大阪新聞 2000年12月13日 夕刊 より転載

高齢者福祉の遅れは“人災”

山井和則・民主党衆院議員

世界と日本の老人ホーム 体験ルポを本に

「私は、正直なところ、これらの本が売れなくなる日を待っているんです。でも、“政治の貧困”がある限り、その願いは無理ですワー」。永田町屈指の高齢者福祉問題のエキスパートとして知られる山井(やまのい)和則・衆院議員(民主党介護保険をより良くするプロジェクトチーム事務局長・比例近畿ブロック選出)は、フーッとタメ息をもらす。山井氏が十年前に世に出した高齢者福祉問題に関する著書が、今もロングセラーになっていることについて、「この問題の根が深い証拠だ。ライフワークトして問題解決に取り組みたい・・・」と改めて決意を固めている。
 山井氏の著書として最も知られるのは、「体験ルポ・世界の高齢者福祉」(岩波新書)。英、米、デンマーク、スウェーデン、シンガポールなどの世界の老人ホームでのヘルパー体験などをまとめたルポジュタージュで、二十七刷もの版を重ねている。日本国内の老人ホーム、老人病院などの現場を回り、ヘルパーを体験しながら厳しい「寝たきり現状」をまとめた「体験ルポ・日本の高齢者福祉」(岩波新書)も十七刷となっている。「福祉問題を専攻する大学生、専門学校生や、介護福祉士などの資格収得をめざす主婦や社会人らがテキストに採用しているせいもある」と、出版関係者は人気の秘密を漏らす。

 「寝たきりや痴呆症、あるいは介護を必要とするお年寄りは、全国に二百五十万人もいるんです。多くの人が、選挙にいけない、政治活動もできない、といった状況下に放置されてきたんです。つまり、票にも金にもならないということでとりわけ歴代の自民党政府は問題決を先送りしてきたわけです。私は、十年前にそのことに気がつき、政治家になって、少しでも問題解決に当たりたいという目標で、世界と日本の体験ルポをまとめたんです」

 山井氏は、政治家になったいきさつを淡々とした口調で話す。政治家の二世でもない山井氏にとって、政治家への道はイバラ続きに思えた。しかし、松下政経塾研究員として新聞社の懸賞論文に入賞。その賞金などを原資に約八ヶ月間、インド・カルカッタにあるマザー・テレサの「死を待つ人の家」など世界の老人ホームを一人で辛抱強く回り始めた。

 「とにかく、ヘルパーもしながら色んな勉強をしました。日本の遅れている点もよくわかりました。これまでは大きな組織や圧力団体が関係する問題が、国会で優先的に議論はされてはいたんです。裏を返せば、そういうバックを持たない問題は、どんなに切実でも、深刻でも放置されてしまうわけです。その典型例が、高齢者福祉だったんです」

 政治家の本といえば、普通は政治資金集めの「励ます会」の際の引き出物にされる程度の事が多い。しかし、永田町でも筆マメでは一位二位を争う山井氏は例外だ。二冊のほかにも「家族を幸せにする老い方」(講談社刊)「図解・介護保険のすべて」(東洋経済社刊)なども、多くの高齢者福祉関係者の間で話題のネタ本になっている。

 「私の本が売れる事については、本当、喜んでいいのやら、悲しんでいいのやら、と思いますワ。やっぱり、根底には政治の貧困があったんや、と思います。実は、寝たきり老人の多くが“寝かせきり老人”という人災になっているんですから・・・」と、山井氏はずばり現実を指摘する。


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