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ドイツの公的介護保険
〜介護不安をなくす切り札になるか〜

 人口に占める65歳以上人口の割合を「高齢化率」といいます。ドイツの高齢化率は日本の高齢化率14%より1%程度上回っています。そのドイツでいま、介護の問題が深刻化しています。
 ドイツで介護を必要とする人は165万人(全人口の約2%)。そのうち120万人が家で暮らしています。介護する人の3/4は女性(妻、娘、嫁)で、なんとその6割以上が60歳以上。ですから、お年寄りがお年寄りを介護して共倒れするケースも増えています。さらに、出生率の低下と共働きの増加は、家族介護の将来に赤信号を灯しています。
 このように日本と似た状況のドイツで、介護不安をやわらげる切り札としてスタートしたのが公的介護保険です。この保険は、簡単に言えば、「医療保険の介護版」で、保険料を支払うかわりに、介護が必要になった際に、介護サービスや現金を受けられる制度です。具体的には次のような内容になっています。
〜保険料は月収の1%〜
 ドイツでは95年1月から介護保険料の支払いがスタートしました。保険料は月収の1%で、サラリーマンの場合は、雇用者と折半という形になっています。
 保険を利用するときには、「在宅給付」と「施設給付」の2種類のパターンがあります。「在宅給付」の方では、在宅でホームヘルパーなどの介護サービスを受けたり、そのまま現金をもらったり(これを介護手当という)できることになっています。「施設給付」の方は、老人ホームの利用料の一部が介護保険から負担されます。
〜家族介護の有償化〜
 「在宅給付」の度合いは次のように3段階に分かれていて、現物サービスを利用するか、現金を受け取る介護手当をもらうかを選べるようになっています(1マルク=約70円、ただし、実勢価格では約100円)。

●1日1回介護を要する場合は、750マルク相当の介護サービスか、400マルクの介護手当。
●1日3回介護を要する場合は、1800マルク相当の介護サービスが、800マルク相当の介護手当。
●24時間つきっきりの介護を要する場合は、2800マルク相当の介護サービスか、1300マルクの介護手当。

 さらに、家族介護に社会保険が適用されます。介護をして腰痛になれば労災が適用され、介護期間は年金保険の対象にもなります。年間4週間の長期休暇が認められ、その間は代理のヘルパーが派遣されます。つまり、「家族介護(者)=有償の労働(者)」、「家庭=職場」ととらえられているわけです。
 今まで介護は「無償労働」、「シャドーワーク」といわれていました。しかし、介護を有償の社会的労働と位置づけたのが、ドイツの介護保険の画期的なところであるといえます。
〜老人ホームと病院への影響〜
 「そりゃ、私たちは助かるわよ。公的介護保険ができれば、胸をはって老人ホームに住み続けられるからね」。こう話すハネローネさん(75歳)は、チュービンゲン市(ドイツ南部)の老人ホームに住んでいました。
 ハネローネさんは「私は生活保護を受けているけれど、介護保険ができれば、生活保護を受けなくてすむのよ」といってくれました。
photo  ブラウアーさん(92歳、写真右)は1日3回ホームヘルパー(写真中央)の訪問を受けて、一人で暮らしていました。「介護保険によって、将来的には土日や夜間にもヘルパーさんが来てくれるようになるのでは」と期待していました。ちなみに、写真左は筆者。

 日本では行政から補助が出ているために、老人ホームの利用料は平均月4万円と安く抑えられています。しかし、ドイツでは公的な老人ホームでも全額自己負担なので、月額約5000マルク(約35万円)。年金の平均月額の2倍以上の高額となりますから、今まではホーム入居者の約8割が生活保護を受けていました。
 一方、ドイツでは医療保険があるため、入院の自己負担は非常に安くなります。その結果、高齢者本人も家族も、老人ホームよりも病院を好む傾向が強くなってきてしまいました。こうなると、病院のベッドは高齢者に占領され、治療が終わっても長期入院する患者(社会的入院)が増えてしまいます。家族にとっても共働きを辞めて介護に専念するより、病院にお年寄りを預けた方が安くあがります。
 このような状況を打開するということで、病院や老人ホームの需要を減らすためには、在宅福祉を充実させる必要がありました。その財源をつくるために、ドイツでは公的介護保険が導入されたのです。
〜20年の議論を経て〜
 整理すれば、ドイツの公的介護保険の目的は、

(1)介護を、無償の奉仕ではなく、有償の社会的労働とみなす
(2)人生の最後まで自宅で暮らせるように在宅介護を充実させる
(3)生活保護の受給者を減らす
(4)高齢者の長い入院を防ぎ、医療保険財政の破綻を防ぐ

などです。
 この保険はドイツで過去20年議論されて、やっと導入が決まりました。国民の負担が増えるわりには反対意見はあまりありませんでした。それは、「家族に迷惑をかけたくない」「在宅福祉を充実させて、住み慣れた自宅に住み続けたい」という高齢者の切実な願いと、「長期間におよぶ無償での介護には、家族といえども限界がある」というドイツ国民全体の危機感があったからです。
 しかし、すでに問題点も明らかになってきています。100%介護保険でサービスなどの費用をカバーできるわけでなく、介護を受ける際にもある程度の利用料を負担せねばならないこと。さらに、ホームヘルパーなどの人材養成が追いつかず、現物サービスが足りないことなどです。
 2000年には日本の高齢化率は17%にもなってしまいます。この時点でドイツ・スウェーデンを抜き、日本は世界一の高齢大国になります。日本でもドイツを参考にして、いま公的介護保険の議論が行われています。

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