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介護保険でこう変わる〜親の介護は安心か〜
第5回 保険の落とし穴

保険の落とし穴

 今回は介護保険の見逃しがちな落とし穴について提起してみたいと思います。
その落とし穴とは、介護者やお年寄り本人が介護サービスを拒否する場合は、保険料を支払っても、介護サービスを受けられないことがある、ということです。そんなケースが実際にあるのか、と疑問に思われるかもしれませんが、これが意外と多いのです。
 例えばA男さん(82歳)。彼は交通事故が原因で下半身不随で寝たきりです。77歳の奥さんが20年間つきっきりで介護をしています。この20年間の間に奥さんは介護疲れで身体を壊して2度も入院し、胃の手術も受けています。このご夫妻に先日お会いしてお話を聞かせていただきました。

「福祉の世話にはならぬ」

 A男さんは「俺の介護は女房にしかできない。他人のホームヘルパーが入ってきて、すぐにできるもんやない」とおっしゃいます。また、奥さんも「60年連れ添ってきた主人の介護は私にしかできません。福祉のお世話になりたくありません」と福祉サービスの利用をかたくなに拒否しています。
「それじゃ、介護保険が始まっても、保険料だけ払って、まる損じゃないですか」と私が尋ねると、「わたしらにゃ、介護保険なんて関係ないね」とA男さん。「お身体は本当に大丈夫ですか」と私がやせ細った奥さんに尋ねると、「仕方がありません。やれるところまでがんばります」と目を伏せる。「こいつが先に死なねえかと、それだけが心配だ」とA男さんの声も沈みます。

介護を社会全体で支える意識改革を

 私が福祉の調査で全国をまわっていると、このA男さん夫妻のような根っからの福祉嫌い、つまり「介護は家族だけでするのが当然」と固く信じている人によく出会います。特にご高齢の方や、懸命に働く企業戦士に、福祉嫌いの人は多いのです。
 しかし、そもそも家族だけでは介護には限界があります。早めに気軽に介護サービスを利用した方が、家族にとってもお年寄りにとってもよい結果となります。寝たきりの予防、痴呆の悪化防止、介護による介護者の共倒れ、家庭崩壊の防止など、他人の手を借りることの大切さはいくら強調しても足りません。介護保険を払うんだから、福祉サービスはお恵みではなく権利である、という意識改革が国民の中でなされないとすれば、介護保険の導入の意味は半減してしまうでしょう。

 私は福祉の研究者として過去10年間に何十ケースも、介護疲れでノイローゼ気味になったり身体を壊したお嫁さん、2年も3年もお風呂に入れず垢にまみれ、やせ細ったお年寄りに出会ってきました。経済的に豊かなはずの日本で、人生の終わりにドンデン返しが待っているという介護問題。介護保険問題を契機として、介護はお嫁さん任せ、女性任せの家庭内の問題というのではなく、社会全体で支える問題という意識改革が進むことを祈っています。

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