〜「人生の終着駅」で出会ったお年寄り〜

  5月の連休も今日が最終日。
ふと感じたことを書きました。お目汚しお許しください。

 皆さん、「人生の終着駅」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。 いくつもの病院をたらいまわしにあい、最後に行き着く老人病院。

それが、「人生の終着駅」です。

 数年前、私は年末年始を、ある老人病院に1週間泊まり込み実習をして過ごしました。
 私の仕事は、病棟のお年寄り50人のオムツ交換・入浴介助・食事のお世話。1日に100回も200回もオムツ交換をします。

 元旦の昼食を、私は配膳してまわりました。おせち料理は、冷えた鯛の焼き物がありました。
 しかし、中には食事制限のため、「おかゆに梅干1つ」の、お膳もありました。

 私が配膳すると、一人のおばあさんが叫びました。

「兄ちゃん、なんで正月なのに、梅干におかゆだけなの!正月くらい、美味しいもの、食べさせて!」。

 その時は、「うるさい、おばあさんだなあ」と。
 しかし、よく考えてみれば、そのおばあさんは、5年間入院し、生きては二度と病院を出られない身で、指おり数えて正月を待っていたのでしょう。それなのに、出てきたおせち料理が、「梅干におかゆ」。それで思わず叫んだのでしょう。

 もう一人は、「痴呆症で動き回る」という理由で、ベッドにひもで縛られていました。私と看護助手さんがオムツ交換をしようとすると、ひっかこうとします。

 「兄ちゃん、あぶないで!」と、看護助手さんが叫びました。その人をよく見ると、右手で私たちをひっかこうとし、左手で何かをしっかり握りしめています。
 何を握りしめているのか、と見ましたら、「くしゃくしゃになった家族の写真と、ぼろぼろの財布」でした。

 写真は数枚あり、お子さんらしき家族の写真、お孫さんの写真などであった。財布は空のようでした。

 私は、その写真を見て、涙が出そうになりました。
痴呆症になり、病院のベッドで縛られながらも、しっかりと思い出の家族の写真だけは握りしめている。
 さらに、何かの時にはお金が必要だと今でも思っているのだろう。財布を握りしめているのです。


 書き出せばキリがありませんが、私は当時、何ヶ所かの老人病院や精神病院で実習をさせてもらう中で、
「人間がいかに軽く扱われているか」、いや、もっと言えば、「人間が人間として扱われていない」かを知りました。

 あえて老人病院や、精神病院関係者を、弁護するならば、これは病院の経営者はもちろん、現場で働く方々の問題とは言いがたいのです。

「私は根本的な問題点」は、
なぜ、このような「痴呆性高齢者や治療がひと段落したお年寄りが」、病院を「終(つい)の住みか」としているのかです。

本来、「退院しているはずのお年寄り」が、居場所がないため、病院に「長期入院」しているのです。

 問題は、「医療よりも介護が必要なお年寄り」が病院に「長期入院する悲劇」なのでした。


 私は日本だけでなく、スウェーデンに2年、アメリカ、イギリス、ドイツ、デンマークにそれぞれ1ヶ月以上滞在し、「世界の高齢者福祉」を研究してきました。


 なぜ、経済的に豊かなはずの日本で、寝たきりや痴呆性高齢者はこんなに悲惨なのか。

 繰り返しになりますが、
グループホームや老人ホームに、入居したほうがよいお年寄り、が、なぜ、日本ではこんなに多く病院に入院しているのか。


 その解決策の1つとして、介護保険が今回導入されたわけですが、
 私が問題にしたいのは
「こんな惨状が1980年代以降、10年間も20年間も、なぜ、放置されてきたのか」ということです。


 いろんな原因があるでしょうが、私は政治家の責任だと思います。
 
 このような「自分で自分の身を守ることのできない寝たきりや痴呆性高齢者の人権を守る」政治家、国会議員が今までいなかったのです。

 国際的に見て、
「治療がひと段楽した要介護の高齢者を病院に長期入院させることがいかに悲惨なことになるか」を知りながら、放置してきた政治家の責任は大きいと思います。

 政治家は、利権や政治献金や選挙の応援につながる問題には必死で取り組みます。
選挙で応援してくれる組織の言うことは聞きます。


 では、物言えぬ寝たきりや痴呆性高齢者の声は国会で誰が代弁するのでしょうか。

この方々こそ、「介護保険の主人公」なのではないでしょうか。

 介護保険が始まった今こそ、国会に寝たきりや痴呆性高齢者の声を代弁する政治家が必要だと思います。


 老人病院や精神病院で、人生の終末を送っているお年寄りとの出会いが、私の人生を変えました。

 「私は人間なのです。人間らしく扱って!」。

 寝たきりや痴呆性高齢者は、今、声をあげられるなら、こう叫びたいでしょう!
         
 2000年5月7日   山井和則 


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