介護保険施行後1か月半の
             現状と課題 
              2000515日 山井和則
 介護保険が導入され、1ヵ月半が経ちました。私は、介護保険導入に当初から賛成し、推進してきた人間として、ここで私なりの総括をしたいと思います。

 「こうすべきだ」という私の考えに対して、「甘い」「おかしい」など、ご意見もおろうかと思いますので、ご意見を頂ければ幸いです。

 前半は、厚生省の発表のおさらい、後半は私の意見を書きました。

  1. 現状と進捗状況
  2. 厚生省への苦情・問い合わせの内訳と分析
  3. 主な問題点と今後の対応
  4. その他、感じること

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1,現状と進捗状況

  • 介護保険の申請約260万人。65歳以上高齢者2400万人の約11%。
  • 介護保険事業者は全国で3万ヶ所。過去1年で在宅サービス量は1,6倍に増加。
  • 介護保険をきっかけにはじめて介護サービスを受けたお年寄りが全体の2割。
  • 介護保険により、「サービスが増えた。自己負担が減った」などという評価の声と、「 サービスが減った。自己負担が増えた」などという批判の声はほぼ半
  • 厚生省や地方自治体は、「おおむねうまくいっている」と自己評価

2,厚生省への苦情・問い合わせ
   (市町村や業者への苦情を厚生省が集計)

  • 四月前半で         合計2358件
    *内訳 介護認定関係              379件
    「予想より介護度が軽い」など。
    特に痴呆症は軽く判定されがち)

    *ケアプラン作成の遅れ、内容など  354件
    「高齢者にあったケアプランがつくられていない」など

    *サービス不足、サービス内容など  481件
    「ホームヘルパーが予定時間に遅れてきた」
    「 言動が乱暴だ」「予定時間より早く帰った」

     *
    「業者がお年寄りに介護関連商品を売りつけた」など)
  • 利用者負担(サービスの1割負担)  401件
    「自己負担が増えた」
    「今まで無料だったのに有料になった」など
  • その他                    743件

主な3つの苦情原因(厚生省の分析)

  1. 「ケアプラン」という新しい方法に慣れていないことによる利用者、サービス提供業者間での行き違いによる苦情

  2. 事業者の提供するサービス内容に関する苦情

  3. 事業者が運営基準をよく理解していないことに基づく苦情

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やまのい和則の意見
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3,介護保険の問題点を今後の対応

 私も介護保険を推進してきた人間であり、介護保険が順調にスタートした意義は認めるが、以下のような問題点や課題が山積している。

  1. 要介護認定で、痴呆症が軽く判定されがちで、十分なサービスが受けられない
     
     今まで再三、この問題は指摘されていたにもかかわらず、この問題点が解決されずに介護保険がスタートし、痴呆性高齢者やその家族に多大な不利益を与えていることは、今の政権の介護保険への取り組みのいい加減さの象徴である。厚生省は3年以内に見直しと考えているが、そんな悠長なことは言ってられない。早急に見直すべきである。

  2. サービス不足

     これも明らかに政策ミスであり、人災である。介護保険料の徴収凍結や軽減のために約1兆円の赤字国債を発行したが、この1兆円を介護サービス基盤の整備に使っていれば、サービス不足の多くは早晩解消されるはずであった。

  3. 特別養護老人ホームの不足と選択の自由がない

     介護保険によって、厚生年金受給者にとって老人ホームの利用料が安くなった。そのことも一因となり、老人ホームの入居を希望する待機者は一向に減らない。介護保険のうたい文句である「好みの老人ホームを選んで入居できる」からほど遠い現状である。「好みの老人ホームに、長く待たずに入居できる」状態にすべく、老人ホームの整備に緊急課題として取り組むべきだ。

  4. 痴呆性高齢者向けグループホームが全然足りない

     痴呆症の進行を遅らせる効果があり、「痴呆ケアの切り札」と言われるグループホーム(5−9人規模)が、まだ全国に約300ヶ所しかなく、ほとんどの自治体にない。「保険あって、サービスなし」の象徴である。
      グループホームを小学校区に一つ(全国に約25,000ヶ所)整備し、痴呆症になっても、住み慣れた地域で安心して暮らせる社会作りを目指すべきだ。たとえば、保険料の軽減のために発行した1兆円をグループホームに投資すれば、2万5000ヶ所整備(1ヶ所あたり4000万円の建設補助)できた。

  5. 自己負担のアップ

     最も大きな苦情の1つが、サービスの1割負担である自己負担(利用料)のアップである。自己負担が高くて、必要なサービスが受けられないということがないよう、低所得者の自己負担の軽減が必要と考える。
     現在、経過措置がとられているが、もっと根本的に低所得者の利用料を今後もずっと5%にするなどの方策が必要ではないか。

  6. ショートステイが利用しずらい 

     介護保険により、ショートステイが利用しずらくなった。ショートステイについても介護保険の枠内で利用できるようにする。

  7. 介護NPO法人に課税をするのはおかしい

     せっかくNPO法案が成立したのに、十分に介護NPO法人は増えていない。そんな折、大蔵省は介護NPO法人への課税を検討している。私は、介護NPO法人への課税には反対である。市民参加の豊かな福祉社会の実現を目指すために非課税にすべきだと思う。

  8. ケアプランの問題

     「本人に合ったケアプランがつくられていない」などの苦情が多い。様々な原因があるが、最大の原因は、ケアマネージャー一人が50件も担当していることになる。ケアマネージャーを増やし、一人が担当する上限を30件にすべきである。

  9. 介護保険料の格差

     介護保険料には2倍以上の格差があるが、必ずしも保険料の高さは、サービス量の多さと比例しないことが明らかになった。介護サービスは少なくとも、療養型病床が多すぎる自治体で、保険料が高くなっている。在宅サービスの整備を推進し、保険料が高くなりすぎないように誘導する。

  10. 介護サービスの基盤整備を景気対策・雇用創出策ととらえる

     「福祉は経済の足を引っ張る」という考えは間違っている
      今までのダムや干拓や整備新幹線よりも、老人ホームやグループホーム、ホームヘルパーを増やすほうが、経済波及効果も大きいのだから、景気対策や雇用創出策として、介護サービス基盤の整備に全力をあげるべきだ。今までの「福祉は経済の足を引っ張る」という考え方は間違っている。

4、その他、感じること

前代未聞のバラマキ福祉

 そもそも1兆円の赤字国債を発行し、保険料を半年凍結、そのあと1年を半額にしたのは「バラマキ福祉」。
 世界の国々で保険料をとらないでサービスを提供することは前例がない。
 それが選挙対策であるのは、世界的にも前代未聞の「バラマキ福祉」

 1兆円があれば、介護サービス基盤の整備ができていたはず。もっと生きたお金の使い方をすべきであった。

例1)1兆円で老人ホーム10万人分が建設できていた。老人ホームの待機者がなくなっていた。

例2)1兆円で痴呆性高齢者向けグループホームが小学校区に1カ所(全国で25000ヵ所、20万人分)整備できていた。

           以上、感じていることを書きました。

                      
やまのい和則


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