

 本書をお読みくださいまして、ご意見、ご感想、間違いのご指摘、ご叱正などを賜ることができれば幸いです。グループホームの普及運動を、皆さんと共にこれからも進めていきたいと思います。

 介護保険のメニューに入っていながら、グループホームがほとんどの自治体に存在しないという現実を憂いながら、介護保険スタートの日にこの本を出版しました。

 なお、今回の本はコンパクトなガイドブックを目指しましたので、敢えて具体的なグループホームの事例などは紹介していません。


 グループホームの事例や効果などについては、前著「グループホーム入門」(リヨン社、1999年)をご参照ください。

 また、私がグループホームをライフワークにするきっかけになったのは、「スウェーデンのグループホーム物語 ーぼけても普通に生きられる」(バルブロ・ベック・フリス著、山井和則・近澤貴徳訳、ホルム麻植佳子監訳、1993年)です。
 スウェーデン初のグループホーム「バルツァゴーデン」の3年間のルポで、グループホームの原点がここにあります。だまされたと思って読んでみてください。

 書店になければ、ご一報頂ければ振込用紙を入れて、お送りします。


 また、最近出たグループホーム関係の良書もご紹介します。

 昨秋に出版された「痴呆性高齢者ケア −グループホームで立ち直る人々」(小宮英美著、中公新書)は、痴呆ケアの本質を突いた素晴らしい本です。NHKスペシャルでグループホーム「しせい」に密着取材した小宮さんの執筆で、拝読して、「深い!」と、私は思わずうなりました。


 また、この3月に出版された「グループホーム読本 ー痴呆性高齢者ケアの切り札」(ミネルヴァ書房、外山義編著)は、日本やスウェーデンの最新事情が満載。具体例も豊富です。


 さらに、この2月に出版された「宅老所・グループホーム 介護保険 Q&A」(宅老所・グループホーム全国ネットワーク編、筒井書房)も、コンパクトにまとまったいい本です。 
                                     やまのい和則 拝

 


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