266 イグアナミステリー by TOMO and ジュラ


[3043] イグアナ ミステリー 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/10(Mon) 00:33
イグアナ エラリーの事件簿
 「保阪邸 縄文仮面殺人事件」

日米の開戦がもはや避けられない情勢となり 暗雲が人々の生活
を 覆い始めた昭和16年8月、東北R県の県都の保阪邸において元R県令(知事)貴族院議員伯爵 保阪厳太郎の長男、帝大生の隆一郎が 突然日本刀を振り回し彼の母親、保阪伯爵夫人美弥と使用人2名を惨殺した後、自らも自殺をはかるという事件が発生した。
保阪伯爵は取り押さえられた隆一郎を官憲の捕縛にゆだねるを恥じ、自らの旧領地であった人里離れたR県の山中に財を投じた洋館の別邸を改造し隆一郎をそこに幽閉した。
一時期 人々はよるとさわると そのうわさでもちきりであったが、その年の12月8日の日米開戦とその後の戦局の中で人々の記憶から忘れ去られていった。

平成15年
 それは、まだ残暑が残る土曜日の昼下がり。
郵便配達のバイクがオスイグアナのエラリーと大学では「虫めづる姫君」ならぬ「イグめづる姫君」の異名を持つ女子大生の岡田睦美の暮らすアパートに1通の招待状をもたらした。

「イグアナパーティのご案内
残暑の候、皆様とイグアナ様にはご清祥のこと、心からお喜び申しあげます。この度、イグアナをこよなく愛する皆様とイグアナ様をお招きして、イグアナをおおいに語るパーティを催したいと思い、ご案内申しあげます。当日はイグアナ様にもささやかながらお席を設ける予定ですので、ぜひイグアナ様同伴でおいでください。」
その下に手書きで 
「睦美、元気ですか!ぜひ来てください。私の婚約者も紹介したいし・・・
  保阪 由衣
「先輩・・・」
招待状の住所を見ると、R県となっている。
一応、母に電話してみると
「いいんじゃない。あそこはいい温泉もあるのよー。」
とのんびりした声で返した。
まあ あの人は温泉があれば幸せな気分になれる人だからと
苦笑しどうせヒマだし、エラリーを連れて行ってみようか、と思い立った。
休暇を願い出るため 大学の研究室の教授に手紙を見せると、
「R県・・保阪・・・ 岡田君 この招待状の送り主
 保阪由衣君の父親という人物は 考古学会でも著名な古代の面の収集家だよ。日本の出土品でも唯一と言われる 縄文仮面を
秘蔵しているといわれているの。もし 見ることができたら ぜひ写真をとってきてくれ」
と言われた。その上 助手の神谷までつけられた。
紹介が遅れたが、私 岡田 睦美は M大考古学教室の大学院1
年生である。
神谷先輩はぼさぼさの髪の毛で よれよれの白衣を着て土器の炭素の放射線半減期を用いた年代測定を生きがいとしている。
おまけに爬虫類 大嫌いというおまけまでついている。
[3045] ちょっと短いですが… 投稿者:TOMO 投稿日:2003/11/10(Mon) 02:02
「神谷先輩、イグアナパーティーですよ。もちろんうちのエラリーも行くんですけど、他にもたくさんイグアナが来るんですよ?は虫類大嫌いの先輩がそんなとこ耐えられます?」 それを言うと神谷先輩はぼさぼさの髪の先まで、という
ような勢いで震えあがり、声を裏返して言った。
「イイイイイ、イグアナパーティー!?僕はそんなの聞いてないぞ?」
「多分、村山先生、招待状の住所と差出人しか見てないんだと思いますよ。で、縄文仮面のことで頭がいっぱいになっちゃって他のことなんか見ちゃいない、ってとこでしょうね」
「ああああああああ…」
私もこんなは虫類嫌いな人と一緒に行くのいやだよ。エラリーだってきっとないへそを曲げるに決まっている。

[3047] 東北道 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/10(Mon) 17:31
散々悲劇の主人公よろしく嘆いた 神谷だったが教授の命令には逆らえず、出発日の金曜日の朝 アパートからだいぶ離れた路上に車を止め私を迎えに来た。そこから携帯で私を呼び出した。
私は自分の物を入れたバッグを背負い エラリーをいれた大型のバッグを持ち車まで歩いて行った。
このバッグにエラリーを入れるとき ひと悶着あったのだ。
『なんでワイがこんな 頭陀袋に入らならんのや』
「エラリー ごめん 神谷のバカが自分の車で行くって言ってきかないのよ。『岡田君の車なら 僕が助手席か後ろの席になるではないですか。ソレが暴れたら僕は走ってる車から飛び降りなくてはならなくなる。』っていうから。
車に乗ったらそっと出してあげるからね。」
『ほな たのむで』
「先輩 ずいぶん遠くに止めたんですね」
「当たり前だろ 君のアパートのすぐ前に止めたら ソレが
飛び出してきてかみつかれたらどうするんだ。さあ乗って」
「エラリーは 猛犬と違います・・・」と言いつつ助手席に乗り込もうとしたら そこには神谷の荷物が置いてあった。
「岡田君は後ろの席で ソレが暴れないようにしっかり抑えといてくれ。出発!」

車は東北道を北へ向かって順調にとばした。
こんないい女を助手席に乗せないなんて 変な男と思われてるに違いないと 心の中で毒づいた。
でも すでにエラリーは後部座席の上で静かに寝ている。
物音を立てて 運転を誤らして私に被害が及ばないように
ちゃんと考えていてくれているのだ。
頭のいいイグアナだ。

「岡田君、なぜ縄文遺跡が関東や東北地方に多く関西以南に少ないか知ってるよね。」
前後の座席ながら 東北の美しい山々が見えるころになると
自然とおしゃべりが弾んできた。
「先輩、研究室の人たちはみんな私のこと 睦ちゃんと呼んでます。岡田君じゃなんか 教授と一緒のようです。ムッちゃんとよんでください。」
「そう、じゃあ そう呼ばせてもらうよ。」
『ワイのことはエラちゃんとはよばんといてや』
「なんか言った?」
「いえ・・えーと 植生と気候が関係していると思います。」
「そう 今から約1万2千年前最後の氷河期が終わると
地球は温暖化した。日本列島は氷河期は海が後退して大陸と陸続きだったけど それを機会に大陸から切り離され独自の文化を持つようになったんだ。」
「そのころの日本列島は今より暖かく、東北地方はとても住みやすい気候帯だったんだよ。」
「そうだったんですか。」
「山のかなり高いところまで 落葉広葉樹林が広がっていた。落葉広葉樹というのは しい、とか かしとか木の実を持つ木だよね。縄文人はそれを食料にしていた。また 冬になると葉を落とすため 日当たりはよくまた 葉が燃料や
肥料になっていた。」
「そのころ関西地方は亜熱帯に近い気候で照葉樹林が広がってたんだよ。」

[3052] 睦美は天国、神谷は地獄…の始まり 投稿者:TOMO 投稿日:2003/11/11(Tue) 01:23
高速を降りてからさらに走ること3時間、R県と隣の県の境の山合いの田舎町にイグアナパーティーが開かれるという保阪家の別荘はあった。そこは、今をさかのぼること60年ほど前、日本刀で母と使用人を殺害して自らも自殺を図った保阪伯爵家の長男、隆一郎が幽閉されていたところだが、そのようなことを、睦美もエラリーも、そして神谷も知るよしはなかった。

保阪家の別荘が近づくにつれ、神谷は細かく身を震わせだした。
「先輩、どうしたんです?震えたりなんかして」
これは多分、これから遭遇するたくさんのイグアナを想像して恐くて震えてるんだ。睦美はそう思ったが、意地悪く尋ねてみた。
「こ、これは武者震いさ、珍しい縄文仮面が見られる機会なんてそうそうないからね」
「先輩、くれぐれも言っときますけど、メインはあくまでイグアナですからね!エラリー、たくさん友達ができたらいいね」
『かわいい女の子、おるかなあ。野郎はこの際どうでもええねん』
[3053] 台風接近 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/11(Tue) 18:05
高速を降りるころから 雲行きが怪しくなりパラパラ雨も降り出していた。ラジオをつけると天気予報が入ってきた。
**大型で強い勢力の台風18号は九州西部をかすめ 一旦日本海に出たあと 進路を東に変え東北地方に再上陸の模様です。中心気圧915ヘクトパスカル、中心から半径200キロ以内は風速40mの暴風圏になっています。また強い雨雲が関東から東北地方にかかり、多いところでは1時間に200ミリを超える雨量が予想され 地盤が弱いところは土砂
崩れなどの・・・・
「やばいことになってきましたね。」
「それよりも この道でいいのかな。どんどん山に入っていく。この地図だと鬼面村のバス停を過ぎた道から入るとなっているが・・・この地図は簡単すぎるよ。」
「ほんと かなり険しい道。イグアナどころか蛇もいますよ。」
冗談で言ったつもりだったけど、神谷はさらに震えあがった。しかし睦美もだんだん不安になってきた。
風、雨とも強くなり、道のはるか下を流れる渓流もにごりが増してきた。
もう 15分もこんな状態だったら2人ともリタイアするところだったが、ようやく森を抜け道の行き止まりというところに、石造りの立派な洋館が出現した。
「へー、よくこんなところに こんな建物建てたなー。」
うっそうとした黒い森の中に御影石でできた古めかしい2階建ての建物が降りしきる雨の中、まるで異界との境のように立ちふさがっていた。車は車寄せに乗り入れて止まった。
「さあついたぞ」
『もう、ついたんか』座席でおとなしくしていたエラリーが
私のひざを伝って 前の座席にクビを出したのと、神谷が後ろを振り返ったのとほぼ同時であった。
「ワワワワ・・・・ァーー。」
神谷は多分車から出たいのだと思うけど 人間ってパニくるとふつーのことできなくなるらしい。
クラクションを鳴らし 窓をカリカリかいている。
『にぎやかなやちゃなー。ワイもよく窓 カリカリやるで』
その音で 家人が気づいたのか重たげな樫の扉が開いた。

[3054] イグアナパーティーの面々 投稿者:TOMO 投稿日:2003/11/12(Wed) 01:39
重そうな樫の木でできた扉を開けて出てきたのは、きちっとタキシードを着こなした初老の男性だった。ここの執事のようだ。睦美は男性に送られてきた招待状を示した。
「岡田睦美様とエラリー様、そして、こちらの方は?」
「私、M大学考古学教室で助手をしております、神谷と申します。こちらのご当主がお持ちの縄文仮面を見せていただきたく、教授の代理で参りました。」
あいさつは立派だが、神谷の姿はよれよれの白衣を着て
るかどうか、ということ以外は普段と大差ない。応対に出てきた男性も、顔には出さないものの、なんだか戸惑っているように見える。それにしても、仮にもパーティーに出席するというのにこのかっこうは…。もうちょっとこぎれいにしてくればいいのに。
そこへ、懐かしい若い女性の声が飛び込んできた。
「あ、睦美とエラリー、神谷先輩も来てくれたのね!」
この別荘の主人にして、著名な仮面収集家である保阪家当主、保阪伸一の長女で、睦美とは大学で2級先輩だった由衣が、肩にメスイグアナのカレンを乗せて現れた。パーティ
とはいえ、そんな改まった席でもないのか、ラフな服装
だ。
「こちらの方は、お嬢様のお知り合いでしたか」
「ええ、大学の先輩です。は虫類がかなり苦手だから、イグアナ用プレイルームから離れたお部屋に案内してください」
これで神谷の寝室も確保され、二人と1匹は別荘に通された。案内役は由衣が自ら買って出る。
[3056] 登場人物 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/12(Wed) 19:39
私たちはそれから ホールに集まっていた人々およびイグアナに紹介された。その場にいた人も、そのとき働いていた使用人も含め この保阪邸にいた人々の紹介をまとめたものを提示する。これを書いているのは 第一の事件が発生した後
神谷が警察に簡潔に説明するためにまとめておいたほうがいいと言われ 書いている。
台風はますます荒れ狂い、雨は天の水桶の栓をぬいたように降り続いている。昨日の夜中以来寝ていない人々の顔に疲労の色が濃い。
保阪一族
保阪伸一  60 保坂家当主 昭和18年生まれ
  八重子 54 その妻 昭和24年
  稔   28 長男  昭和50年
  由衣  25 長女  昭和53年 イグアナ カレン
平田克也  27 由衣の婚約者 設計技師 昭和51年

水尾寛治  59 志乃の夫 飲んだくれの作家?昭和19         年
水尾志乃  58 保阪伸一の妹、寛治の妻 昭和20年
水尾恭子  39 志乃の娘 アクセサリーデザイナー昭和         39年
狭山かおり 43 志乃の娘 知的障害者 昭和35年
狭山亮   41 かおりの夫 画家 昭和37年
狭山翔   13 狭山亮の長男 中学1年 平成2年 イ         グアナ カオス♂ 
狭山葉    9 狭山亮の長女 小学3年 平成6年

招待客
北川春奈  35 ブティック経営 イグアナ 奈々子♀ 
西田秋穂  29 商事会社OL イグアナ  ハリー♂
南沢夏雄  46 個人商店経営 イグアナ あゆみ♀ 
東 冬彦  17 高校2年  イグアナ マトリックス♂
岡田睦美  23 大学院1年 イグアナ エラリー♂

神谷章吾  27 M大考古学教室助手

使用人
本田昭三  61 保阪家 執事
矢部竜蔵  52 コック長
矢部栄子  48 メイド 
品川順子  22 メイド

以上22人が屋敷内にいたはずである。もしも犯行が外部のものの仕業でなければこの中に犯人がいるのである。
あるいは 屋敷内にこの中にいない誰かがひそんでいた可能性も残されるが。
[3059] ホールにて その1 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/12(Wed) 22:24
由衣に案内されてホールに入った。
「みなさん みんなそろっていらっしゃるのよ」
由衣の肩にはメスイグアナのカレン、私の肩にはエラリー、その後ろから自分のバッグを盾のようにして前のイグアナとの距離をとるように神谷がついてくる。
『カレンちゃんっていうんか、かっわいい子や。あとでいっしょに葉っぱたべよか』
『うち いそがしいねん。みなさんおもてなししないと』
『クッシュン**』
「エラリー、むやみに鼻水とばさないで。」
エラリーはまだSVLが10cmぐらいから一緒に暮らしている。イグアナは目で会話するというが、エラリーは確かに私に話しかけているように感じるのである。

「お父様、私の後輩の岡田睦美さんと先輩の神谷さんです。」
「やあ、いらっしゃい。大学時代は娘が大変い世話になって。」
保阪氏は南沢と名のった男と話してる最中であった。
でも私は「こっちは慈善事業してるわけではない」と押し殺したような声で保阪氏が言った言葉を聞いてしまった。
「神谷さんでしたな。M大の村上教授からお電話いただいておりますよ。夕食がすんだら 私のコレクションをお見せしましょう。」
次に紹介された保阪夫人は上から下までブランドもので飾り立てられていた。
「まあ、ほほほほ、岡田さんようこそ。こちら神谷さん?大学の学者様ですのね。由衣も先輩にこんな方がいらっしゃったのなら、どうしてお近づきにならなかったのかしらねえ。
あんな貧乏人の男なんて・・・あら、ごめんあさーせ。」
保阪夫人が別の興味を見つけたのか側から去ると 由衣は睦美にささやいた。
「お母様は克也さんが気に入らないの」
「克也さん こちらが睦美さんと神谷さん」
平田克也は背の高いすらっとした青年であったが この場の雰囲気になじめないのか ちょっとおどおどしているのが気の毒だった。まあおどおどしてるのは 神谷先輩も同じだが。いやびくびくか。

「お兄様。」とよばれた青年は もう中年の男とビールをのんで
すでに酔いが回ったような顔をしていた。
「れ、れれ、由衣の後輩さんですか。それはそれは、妹はこんな
顔してても 意地ッパリでね。そのてんですねーやっぱり 女というのは、素直がいいね。 えっそうでしょ・・」
私の頭の上からつばがとんで来そうだ。
「お兄様 座って。おじ様 おじ様もほどほどにしてね。」
由衣のおばの配偶者の水尾寛治と後で知った。
[3060] ホールにて その2 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/12(Wed) 22:47
保阪の家は由衣をはじめ 美型ぞろいと言える。
保阪氏も渋い中年であるし その妹の水尾志乃も58とは思えないほど若い。志乃の娘の水尾恭子も独身を通しているのは
その美貌に群がる男達を選びきれなかったといううわさがあるくらいだ。しかしその中でも際立った美しさを持つのが狭山かおり
である。
軽い知的障害、発達の遅れをもっているためか、世間のあかに染まっていない純真な少女のようだ。由衣の紹介されたとき、43という年が信じられなかった。息子の翔や娘の葉といっしょにいてもまるで年の離れた姉のように見える。
結婚が遅れたのはその障害のせいだが 一目みた画家の狭山が
モデルにと欲し、その後その妻となった。
[3064] ホールにてその3 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/13(Thu) 18:24
その狭山亮は北川春奈と西田秋穂を相手に身振り手振りを交え話の真っ最中である。どうやら最近仕事でパリに行ったときの話しらしい。
「まあ、それで奥様もご一緒でしたの?」
「いやあ あれは そのどこにも行きたがらないから、置いていきましたが。私の留守はいつもこの別荘に子供たちと一緒にいるのですよ。一人にしておくのは心配なので。」
「先生、奥様だれかに取られると思ってらっしゃる」
若い秋穂がからかうと、
「ははは・・なんなら君とパリに行くかい」
その答えに鼻白んだ春奈が 話題を変えた。
「でも、この屋敷って妙に気持ち悪いのよね」
「ああ、かなり古いそうだよ。立派なつくりだけど何のためにこんな山奥につくったのかなあ。」
そばに来た由衣が客の2人に軽く挨拶して 私たちを紹介すると2人はもちろん エラリーを見た。
秋穂がエラリーの首筋にさわりながら
「まあ 立派なオスだわ。なんかこっちを見てる目が賢そう」と言った。
『てへ、それほどでもないですよって』
「ねえなんかこの子 照れてるみたい。かわいいー。」
「感情表現がゆたかなんです・・・」
睦美もイグアナの話だったら夜通しやってても楽しいし、エラリーをほめてくれると お世辞と思ってもうれしくなる。
親ばかかなーと話を続けようとしたとき
「でも オスって発情期は大変なんでしょ?。メスも卵に気をつけないといけないけど 奈々ちゃんいっぱい卵抱えて
手術しようと思ったけど、ある朝突然産んでて、、」
春奈もイグの話ならと言う感じで話に興じてきた。
そのとき 
「皆様お食事の用意が整いました」
と執事の本田がホールの客に声をかけた。

[3066] 食堂 その1 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/14(Fri) 00:22
その声に一番喜んだのは かおりの子供達だった。
「わー もうお腹ぺこぺこだったん」
「おかあさん カオス部屋に戻してくる。そしたら食うぞー」
はしゃぐ子供に かおりはニコニコした笑みをうかべ
「ダメ、サワイジャネ。オテツダイスルノ、イイコデショ。」
かおりの子供のうち 兄の翔は母そっくりで美しい顔をして、まだ小柄で声変わりもしていないので、女の子のようである。
妹の葉はどちらかというと父に似ていて、少女らしい愛嬌のある顔だった。
「はい。矢部さーん、順子ねえさーん。僕お手伝いするよー。」
2人で台所に走っていった。
私達はホールの隣の大食堂へ向かった。
大勢とは反対に走り去る子供達を見て、水尾志乃と恭子の親子が
かおりを一瞥して言った。
「まあ、お姉さまの子供たち しつけがよろしいこと。お姉さまも施設でよくお手伝いなさってたのでしょうね。」
「かおりさん 子供達さわがせないで。特に翔のきんきん声を聞くとイライラしてきますわ」
かおりは すまなそうな顔をして下を向いてしまった。

「おい、シンデレラかよ」神谷先輩がそっとささやいた。
私も嫌な気持ちになったので、周りを見回すと春奈が訳知り顔で
私達の袖を引いた。
「睦美さん聞いたでしょ。これはね あまり人には話したくないのだけど・・」
『はなしとるやないか。』
「かおりさんって志乃さんの15の時うまれた子なのよ。
それに 父親がだれだか分からないの。志乃さんってちょうど終戦の年に生まれていて、ほら保阪家って戦前は華族様だったでしょ。価値観が変わって混乱していて、一時期不良だったらしいわよ。今はあんなにつんと澄ましてるけどね。」
『なんや やきもちか。』
「だから、なんか自分の過去をばらされてるみたいで かおりさん嫌いなのよ」
私達がおくれて食堂に入ると ほぼ全員の顔がそろっていた。
「あの、エラリーを部屋に連れて行ったほうが いいですか」
『いやや、ここで人間のはなしきいていたいわ。おもろうてな』
「別におとなしくしているのなら。ここにはだれも嫌がる人
いないから。カレンもここにいるし。」
「あっ エーとわたくしは・・・」
「神谷さんはこちらに」と神谷は保阪信一氏のとなりのいすをすすめられた。

[3067] 晩餐 投稿者:TOMO 投稿日:2003/11/14(Fri) 01:58
全員が席につき、エラリーとカレン以外はイグアナ用のプレイルームに下がったあと、メイドの矢部がワゴンに前菜を載せて運んできた。
少し離れたところでは、エラリーとカレンの元にはおしゃれなイグアナサラダが運ばれている。
ようやくさっきまで他のイグアナのゲストの応対に追われていたカレンと話す機会を得たエラリーは普段は食べた
ことがないイグアナサラダにチャンスを賭けた。
『カレンちゃん、いつもこないなしゃれたもん食べとんか?うちのおかん、いつも洗ってちぎっただけやねんで』
『ええやないの、洗ってちぎっただけっていうのも素朴な感じがして』
しかし、端から見ていると、お似合いのイグカップルに見えるのが不思議だ。

[3068] 晩餐2 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/14(Fri) 21:05
『しかし何やな。食べたことないもん多いなー。こりゃなんだ』
『それはハーブね』
『ああ、あの糸張って ボロロロンて音でる、』
『それはハープ、バジルっていうんよ。甘くておいしいわよ』
『バジルっていえば そんな名前のイグいてへんかったか?』
『バジちゃん、京都におるよ。前メールもろたわ』
『メールってどないするんや』
『えっ、「虫の知らせメール」って知らへんの?』
『おかんがよくやってるやつやろ、なんやカチャカチャ指ならしてテレビの画面見とる・・・』
『あんな 重たい箱いらへんのや。伝えたい内容と「虫の知らせメールアドレス」を唱えて クシュクシュクッシューンて鼻水飛ばせば「虫の知らせ」が飛んで行くんよ』
『わいも メールアドレス持てるかいな』
『ええ、かんたんよ。私の「虫の知らせメアド」おしえてあげる わ』
『あっ』
『どないした』
『あゆみからメール入ったわ。やーんマトリックスとハリーがけけんかしてるって。場所の取り合いからみたいやわ。
ちょっと行ってくるわ』
『ほな わいもいくで』
「ちょっと、エラリーどこへ行くの」
と私があわててカレンのあとをついていくエラリーを呼び止めてもエラリーはさっさと出ていってしまった。
「カレンがいっしょだから大丈夫よ」
と 由衣さんは なれているように笑ってた。

「それでは・・」
と保阪氏がワイングラスを持って立ち上がった。
[3069] 晩餐3 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/14(Fri) 22:28
「本日は このような大荒れの台風の中、娘 由衣と平田克也君の婚約披露の席にご出席いただき 大変感謝しております。
なにぶん内輪の披露でありまして、親戚のみと思ったのですが、
娘が日ごろ親しくしてしていただいているイグアナ仲間の方々を
ご招待したいと申しまして、このような席を設けさせていただきました。まあ堅苦しい挨拶はこのくらいで、乾杯をいたしましょう。」
「乾杯!由衣さん、平田君おめでとう」
私はこの挨拶でやっと事情が飲み込めた。イグアナの会とばかり
思っていたのになんで 親戚が来ているのかと。親戚にしてみれば婚約披露になんでこんなにイグ飼いが来ているのだろうということになろう。みんなから祝福を受けた由衣先輩はさすがにうれしそうにほほを上気させている。平田もうれしそうだ。
うれしそうでないように見えるのは 母親の保阪八重子と・・・
東冬彦も あまり表情も変えず乾杯のジュースを飲んでいる。
食事はすばらしかった。オードブルは魚介が花のように盛り付けてあり、ケッパーソースがかかっていた。スープはこの季節らしくかぼちゃの冷スープで器はシャンパングラス。パンは自家製の焼きたてである。つがれるワインも極上らしく何倍でも飲めそうで我ながら怖い。
保阪氏と両隣の神谷と平田の会話が聞こえてきた。
「保阪さん、この屋敷の基礎は大正から昭和初期のつくりのようですが」平田は建築設計技師だけのことはある。
「ああ、さすがだね。大正12年に別荘兼鉱山関係の経済界の方々をもてなすため宿泊するように作られたんだよ。
だから 皆さんの今日宿泊される部屋もホテルのようにそれぞれ鍵がついているんですよ。
 明治から昭和にかけて この辺の山から胴と亜鉛と少量だが金が採掘されてそのおかげで家の先祖は莫大な富を得たとか おやじからきいたことがあるが、今はもうその資源もとっくに枯渇して坑道に通じていた道もどこだったか。それで この建物だけが残ったのでまるで森の中に取り残されたように建っているんだな。」
「保阪さんのご先祖は この辺の領主だったのですか」と神谷がたずねた。
「まあ、江戸時代は伊達家に連なる家の藩主だったらしい。
明治に入って伯爵位をさずかり貴族院議員をしていたらしいが、
華族が名誉はあるが金がないという例に当てはまらず
かなり商才がきいた人間ががでて 鉱山開発で利益をえて、政府関係の御用会社みたいだったとも・・そうそう、私の親父の
前の妻というのが摂関家の出だったらしい。」
「あっそれじゃ 保阪さんは後妻さんの・・・」
おい、立ち入ったこときくなよ。神谷先輩は妙に人に好かれるというか人の懐にはいるのがうまいやつだ、と思った。案の定
「ああそうですね。別に隠すことでもないし。皆知ってることですし。前の夫人は自分の息子、私にとっては異母兄なのかな、その息子に殺されたのです。その後親父は 私の母と結婚し 私達
兄妹が生まれたわけだ。」
[3071] 晩餐4 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/15(Sat) 17:09
「あっ、変なことをお聞きして申し訳ありませんでした。」
「いやいや 私のほうから話したのですよ」
と保阪氏はうなづいて
「私ども兄妹はその事件があったときは生まれていないし、母が東京生まれなもので、大学までずっと東京でしたから
詳しいことはわからないのですが、兄はここの別荘に幽閉されていたらしい・・」
おどろいた神谷と私が口を開こうとしたら、八重子が
「あなた おやめになって。こんな席で話すことじゃないわ」と文句を言った。
水尾寛治が話題を変えようと
「稔君にはいい人いないのかね。妹に先をこされたな。」
水尾は夕食の前から飲んでいたが今もワインを水代わりに飲んでいる。
稔は薄い唇が酷薄な印象を与える青年である。
「女なんて どれも同じですよ、おじさん。どいつもこいつも 僕が保阪の家出で、旧伯爵だなんて知るとキャーキャーいって擦り寄ってくる。頭の中身がまるっきりないやつらばかりだ。」
といって、西田秋穂の方をちらっと見ると その薄い唇をゆがめて笑った。
食事は魚料理に入っていた。
すずきのワイン蒸し、クリームソースでソースのまろやかなクリーミーな味わいに、私はうっとりしてしまった。
「ふん、親の金で女遊びしている、甲斐性なしの癖して!あのことばらされてもいいの」
頭にきたらしい 秋穂が稔にきこえるようにつぶやくと
「なに!わけのわからんことほざくな!」と稔が立ち上がった。稔も酒がかなり入っていて顔は真っ赤である。
一番とばっちりをくったのは 隣に座っていた翔で稔が席をたったひょうしにこぼしたワインを服にこぼされてしまった。
「アラアラ、ショウ フイテフイテキテ」
翔のとなりのかおりがあわてて言った。
翔は台所に走っていった。メイドの矢田部がその後をおう。
「稔さん、ずいぶん足元が危ないようね。もうお酒は控えたら。」と志乃が軽蔑するようにいうと、
「おばさんはいつからひとに説教できるようなお人になったのですか?」と稔が返した。
「まあ。」気色ばる志乃を寛治がなだめてその場は収まったが 上流階級の家と思っていた由衣の一族の実態に唖然としてると向こうの席の由衣が申し訳なさそうのに合図してきた。やはりなにか話しがありそうな様子だ。
そのとき矢田部の押すワゴンにメインディシュの子牛のひれ肉きのこのデミグラスソースがきた。その場の雰囲気を和らげるつもりか 翔は稔と志乃そしてかおりに皿を運んだ。
翔は子供ながら母親のかおりをなにくれとかばっていて見ていてもいじらしくなる。

[3073] 屋敷見取り図 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/15(Sat) 21:49
デザートは紅茶シフォンケーキ アイスクリーム添えで最後のコーヒーが出るころには 私はすばらしい食事にうっとりしてしまった。志乃はあくびをして
「わたくし、少し疲れたみたい。先に部屋で休みます。」と下がった。
「どれ、子供達は元気で遊んでいるかな。」
「イグアナプレイルームなんて さすがお金持ちは違いますね。」と客の4人は連れ立ってイグたちが遊んでいる部屋に行った。
食事が終わると保坂氏が神谷に書斎に来るように誘った。
神谷と私、由衣と平田がついていった。

この保阪邸の見取り図を述べよう。
全体的のカタカナのコの字をしている。コの字の背の部分の一階は先に通されたホールになっていて2階部分も吹き抜けと コの字の上線と下線をつなぐ廊下になっている。上線の一階に食堂と台所、倉庫 使用人の部屋がある。下線のホールのほうから書斎や空き部屋、納戸、その先に温泉をひいた風呂場がある。風呂は各部屋にもついている。空き部屋と温泉の熱を利用してイグアナプレイルームが作られていた。さて2階はすべて客室になっていて、先端の部屋があり コの外側と中庭側に4室計8室 で上線下線合わせて18室ある。
各人の部屋の配置は上線の先端の広い部屋が保阪夫妻、となりの外側の部屋が稔、中庭側が由衣そのとなりが平田の部屋になっている。平田のとなりが神谷で次が冬彦、神谷の向かいが私でとなりが春奈である。反対の先端が水尾寛治と志乃の部屋、その外側に恭子、一部屋おいて南沢、中庭側のとなりが翔と葉、次が
狭山かおりと亮、そのとなりが秋穂の部屋になっている。

保阪氏の書斎に入った私は とたんに度肝を抜かれた。壁一面に
仮面が飾ってある。神谷はとたんに目を輝かせ面の側に近寄った「やあすごいや、これは奈良時代の伎楽の面だ。平安の鬼やらいの面もありますね。
この辺は 室町の能楽、猿楽の面が飾られている。
これは 何の面かな。かなり古そうだ。こんなものがあるなんて・・・」
「おう かなりお詳しいですね。さすがM大村上研究室の先生だけある。それは飛鳥の古墳から出てきたものですが、今なら文化財保護法にひっかかるのだけれど、終戦のドサクサで文化財が闇にまぎれて流れたものをたまたま父が手にいれたらしいですな。
では 縄文仮面をお見せいたしましょう。」
保阪氏はデスクの側の金庫を開き、白木の箱のふたを開けた。
[3074] 白木の箱の中は… 投稿者:TOMO 投稿日:2003/11/16(Sun) 03:35
保阪氏が箱のふたを開く。神谷は待ち切れない、とばかりに持ってきたデジカメをシャツの胸ポケットから出した。普段は土器オタクにしか見えない神谷だが、実は遺跡を発掘していた時の出土品を撮影するためのカメラには結構こだわるカメラ好きであると同時に熱烈なあゆファンだったり、とかなり意外な面も持っている。
神谷のシャツの胸ポケットから出てきたデジカメはそのあゆが宣伝しているバリバリの最新モデルで、買った時も睦美を初め、院生やら村上ゼミの学生やらに見せびらかしていた。
そして、その神谷ご自慢のデジカメの被写体になるはずの
縄文仮面はその中から消えていたのだった。
「ば、ばかな!縄文仮面がない!いつもこの金庫の中に
厳重に保管しているのに」
保阪氏が他の4人より一際高い驚きの声をあげた。神谷がその声に驚いてデジカメを取り落としそうになる。
「そうなんですか、由衣先輩!?」
睦美がいつも金庫にしまってあるのは本当か、という確認の意味でそばにいた由衣に尋ねる。
「ええそうよ、考古学関係の展示会やなんかに貸し出す時以外はいつもこの金庫にしまってお父様が直接管理しているの」
「…ってことは、それを知ってる人じゃなきゃ、あれを持ち出すことはできないってことですよね」
「そうなのよねー…」
その時、デジカメをなんとか守りきった神谷が、箱の中に1枚の紙が入っているのに気づいた。

[3076] 消えた仮面 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/16(Sun) 16:55
《縄文仮面はもらった 保阪一族は呪われるであろう
        隆一郎》
「隆一郎、ばかな なんで兄が生きているんだ。」
「だれかのいたずらに決まってるわ。でもだれが・・・」
保阪氏と由衣の戸惑うようすに 神谷が聞いた。
「隆一郎氏はなくなったのではないのですか。」
その問いに保阪氏が困ったように口を開いた。
「私がまだ高校のころなので はっきりしたことは分からないのですが、それまでこの屋敷内に幽閉されていたのです。そのころになると もう監視が甘くなったのかある日抜け出したまま行方知れずになったとか。戸籍上兄は戦時中に空襲で死亡したことになっているのです。身内の恥を言うようで面目ないのだが
兄と父保阪厳太郎との仲はひどくこじれていたらしいのです。」
「実は・・」と由衣が切り出した。
「メイドの谷田部さんから聞いたことなんですが、3日ほど前
森の中で頭からすっぽり黒いフードをかぶった人影を見たというのです。彼女が物音をたてたら こちらを振り向いた顔が人間の顔じゃなかったとかで 彼女から相談を受けたんです。」
「ばかばかしい。矢田部と執事の本田を呼んできてくれ。」
「じゃあ僕が。」と平田が出て行った。
神谷は壁にかかっている仮面を一つ一つ見回してながら聞いた。
「ところで 縄文仮面とはどのような性質の仮面なのですか。
伎楽や能のような音曲に使う性質ではないように思うのですが。」
「そうですね。現代の核のようなものでしょうか。核による平和という言葉があるように国の間の戦争の抑止力になっていますよね。縄文期は部族間の争いがほとんどなかったと言われています。確かに資源量に対する消費人口はまだ少ないので つまりどの部族も豊かだったため争いは少なかったでしょう。
しかし争いというのはどこの時代にもあるもの。いざ戦となり本格的な戦闘になると 人の損失が大きいのです。つまりそれほどの人口がない部落のなかで人口が少なくなると和平後の村の維持が難しくなる。それで各部族は呪術を用いるのですよ。
呪いというと現代では一笑に付してしまいますが、その当時は
相手の部落に強力な呪術師が現れたときくだけで戦を回避できるのです。縄文仮面は呪いの道具というものでしょうか。
あれほどみごとな仮面を持った部族は 周りから恐れ尊敬されていたと思いますよ。」
そのとき執事とメイドを伴った平田が戻ってきた

[3077] 消えた仮面 その2 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/16(Sun) 22:18

「縄文仮面がなくなったとお聞きしたんですが・・・」
と執事の本田が汗をふきながらオズオズとたずねた。
「それもあるが、矢部さん由衣に話したことは 本当なのかね
どんな顔をしていたか 覚えているか。」
「どんな顔といいましても、びっくりしてしまったもので、そういえばよく社会科の教科書に載ってる土偶というのでしょうか
そのような感じがしました。目がはれぼったくて切れ目がはいってるようで あとはオニのような角があったようで・・・すみません。この程度ですが。」
それを聞いた保坂氏が叫んだ。
「縄文仮面だ。顔はその亀ヶ岡土偶に似ているのです。そして
顔の周りに縄文の刺青の模様があり 頭にかけて火炎土器のような飾りがついているため、鬼の角のように見えるのです。
鬼面村とはそこからついた名前なのです。」
『なるほど、イグアナにも似てるってことやな』
いつのまにか イグアナルームに行っていたエラリーがカレンと一緒に部屋に入ってきた。
『何や、ややこしいことになっとんのか』
「そういえば 亀ヶ岡土偶ってイグアナににてるな」
と神谷がその場の雰囲気に合わないことを言い出した。
「初めて僕はイグアナに親近感持ったぞ。アッ失礼。ところで
その縄文仮面を最後に確認したのはいつのことなのですか。」
「2週間ばかり前のことです。私達家族は夏の間はこの別邸で過ごすので、仮面は7月ごろから本宅の金庫からこの金庫に移されたのですが、2週間前にかおりの婿の狭山くんがパリから帰国して今いる親族がそろったんだ。そうだな本田」
「はい。その席で狭山さまと志乃奥様のご主人の水尾さまが芸術論を論じられて 日本の古代芸術の仮面を見たいということになって このお部屋でだんなさまがごらんに入れました。」
「そのときは 皆見たのですか」
「はい。皆さん日本とフランスの芸術レベルの論争をされた後なので大変興味を持たれ 全員ここにお集まりになりました。」
「その後最後まで残ったのは誰だったかな」
「はい。論争されたお二人と稔様とかおり様でした。かおり様がいらっしゃるので翔様と葉様もいらっしゃいましたが、もうそのころ退屈なさってました。私がお見受けしたところ かおり様は
芸術の才能がおありになるのではないでしょうか。」
「なぜそう言いえるのだね。」
「はい、その後かおり様が スケッチブックを開けてメイドの品川順子に縄文仮面のスケッチを見せたそうです。見たものを後で 思い出して書いたとか。」
「そうだ。そのとき電話がかかって来た。あれは北川からだったな。」
「その間に盗まれたことはありませんか。」
「いや、そんなことはありませんよ。確かに仮面から目をそらしましたが、水尾氏、狭山氏、かおりさん 葉さん、翔君と部屋を出て行くのは見ているし そのとき彼らは何も持っていなかった。それは断言できる。」
「それじゃ仮面は?」
「ああ、電話の内容が面倒くさかったので、時間がかかりましたが、白木の箱が金庫に入ってましたのでそのまま金庫を閉めました。そして部屋の明かりを消し私もホールに向かいました」
「それじゃだれも 持ち出すことは不可能だったのですね」
それまで口を開かなかった平田が不思議そうな顔で言った。
「そうね。」と由衣も相槌をうった。
「私はだれかが 面をその部屋に隠して あとで盗み出したと思ったのですが」
「いや 平田君そのとおりなんだ。しかしこの書斎には鍵がかかるし、私が部屋を出るときは必ず鍵をかけるようにしている。
合鍵はないし、いつも私が話さず持ち歩いているから合鍵を作る暇などない。」
「そうだね。そのときからいままで2週間しかない。合鍵を作ったりするチャンスはないだろう」と神谷。
「ねえ、それじゃ金庫の中から煙のように消えて閉まったわけ?」
私がたまらず声を上げた。
「そして森に現れた・・・」平田のつぶやきに皆ぎょっとしたように顔を見回した。
『なんや 簡単なことやんか』聞いてたエラリーが言った。
しかし残念ながら私にはその声が理解できない。
『えっ本当?うち尊敬するわ』
とカレンがうっとりするように言った。
『盗む暇がないなら、盗まれてないんや』
『ふん、もう知らんわ。盗まれたというとるやないの』

[3081] 停電 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/17(Mon) 22:22

雷鳴がとどろいた。
暴風雨が窓を激しくたたく。書斎の電話が鳴った。
執事の本田が取り受け答えをしている。
「だんな様。村役場からで、こちらに通じる道路で土砂くずれが発生して通行できなくなったそうです。こちらを心配しておられます。」
保阪氏が電話を変わってこちらは大丈夫、食料も水もある旨を伝え電話を切った。
「とんだことになった。これから2〜3日は籠城か。縄文仮面のことも警察に相談しなくてはならないし、とりあえず私と本田で
探して見ます。皆様どうぞお休みください。」
保阪氏はつかれたように言うと、ソファに腰をおろした。
私達がホールに出ると、恭子が呼び止めた。
「平田君。マージャンの人数が足りないの。入って。父は酔っ払って寝ちゃったのよ。」
見ると 水尾寛治氏はだらしなくソファーに寝そべっている。
また雷鳴がとどろいた。恭子はまだテレビを見ていた翔と葉に
ヒステリックに叫んだ。
「翔、葉、いつまでテレビ見てんのよ。まったく母親がしっかりしていないから。早く部屋に帰りなさいよ。かおりはどうしたの」
「お母さんは眠いから先に寝るって。」と葉がいった。
そのときひときわ大きな雷鳴がとどろいた。とたん屋敷中の電気が消えた。
「キャー停電だわ。何も見えやしない。」
「恭子さん落ち着いて。」その声は狭山亮。
「矢部さん、懐中電灯持ってきて。」と書斎から保阪氏がさけんだ。「部屋には懐中電灯が備えてあります。翔君と葉ちゃんは部屋で寝なさい。」
「でも。怖いよ。」と翔が言った。
「じゃあ、僕が一緒にいてあげる。」神谷が申し出ると2人は大喜びで 3人で部屋に戻っていった。
私は由衣と話があるので、由衣の部屋へ行った。だから以下は神谷の話である。第一の凶行はこうして起こった。

「ねえ、お兄さんは考古学者なの。」
部屋に戻ると 暗い部屋で翔が神谷に聞いた。
「うん、まだ学者の卵かな。これから一生懸命勉強して学者になりたいと思ってるよ。翔君は何になりたいんだい。」
「うーん僕も学者がいいな。生物学者」
「そうか 翔君 イグアナ飼ってるもんな。僕はすごく苦手なんだ。今どこにいるの。」
「プレイルームだと思う。暖かいし」
「そうか良かった。」なにが良かったのか。
葉はもう眠ってしまった。
「でも僕植物のほうが好きなんだ。」
「そうか、一生懸命勉強すれば、きっとなれるよ。」
そのときだった。
ぎゃーーたすけてー、あああ という悲鳴が聞こえた。
となりの部屋だと、思い廊下に飛び出した。
廊下の突き当たり、の部屋から聞こえてきた

[3082] 第一の凶行 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/17(Mon) 23:29

「おばあ様の部屋だ!」翔が言った。水尾志乃と寛治夫妻の部屋だが、寛治はホールで寝ていたから今は志乃だけか。
僕はドアをたたいた。
「どうしたのですか。大丈夫ですか。」
きゃあぁぁぁ、やめてーやめてー
と悲鳴が続く。誰か中にいて、志乃が逃げ惑っているのか、ドシン、となにかにぶつかる音もする。
こちらの廊下にはかおりが部屋にいるだけか、だれも出てこない。かぎがかかっていて ドアは開かない。
「合鍵を持ってくる。」と行きかけ、側にいた翔に
「翔君、誰か出てくると困る。部屋に戻って鍵をかけて、開けてはいけない。」と言い残してホールに向かった。
ホールには、寛治がまだ寝そべっていた。乱暴に揺り動かしても
起きる気配はない。書斎に行ったが誰もいない。
あわてて食堂に向かった。食堂のとなりの小部屋で平田と恭子と稔と狭山が ランプの光でマージャンをやっていた。
「やあ 神谷さん 結構雰囲気あるでしょ・・・どっどうしたんですか」
「保坂氏は!」
「自室じゃないですか」僕はあわてて階段を上がった。後で後悔したが、そのときもう一度 志乃の部屋に戻っていればよかったと思ってる。そうすれば・・・
階段は両ウイングに一つづつ付いているので、志乃の部屋と違う
ウイングの同じ位置の保阪氏の部屋にたどり着き、ドアを乱暴にたたいた。その音で保阪氏と紅茶を運んできた執事の本田、由衣と睦美が顔を出した。僕はもう叫ぶように言った。

「合鍵あぁぁ!志乃さんが!」ぼくの異常な様子に皆ぎょっとして皆、廊下を走り志乃の部屋に駆けつけた。
皆で志乃を呼ぶが 部屋はしんと静まり返り雷鳴だけが 耳を劈くように響いてた。
そのとき、皆とは別に本田が鍵をとって帰ってきた。
そして 鍵を開けると皆つんのめるように 部屋になだれ込んだ。由衣がひいぃと悲鳴を上げた。
志乃が背中から血を流し倒れていた。

私は神谷先輩の血相を変えた顔を見て何がなにやら分からないまま志乃さんの部屋に行き、そこで志乃の死体を見た。
正確に言えば、私達が駆けつけたときは、かすかに息があった。
しかし神谷が 犯人の名を聞こうと抱き上げると、いまわの際の言葉が私達を振るえ上がらせた。
「・・じょ、う、もん、かめ・・・」
『縄文亀が犯人やな。亀が犯人なら イグアナのわいの出番や』
『どこに亀がおるの!』
私と由衣先輩はそれぞれのイグを抱きながら話していたため、
思わず持って走り出してしまったのだ。
「どうしたの。おばあさまになにかあったの?」
私達が振り返るとそこに 青い顔をした翔がたっていた。
「神谷さん、僕の部屋にはおばあさまの声が聞こえてきた。
とても怖かったよ」
「翔、君は来ないほうがいい。あとで話しを聞くから。」
下にいた人々も皆部屋の外に集まってきていた。
呆けたように立ち尽くす、保阪氏に代わって神谷が言った。
「この部屋は僕達が空けるまで、鍵がかけられていました。
もちろん 犯人が合鍵を持っていれば外から鍵をかけて出られますが、そうでない場合は 完全な密室です。窓は鍵がしめられています。たとえあけたとしても、この風雨です。部屋の中に雨が入るでしょう。しかしその様子はない。
犯行が行われているとき、僕となりの翔君の部屋にいた。
すぐにドアをたたきましたが、鍵がかかっていました。
犯人はどのようにして 部屋に入り、どのようにして出てきたのでしょうか・・・」
だれも口を開くものはいなかった。

[3084] 犯行時刻 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/19(Wed) 00:32

ピカッと稲光が走り雷鳴がとどろいた。皆、懐中電灯の光で互いを照らし疑心暗鬼になっている。
「なにをしている。警察に電話だ!」我に返った保阪氏が叫んだ。
「それが だんな様。」執事の本田が 申し訳なさそうに答えた
「電話線が停電と同時に切れたらしく、通じないのです・・・」
「アッ私携帯持ってますけど。」
「睦ちゃん。ここ圏外なの。」
「なんてこと。それじゃ私達ここに閉じ込められたということ?
もしかしたら犯人もこの中にいるの。なんていうことなの!どうにかしてよ。誰なのよ!。」
八重子がヒステリックに叫んだ。
『まあ、とりあえず落ち着くことでんな』
「そう、まずは落ち着いて、アレッ?わああ、睦っちゃん僕のああああしもとにーー。」バスルームの前まで飛びのいた。
神谷先輩って差が大きすぎると睦美が思ったとき、神谷が言った。
「ここに隠れているかも知れない。」その声に皆ぎょっとして一斉に光をバスルームのドアに向けた。神谷と助っ人の平田が恐る恐るドアのとってに手を伸ばし一気に開けた。
誰かが飛び出してくるかと皆身構えたが、バスルームはシンとしてだれもいない。念のため神谷と平田 そして本田が中を改めた。バスは使われた形跡がない。「おや?」
「水を飲んだようですね。」洗面所のコップに使った形跡があった。「それとも歯磨きか。」

「この部屋には だれも隠れていませんね。」と平田が言ったが
神谷はまだ、ソファーの下を見たり、棚を開けたりしている。
「先輩、何を探しているのですか?」と私が聞くと
「この部屋に 縄文仮面が残されてないかと思って。」
「えっ?」
「だって志乃さんのダイイング、メッセージが縄文仮面じゃないか。縄文仮面をつけた犯人に恐怖を感じ、悲鳴をあげ逃げ回ったのではないかと思って。もしかしたら仮面が隠されてないか探したんだが、ないみたいだ。」
「それじゃ縄文仮面は隆一郎兄さんの亡霊かなにかなのか・・・」保坂氏が何気なく言ったのだが、恭子がもういやと
頭を抱えて座り込んでしまった。
「僕はまだ調べたいことがあります。皆さんは各自の部屋に戻り
異常がないか確認のうえ、部屋に鍵をかけて中にいてお休みください。
きっと明日天候が回復すれば救援が来るはずです。それまで
できる限り動かないで。ここが済めば僕と本田さんはホールにいます。それから保阪さん、犯行時刻の午後10時ごろどこでなにをしていたか 全員に聞いてください。」
神谷はそうてきぱきと命令すると、私に
「由衣さんは 平田君についていてもらう。睦ちゃんは部屋にいるか」と聞いた。平田が
「僕も神谷さんのお手伝いをしますよ。」と申し出たので、由衣がそれなら私もここにいると言い出し、結局私も一人で部屋にいるのも心細いので、神谷たちと一緒にいることになった。
『わいはうれしいで。カレンちゃんと一緒や。で、この臆病な兄ちゃんはなにを探しとったんや』
『面とかいってたで』
『まだ、さがしていたんか。食ってしまったんやないか、麺やったらもうのびてしもうとる』
『あほらし、その麺やないで』
「ねえ由衣先輩、エラリーとカレンちゃん、仲がよいというか
なんか漫才コンビみたいな感じしません?」
そうねと由衣先輩が言いかけたとき神谷が
「よおし、死体を検分するぞ」とすごいこと言い出した。
「もちろん詳しく見るのは 監察医の仕事だけど、何十時間も後に見るより今記録しておけば、ずいぶん参考になるだろうし事件も早く決着するかもしれないから。」とポケットから縄文仮面を撮るはずだった、デジカメを取り出した。
「みんな、懐中電灯の光を集めてくれ。死亡時刻は午後10時15分。犯行時刻は10時から10時2〜10分ごろだろう。僕が翔君の部屋で悲鳴を聞いたのが10時だった。」
この雷鳴の中 死体をみるなんて、こんな趣味の悪いことははじめてだ。もちろん金輪際いやだ。
「創傷は1箇所。後背部左側ちょうど心臓の裏側あたりかな。刃がうまく肋骨をすり抜けている。犯人は被害者の左後方から包丁を地面と平行に刺した。犯人は右利き、腕に防御創はないから、抵抗するより後ろを向いて逃げようとするところを刺されたみたいだね。」神谷はすばやく観察した。
「そして死因は 外傷性ショックというところかな。外側にほとんど出血していない。包丁が栓の代わりをしているのだけど、きっと胸腔内とか大出血でショック状態になったのだろう。まあ医学的なことは解剖してみないとなんともいえないけど。」

[3086] 縄文仮面はどこに… 投稿者:TOMO 投稿日:2003/11/19(Wed) 19:42

神谷が部屋をひととおり捜したが、縄文仮面はみつから
なかった。
ということは、やはり仮面は犯人がかぶったまま逃げたということになるだろうか。
『この状況からいくと縄文亀が犯人ちゅうことはまず間違い
あらへん。でも、亀は包丁持てへんから、誰か人間が縄文亀に化けてるっちゅうことやな』
『だから亀ちゃうてゆうとるやないの!でも、犯人が縄文仮面で自分の顔を隠して志乃おばはんを殺した、ちゅうことだけは間違いなさそうやわ』
エラリーとカレンが彼らなりの考えを披露しあっていると、一際大きく雷が鳴り、稲光が光った。
窓の外にはこの荒天だというのに人影が見える。右手に日本刀を下げ、フードをかぶっているその姿は、矢部が目撃
したという縄文仮面そのものだった。

[3089] アリバイ 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/19(Wed) 21:59 [返信]

「神谷先輩、なぜ右利きと分かるのですか。それにずいぶん詳しいみたい。」と由衣が聞いた。
「右手で包丁握ったとしてごらん。それを横に倒すと大体 嶺が右で刃がひだりになるんだよ。左利きだとその反対だ。力いっぱい刺しているけど、この刃の入り方が・・・うーん」
「どうしたんですか。」私が神谷の思わせぶりの様子が気になってたずねた。
「いや、まだ一つの仮定だ。それから考古学科では選択科目に解剖学があるんだよ。ぼくはそれを取ったし、友人に医学部の法医学にいる奴がいて 解剖を見学したことがあるんだ。」

そんな話をしていると、保阪氏が顔を出した。
「皆の10時のアリバイを聞いたよ。」と付かれきった表情で言った。
そのメモを示すと
 
保阪 信一、本田ー2階 保阪の部屋。
八重子ー納戸
水尾寛治ーホール 志乃ー2階自室
恭子、狭山、稔、平田ー1食堂隣のゲームルーム
かおりー自室(睡眠?)、翔、葉、神谷ー翔の部屋
由衣、睦美ー由衣の部屋、春奈ー自室 秋保ー自室 冬彦ーイグアナルーム、南沢ー自室、矢部竜蔵ー台所と倉庫、栄子ー台所、
食堂、品川順子ー温泉(掃除)
「ありがとうございます。これでアリバイが確定的でないのが
つまり自分しかそれを証明することができないのは、八重子さん
水尾氏はホールで眠りこけていたからはずせますね。かおりさん
春奈さん、秋穂さん、南沢さん、東君、矢部夫妻、品川さんですね。」
「ああ、しかし・・・」
「ねえ、そこの先生」と恭子がやってきた。
「あそこではいえなかったけど、稔さん 10時ごろ10分ぐらい席はずしてたのよ。彼ほとんどいたから、皆にいたよなと確認とってたけど、トイレに行ってたと行ってたけど変よね。」
「でも、僕が顔を出したときにはいたけど。」
「その直前に戻ってきたの。」
「それに、かおりはどうしたの。こんな騒ぎになってるのに。」
皆顔を見合わせた。まさか!
あわててかおりさんの部屋をノックしたが応答がない。
狭山が駆けつけドアを開けた。中を見回すとかおりはぐっすり寝ている。狭山が苦笑いをしてかおりを 呼んでも応答なかった。
「睡眠薬で眠らせられているのでは・・・」と保阪氏が言った。
「そういえばかおりは、食事の後風邪気味だから薬をもらッたといってたな。」
「だれにもらったのですか」
「いや、それは聞かなかった。」
「冷たい夫なのよね。必要なときだけ使っておいて」と恭子が鼻先で笑いながら、皮肉っぽく言った。
「なんか お母様(志乃)狭山さんの秘密握ってたみたいよ。それをばらされたくないからって・・・」
狭山はあわてて
「何いってるんだ。その時間は皆と一緒だったじゃないか。」と言った。すると平田が珍しく反論した。
「完全なアリバイほど怪しいとも言いますよ。たとえばもう殺しておいて、カセットかなんかで10時ごろ志乃さんの声をきかせるとかもできます。」
「そんなばかな。大体テープはどこにあるんだ。」
「皆が部屋になだれ込んで、注意が志乃さんに注がれているときそっと回収したとか。」
「なんだ、そうしたらだれのアリバイも信じられるものか」
「その可能性も否定できませんが、僕達が聞いた声は確かに肉声でしたよ。」と神谷が言った。
「さあ皆さんこの部屋に施錠をして、ホールに降りましょう。もう天候が回復して警察がくるのを待つほかない。」と保阪氏が言うと、みな黙ってうなづき廊下をホールの方へ向かった。

[3090] 縄文仮面のトリック 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/19(Wed) 23:08

廊下を角まで行くと、皆の足音を聞いて秋穂が部屋から青い顔をして出てきた。
「中庭に縄文仮面をつけた人が立ってたの・・・」
皆その言葉にその場に凝りついてしまった。
「どこにいたんです。本当に縄文仮面なのですか?」と神谷が尋ねると
「一瞬 雷鳴の中でみたので 確かとはいえないけど、黒いフードと鬼のような仮面をかぶっていたわ。それに手に長い刀みたいの持って。向こう側のウイングの1階の壁あたり。使用人の部屋がならんでいるあたりよ。・・・」
神谷と保阪氏が放心状態の秋穂をどかせるようにして、秋穂の部屋の窓から外を見ても。うちも外も真っ暗で何も見えない。
「それじゃ、縄文仮面をかぶった殺人鬼が、屋敷の外をうろついているの!志乃さんをやったのそいつなのかしら」
由衣が珍しく感情を高ぶらせた。
「ねえ神谷先輩。この屋敷古いから抜け穴とか、隠し扉とかあるかも。」と私が言うと、神谷は笑って言った。
「その縄文仮面はトリックですよ。」
「なぜそういえるのかね。」と保阪氏が問うと、神谷は言った。
「だって、そんな立派な日本刀持ってたら、包丁を使うことないじゃありませんか。」
「秋穂さんが見た壁のサイドの2階の部屋は保阪氏、由衣さん、平田君、僕、冬彦君ですが、皆こちらに来ていてだれもいないのです。窓から見られるのはこちらのウイングの人ばかりだ。
きっとそれをやった人間は我々に見せたかったのです。残念なことに僕達は見られなかったが、それでも秋穂さんは見た。」
「それじゃ、そのうわさが広まったら犯人に有利になるの?」
「そう 少なくても犯人は屋敷の中と外を自由に行き来できる
摩訶不思議な怪人となり、犯人から目をそらすことができる。そう考えたのじゃないかな。」
「どっちにしても、明日、いやもう今日か 明るくなってから調べましょう。そうだ翔君と葉ちゃんは?」
「私が 品川に二人が寝付くまで側にいるように言っておきましたが。」
ホールに下りるとその 品川がいた。
「お二人ともお休みになったので本田さんに鍵をかけてもらいました。本田さんは矢部さんとお二人で戸締りを確認しているところです。」
「ご苦労さん。とりあえず君は休んでいいよ。」と保阪氏が言った。

[3093] イグアナの行方 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/20(Thu) 23:26

「あの、ぼくのマトリックス見ませんでしたか。」とホールに現れたのは 東冬彦だった。がっちりした体格の冬彦は、同じような体格のすなわち、でかいイグアナを連れてきていた。
「食事し終わって マトリックスが秋穂さんのハリーとけんかしているってメイドさんから聞いて、ぼくずっとイグアナルームにいたんですが、停電になってマットつれて部屋にもどったらそのうち大騒ぎになって 僕も部屋をとびだしたんです。そのときドアを開けっ放しにしてかえったら、マットがいないんです。」
「さあ、見なかったわ。」由衣が言った。
「でも、今は夏だし寒くなることはないわ。明るくなったら皆で探しましょう。案外イグアナルームが居心地いいからそこに行ってるかも。そこは探した?」
「ええ、真っ先に。でも明るくなってみんなでさがした方が早いかも知れません。外には出ないですよね。」
「戸締りはしてるし、こんな天気の真夜中にドアを開ける人いないでしょうし・・・」といってから由衣はハット口をつぐんだ。
「まさか マトリックス縄文仮面に連れ去られたのかしら。」
「僕は縄文仮面なら相手になるが、マトリックスは嫌だ。まさか縄文仮面は僕が相手だと知ってマトリックスを味方にしたわけじゃないだろうな。」と神谷が言った。

『カレンちゃん、マットのおっさんがいないってゆうとるみたいやで。例のメールとばしたらどや?』
『もうとばしとるわ。でも電源が入ってないか電波の届かないところにいますって返事が来るだけ。』
『電源が入ってないってどういうこちゃ』
『寝てるってことやん』
『何や、マットのおっさんどっかで寝とるんや。』

そのとき飲んだくれて 寝ていた水尾寛治が うーんと言って
起き上がった。
「なんだ、もう朝か?暗いじゃないか。電気つけろ。」
「おじさま、驚かないで、おばさまが誰かに殺されたの。」と由衣が言った。
「殺されたー? いかんまだ夢の中だ。だからこんなに暗いんだ。早くだれか起こしてくれないか。」
「寛治君、本当なんだよ。今は君達の部屋に安置してある。」と保阪氏が言った。
「ええっ!」今度こそ水尾氏は飛び上がった。
階段をまだ酔いが残った足取りでのぼり、部屋に駆けつけ冷たくなった志乃さんに対面した。
「だれがやったんだ。そうかもう分かってるんだな。何しろここの家にいるものしかいないだろうし・・・狭山はどこに行った。
あいつだ。あいつしかやる奴がいない!」
「狭山さんは自室です。かおりさんが睡眠薬かなにかで眠らされていて、でもなぜ狭山さんなんですか。恭子さんもそんなこと言ってたし。」と神谷が聞くと水尾氏はそれまでの興奮が急にしぼんだように言った。
「いや、なぜか知らんが志乃が狭山がかおりと結婚した本当の理由が分かったとニヤニヤしてたときがあったんだ。世間に知れたら狭山は大変なことになると。俺には教えてくれなかったが。」
「かおりさんが絵のモデルになって そのうち愛し合うようになったのではないのですか」
「かおりは生まれた直後から、施設に預けられたんだ。まだ母親の志乃の年が15歳、というのが表向きの理由さ。しかしそれ以上に志乃がかおりを見るのを嫌がったそうだ。
まあどこかで悪い遊び覚えてお決まりの妊娠。その上生まれてみれば知恵遅れだからしょうがないかもしれんが。たまたま障害者の絵画展示でかおりは狭山に会った。あの純真な美しさに狭山からどうしても絵のモデルになってほしいと頼まれたそうだ。そのとき院長が保阪のうちに了解を取ったのだが、そこで狭山はかおりが保阪一族の娘だと知った。
そのころ志乃は私と結婚していたが かおりが実子であるのは確かだ。保阪一族に連なれば 莫大な財産を相続する権利が生ずる。ずうずうしくも結婚を機会にわれわれの親戚に入り込んできたんだ。保阪さんが甘いんだ。それまでかおりに冷たくしていた引け目から、ずいぶんとやさしくして狭山に援助したり外国へ行く費用を出したり。
でもそれ以外に 狭山はどんな理由を持っているんだ。」

[3094] それぞれの理由 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/21(Fri) 00:21

「とにかくホールに戻って考えよう。」
と神谷が言って皆ホールに戻った。そこには保阪八重子と稔が座ってた。稔はイライラと体を小刻みにゆすっている。
「お俺はもう寝るぞ!なにが殺人だ。なにが縄文仮面だ。俺には関係ない!」
「稔さん、あなたはマージャンを中断して10分ほどいなくなったというのは、本当ですか?」神谷が聞いた。
「トイレに行ってなにが悪いんだ!おおお俺は殺人なんてやってねえぞ。警察が来たって関係ないからな!。こんなところにいても何も解決しないぞ!おれは何も知らない。
くそっ!秋穂の奴。なにが俺の弱みだ。わわわ・・縄文仮面だ。おれは殺されるかもしれない・・・」
私達はぎょっとして背後を振り返ったが そこには暗闇があるばかりだった。
稔さんは 部屋で寝ると言って帰っていった。
「稔さんの様子なんかおかしくない}と私が言うと、
「そうだね。」と神谷がうなづいた。
「ところで、八重子さんは 納戸でなにかお探しだったのですか。八重子は10時ごろは納戸にいたと証言している。
八重子はあわてたように言った。
「いえ、なにかもう少し明るくする、そうランプみたいなのが
もっとないか探していたのですわ。だってせっかくきてくださったお客様申し訳ありませんもの。」
「そんなことはいつもは使用人にやらせるだろう。」
保阪氏が不信気に言うと、八重子は開き直ったような口を利いた。
「あなたが、そんなに 私のことよくみていただいているとは
思いもよらなかったわ。でも私はこの事件とは関係ありませんわよ。それに稔だって・・・」といってそっぽをむいて取り付くしまもなかった。
「保阪さん、多分まちがいないと思いますが、稔さんは大麻か
LSDをやってますね。」

[3099] 第2の凶行その1 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/21(Fri) 20:26

「とりあえず、使用人の皆さんにもいろいろお聞きしたいのですがいいですか。」と神谷が保阪氏に聞いた。
「ああそれじゃ、マージャンをしていた小部屋がいいでしょう。本田、皆を順番に神谷さんの所にお連れして。」
私も神谷について言った。エラリーは

『わいはもうねむくなってきた。ええ子のイグアナが起きてる時間じゃないで。カレンちゃんはどないする?』
『わたしは由衣ママに抱かれているわ』
『ほんじゃな。また明日おやすみ』
と階段を上って2階にいった

『そうや、おかんはまた臆病なにいちゃんと一緒やな。なんや部屋に入れへんやないか。ほんじゃおかんがくるまで 廊下の飾りだなの上で寝さしてもらうわ』

小部屋に最初におずおずと入ってきたのは品川順子だった。
「順子さん、話せることだけでいいから教えてください。
あなたは風呂場にいたと言っているけど、あの真っ暗の中でなにをしていたの。」
「探し物をしていていました。事件とは関係ないと思います。
ただのメモをした紙です。奥様から頼まれまして、南沢様が入浴時に服から落としたものだそうです。」
「明るくなってからさがせばいいのに。」
「皆様に見つかると困るそうで・・・」
「そう、そういえばあの時間奥様は南沢さんの部屋にいたよね」
「あっ、さあ私は・・・」
神谷がかけた鎌に順子は引っかかったようだ。
「睦ちゃん メモ取ってるの。そういう関係なんだよ。」
次に来たのが 矢部栄子だった。
「矢部さんが見た縄文仮面は森の中でなにをしていたのだと思いましたか。」
「さあ、このお屋敷をじっと見ているようでした。でも私がいると分かるとサーッと森の中に逃げてしまいました。」
「この森の奥になにがあるのですか。」
「はい。昔の古い坑道があると聞いていますが。それまでの道も悪いし入ったことはありません。それに変なうわさもあって・・・」
「どんな?」
「ふもとの村のものが言うには、まれにハンターが山に入り込むことがあるのですが、道に迷ってその坑道の近くに来たらたくさんの動物の死体があったとか。なにかのいけにえでしょうか。」
「ふーん。でそのハンターはその話をしているから無事に帰れたわけだ。」

***そのころ 犯人はつぎの標的に向かうため 闇の中を移動していた****

3102] 矢部竜蔵 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/22(Sat) 20:49

「コックの矢部竜蔵さんは台所かな。睦ちゃん僕達もそこへ言ってみよう。」
台所のランプの明かりの中に竜蔵はいた。
「すいません。明かりが消えちゃって、片付けに時間がかかったもんで・・・」
竜蔵は生ごみを流しから集めて ゴミ箱に捨てた。
「今日はごちそうさま。あんなおいしい料理は食べたことありません。」独身の神谷の食事は想像できる。もちろん私だって
インスタント物が多くてよく電話で母から怒られている。
「食材は町から運ぶのですか。」
「はい、お客様がくるのが分かると私どもはR市の本宅から来るのです。そのとき自分で選んだ食材を持ってきます。夏のように
皆さんの滞在が長いと、何度も町に買出しに行きます。」
「森で採集したりもするの?」
「時々ですね。メニューや季節に合わせて森の中でとってきたものも使いますよ。初夏のころにでるミズという植物ご存知ですか。ウワバミ科の植物の茎ですが東北地方の山の湿地帯にしか自生しないのですよ。それがすばらしくうまいですよ。おひたしや煮物にします。それと きのこなども珍しいものがとれたときはメニューに出します。」
「きのこなど、見分けが難しいでしょ。」
「そうですね。慣れてないと怖いですね。慣れた人でも時々間違えて中毒おこすことありますよ。」
「今日もきのこ出たわ。すごくおいしかった。」私は仔牛のフィレ肉きのこデミグラスソースの味を思い出して つばを飲み込んだ。
「そうですか・・・で、もうご質問は・・・」
なにか気に入らなかったのだろうか、急に話をそらしたような印象を感じた。
「竜蔵さんは保阪さんのお宅は長いのですか?」
神谷は話を変えた。
「ええ、私の母も保阪のうちで働いていたのでが、私の子供のころに死にました。私は親戚の世話で調理師の免許を取りこちらに勤めさせてもらいました。」
「最後にもう一つ。竜蔵さんは ここに幽閉されていた保阪隆一郎さんにお会いになったことありますか?」
その質問に 竜蔵は大きくあえいだ。しかし 一瞬の後落ち着きを取り戻し言った。
「ええ、私は小さかったのでぼんやりとしか記憶がないのですが、そのころは30代に入られてたと思いますが、神経質そうな方でよく本を読んでられました。母はよく おかわいそうな方と
言ってましたが。」
私は神谷が保阪隆一郎氏のことを聞いたのが 衝撃だった。
神谷はなにか分かったのだろうか。
「それじゃ、本田さんの話を聞こう。」
神谷はそう言いながら私を先にして台所をあとにしたが、途中かがみこんで何かを拾ったようだった。

[3103] 本田昭三 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/22(Sat) 23:27

「本田さん、あなたは保阪さんにお世話になるようになったのはいつごろからですか。」
私は神谷が 現在の事件のことを聞かずに、過去のことをきくのがいぶかしかった。口を出そうとすると本田が話だした。
「私はR県の中学校を卒業後東京の保阪様のお屋敷に使い走りとして昭和32年に入りました。」
「というと、まだ保阪伸一さんのお父さんえーと・・・」
「保阪厳太郎様です。はいまだ御当主でいらっしゃいました。
伸一様14歳で中学生でした。年が近かったこともありまして
ありがたいことに。親しくしていただきまして執事にまでしてくださいました。」
「志乃さんはまだ12歳ですね。その不良だったとか聞いたのですが。」
「そのようなことはございません。」本田はきっぱり言った。
「確かに、その当時は戦後の貧しかった時を抜け高度成長が始まる時期でそれまでとは違う若者が出てきた時代でした。戦前華族だった保阪家はそれまでの地位も多くの財産も失いました。もう過去のことですからお話しますが、お屋敷内を麻薬などの取引などの危ない商売に貸し、所得を得たこともあったと聞いています。
けれど志乃様は けがれのないといいますか、本当に貴族のお嬢様という感じのかたで、厳太郎様は目の中に入れても痛くないほどのかわいがりようでした。あのことがあるまで・・・」
「あのこととは?」
「それは・・・・」と本田が口を開きかけた時
「睦ちゃん!神谷さん」と由衣が飛び込んできた。
「何か、悲鳴なような声が聞こえたんだけど。」
私達はホールに飛び出した。

3109] 大騒動 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/23(Sun) 20:56

「どこから聞こえたの!」と神谷がさけんだ。私はさっとホールを見渡した。ホールにいたのは、由衣、平田、本田とマトリックスを心配していた冬彦だけだ。
「恭子さんの部屋の方!」由衣からきくと 神谷はホールから2階に伸びる階段を半分上りかけた。しかし吹き抜けの2階の踊り場に懐中電灯の光で浮かび上がったのは、縄文仮面の不気味な姿だった。
「きゃーーー!!!」由衣と私は思わず悲鳴を上げた。
どこから現れたのか、もしかしたら闇の中から我々を見ていたのかも知れない。
そのはれぼったいまぶたに開いた細い不気味な目と角のような火炎、顔を隈取のようにのたうつ幾筋もの縄目の紋、
頭の先から足先まで真っ黒なマントを着ていた。

神谷は一瞬の躊躇の後、階段を突進した。その後を平田、冬彦、
本田が続く。しかしそのとたん縄文仮面の手からあるものが 神谷めがけて投げられた。
巨大イグアナマトリックスだった。神谷は受けなくても良かったのだ。神谷が大嫌いなイグアナである。そうすればマトリックスは まっさかさまにホールにたたきつけられたであろう。
しかし神谷は必死に受け取った。
けれどもその結果
「ギャッギャ〜〜アアァァアxxxガヴァーー」
とこの世のものとは思えない悲鳴を発し神谷はマトリックスを抱いたまま後ろにのけぞるように倒れた。
平田が必死に神谷を支えようとしたが、平田も支えきれず崩れた。けれどその下から階段を上ってきた冬彦が、足を踏ん張って
持ちこたえ、本田が加勢した形となったが、4人とももんどり
うって階段下に投げ出された。
しかし、冬彦のおかげでたいした怪我にはならなかったようだ。
私と由衣さんはその騒動に目を奪われ、顔を2階に向けたときには縄文仮面はもう消えていた。

そのころ神谷のすさまじい叫びに睡眠を妨げられたエラリー
『なななんやねん。なんやあのイグアナのような顔のやつは。こっち来る。よっしゃ、ハッハックシューン!!
どや、わいの鼻水が付いた奴が犯人やで。しかしどないして
おかんに教えたらええんかいな。おかんちょっと鈍いとこ
あるから、わいがいくらゆうてもトンチンカンなことばかりするよってに』
縄文仮面は エラリーをチラッと見るとマントをそこに脱ぎ捨てて闇に消えた。

「神谷先輩大丈夫ですか。」
「克也さん 怪我ない。」私達は同時に駆け寄った。
「大丈夫だ。冬彦君のおかげで助かった。すごい馬力だね、君。」
「はい。僕高校のラグビー部なんです。それよりマットを受けてくれてありがとうございました。」
「ぎゃぎゃぎゃーーー。」神谷はまだ抱えていたマットを冬彦に
放り投げた。
マトリックスは 冬彦に抱え上げられ、ドスのきいた声で言った。
『なんだか 知らんがよく空を飛ぶ日やなあ。わいは水泳は得意やが、空飛ぶのもおもろいな。そや、あんさん だれか死んどるみたいやで。はよ いけ』

「なんかマットが目で上を見上げて、なにか言いたげなんですが。」と冬彦が言った。
「どうしたんだね。」そのとき保阪氏が書斎から出てきた。
八重子と北沢がやってきた。八重子は泣いた形跡がある。

[3110] くしゃみ 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/23(Sun) 22:09

「とにかく行こう」話しを聞いた保阪氏が言った。
八重子と北沢を残して皆2階に上った。
「恭子さんが心配だわ」
そのとき 暗闇のなかであわてたような人影が動いた。
「待て!」と神谷が懐中電灯の明かりを逃げようとしたそのものに向けると それは狭山だった。
「狭山さん、まさか!」
「狭山、貴様は!」保坂氏と由衣がさけんだ。

明かりを浴びた狭山は情けないほどうろたえ、言い訳した。
「おお、俺じゃない。おれは犯人なんかじゃない。ホールに行こうとして廊下に出ただけだ。」
しかし狭山の手にしたものを見たら その言葉を素直に信じるものはいなかった。
狭山は 縄文仮面がつけていたマントを手にもっていたのである。
「こ、こ、これは ここで拾ったんだ。本当だ。信じてくれ。
おれは縄文仮面じゃない。」
そのときドアが開いた。

「狭山よ。狭山が犯人よ。」
「恭子さん!無事だったの」
「狭山に襲われて 気を失ってしまったみたい。大丈夫よ。」
「狭山さん、恭子さんホールで話しをうかがいましょう。」
神谷がそういって皆で戻りかけたとき、私はエラリーに気が付いた。
「あら エラリーこんなところにいたの。ごめんね、おいで・・
なあに、なにか言いたいみたい。ごはんはまだよ・・
ヤダ くしゃみしないで。」
「うっ・・・」と神谷がうめいた。
「どうしたんですか」
「ソ、イ、ツ、ノ、ハ、ナ、ミ、ズ、ガ・・・」
神谷の首筋に エラリーの鼻水が付いた。
「なめるとしょっぱいですよ。」
冬彦がこともなげに言った。

階段のところに来たとき神谷が気が付いたように言った。
「縄文仮面は今来た廊下のほうに向かったのですよね。すると
もしかしたら 反対の廊下のほうから来たのかも知れない。
一寸見てきます。みなさんホールにいてください。」
しばらくすると あわてて戻ってきた。
「本田さん 合鍵もって来てください。稔さんの部屋が応答ないのです。」

[3116] 洋弓の矢 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/24(Mon) 21:13

神谷の言葉に 疲れてソファーにすわり込んでいた私達は、総立ちになった。特に 保阪氏と八重子は 顔を見合わせ言葉が出ないようだった。
本田が鍵を取り、皆でまた2階にあがり稔の部屋の前来た。保坂氏と八重子が、ドアをたたいて稔の名前を読んだが 答えるものはなかった。
本田が震える手で鍵をあけると稔の上半身がドアがあくのとと同
時に倒れて来た。実はドアにもたれたまま絶命していた。
「ひいーー」八重子が声にならない悲鳴を上げた。
保阪氏も呆然としたままだ。しばらく皆なにが起こったのかわからない痴呆のような状態にあった。
いち早く神谷が死体を改めた。胸に洋弓の矢が刺さっていた。
「神谷先輩、窓が開いているわ」風は大分弱まり雨は小降りになったようだがまだ時折突風のように風が吹きすさんでいる。
その風に観音開きの窓が開いたり閉じたりしていた。
平田が窓の位置と ドアの位置を確かめるとほぼ一直線上にあった。由衣が叫んだ。
「窓の外から 矢を打ち込まれたのだわ。そんなことできるの!人間じゃないわ。私達どうしたらいいの。次はだれ!!」と
言って お兄様!と叫ぶと胸の矢を抜こうとした。
「待て!」神谷が叫んだ。
「矢を抜いたらだめだ。現場保全の意味もあるけど、もしかしたら矢の先端に毒が塗ってあるかも知れない。」

神谷のその言葉に皆 衝撃を受けた。
「神谷君、君はなにか わかったのかね・・・」あえぐように
神谷氏が聞いた。
「ええ、傷が思ったより浅いのです。それで絶命するとなると
と思ったものですから。」
「それなら 窓の外から矢を射たら、遠ければ浅い傷になるかも知れない。鍵はたしかに閉まってましたよ。
だからドアから出ても鍵がなければ閉められない。
また稔さんがこんな感じにドアにもたれかかって死んでいたら、ドアを開けたら閉めるのに苦労するでしょう。」
平田が述べた。しかし次に冬彦や由衣が言った言葉に答えられるものはいなかった。
「でも、それじゃどこから矢を射ったのでしょうか。ここは2階ですし、窓の外は森です。縄文仮面は空中に浮遊していたのでしょうか。」
「そうだわ、それになぜお兄様は窓を開けたの。まだ雨風が強かったはずよ。」
八重子が 崩れ落ちた。

八重子を稔のとなりの保阪夫妻の寝室に運ぶと、稔の部屋にまた施錠をした。保阪氏がすべての部屋を改めようと提案して部屋開け、中の人と物を確かめる作業を行った。
夏の朝は早く 午前5時もう 明るくなりかけていた。
雨は上がり まだ時折強い風が吹き森の木々を揺さぶっていた。
こちらの廊下には 事件の時春奈しか部屋にいなかった。
皆に起こされた春奈は 奈々を抱いて寝ていたと主張した。
ボーガンの弓など、もちろん仮面も発見されなかった。
 
反対側の廊下は死体となった志乃の部屋で夫の寛治が ウイスキーを飲みながら 泣いていた。
「あいつとね、やっとユックリ話ができるようになりました・・・ もっと力になってやればよかった。」と泣き崩れた。
先ほども部屋を改めたが弓も仮面もなかった。
狭山と恭子はホールにいる。かおりは 皆が部屋に入ってきたとき、目を覚ました。
何も知らないといった。
翔と葉は 寝ていた。そっと部屋を探したが、ボーガンも仮面もなかった。水遊びの道具が洗面所に置かれてあった。
秋穂は起きていてが、部屋から一歩も出てないと主張した。
使用人の部屋も探したが、仮面もボーガンもなかった。

神谷も捜索に加わったが、何か深く考え込んでいる様子でうわのそらだった。さっきまでエラリーが寝ていた棚を見つめていた。皆本当に疲労こんぱいでホールに戻ってきた。
志乃と一緒にいた水尾寛治も気を失っていた八重子も青い顔でホールに下りてきた。 春奈 秋穂もそろった。
子供2人とかおりは気分が悪いので部屋で寝ている。 

神谷が皆がそろったのを確かめて口を開いた。
「この2つの犯罪、いや正確に言うと3つの犯罪はだれがどのようにしてやれば可能か、分かりました。しかし、ぼくには動機が分かりません。
それにまだ僕自身信じられないのです。しかしもう嵐は過ぎました。そのうち警察も来るでしょう。その前に話してもらいたい。過去にどのような事情があったのか・・・」

{ここまでで、問題編は終わりです。誰が犯人かわかりますか}

[3126] 身長 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/25(Tue) 23:32

「神谷先輩、3つの犯罪と言うと 志乃さんの事件と稔さんの事件と恭子さんのこと?」私は尋ねた。
「いや 縄文仮面失踪だ。その仮面が使われまた消えてしまった。縄文仮面は土器です。軽々と扱えるものではありません。
それなのに、顔にかぶって使用されている。変だと思いませんか。仮面がある部屋から消え、別の場所で現れたから皆その部屋から盗まれたと思い込まされてしまったのです。」
「それじゃ 縄文仮面は・・・」
「そう、まだ書斎にあると思います。」
「木を隠すのは森 と言うように壁にかかっている面の中に隠されていると思います。大きな面、そう伎楽の面の後ろあたり怪しいですね。」
その言葉に保阪氏は書斎にとんでいった。そして縄文仮面を大事そうに抱えて戻ってきた。
まさに 縄文の芸術品だった。火炎土器の炎の飾りが頭部にあり
角のような、怒髪のような感じで、はれぼったいまぶたに 重たげな細い眼列が開いていた。
「確かに 面の中に隠されていた。しかしそれじゃ縄文仮面が使ってた面は?誰がやったのだ?」
『どや、カレンちゃん、わいは誰も持ち出してないなら 盗まれてないんやと いったはずや。あたっとるやないか』
『本当やな。でもまぐれとちゃう?』

「その前に、僕が犯人の具体的なイメージを持ったのは志乃さんが刺された傷の位置です。ほぼ心臓の位置で床と水平です。
睦ちゃん 君 包丁を思い切って刺すとき体のどの位置に構える?」
と神谷が聞いたので私は 包丁を握った真似をすると力を入れるには脇を閉めなくてはならない。すると包丁の位置はやはり心臓あたりか乳房の下辺りの位置に来る。
そのことを神谷に言うと、そのまま僕をさしてごらんと言ったので水平にぶつかっていった。
「ほら僕と岡田君は身長差があるから、包丁はぼくの腹部に刺さります。もしも身長差がなければ、同じ位置に刺さるでしょう。
包丁の角度が下向きだったら上から、上向きだったら下から刺していると分かるのですが、水平なのでこのように考えたわけです。
もう一つ、そのマントです。先ほど冬彦君がマントに白い粉を見つけました。彼はイグアナのくしゃみ、鼻水だといいました。
実際なめるとしょっぱかったそうです。」
『そや、そや、ワイが鼻水付けたんや』ぼびぼび
「ねえエラリーが そうだっていってる。」
「ムムちゃん、分かったから近づけないで・・」
「アッ、でもエラリーが いくら印つけたって、そのマントは縄文仮面のだもの。ただそれが分かっただけじゃない。」
『そ、そやな、アセ』
「いや、どこに着いたかが問題なんだ。
鼻水はマントのフード部分、後頭部の頭のてっぺんに近いところに集中している。
エラリーがいたところは 床から140cmぐらいの棚の上。
そこからエラリーの鼻の高さまで10〜15cmとして155cmぐらいが頭頂近くとするとせいぜい身長は155から158
ぐらいでしょうか。そうすると志乃さんの身長とも合う。
僕がさっきエラリーに鼻水をかけられたときは首筋だった。
ぼくの身長は175cmです頭頂から約20cmくらい下が
首筋から肩になりますから、大体あっているでしょう」

『どや カレンちゃん、わいは慎重に身長測ってたんや』
私は すばやくあたりを見回した。身長が155〜158cmぐらい
なのは八重子さん、秋穂、春奈、矢部栄子・・とかおりさん?
由衣は163cm、私は162cm、恭子さんは160ぐらいか。でも160cmも範疇に入るかも知れない。
八重子さんは158・・・
そうするとほぼ女性の全員が容疑者になる。

[3129] きのこ 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/26(Wed) 23:59

「それではまた 仮面の問題に戻ります。本物の仮面は書斎から持ち出されていませんでした。では縄文仮面がかぶっていたものは なんだったのでしょうか。紙に書いたただのお面だったのでしょうか。」
「いいえ違うわ。私達見たけれどごつごつしていて、土器のようだったわ。粘土で作ったのかしら。それに本物にそっくりだけど、それを見ながら作ったわけじゃないでしょ。」
と私は疑問を口のした。
「そう、紙だったらすぐ分かる距離で見ました。粘土や木製としたら、処分するのも大変ですが皆さんの部屋からは発見されませんでした。では なんだったのか。
仮面が本物そっくりだったのは、それは盗られなかったけれど
採られたのです。執事の本田さんが言ってました。
かおりさんのスケッチブックに描かれた縄文仮面を見せてもらったことがあると。」
「そうよ、かおりは芸術の才能があったのよ。狭山よりね。」
恭子が突然言った。狭山ははっとしたが、もうどうでもよいのか
頭を抱えたまま動かなかった。
「狭山が私を襲った原因は私が狭山の秘密を知ったから。というよりカマをかけたら、あわてて口をふさごうとしたけど皆が来る気配がしたから、逃げたのよ。
狭山の有名になった絵はみんなかおりがプロデュースしたのよ。
かおりと結婚する前の狭山は小器用な画家だったけど、ありきたりだったわ。狭山はかおりをモデルとして書いているうちに
かおりの才能に気が付いたの。
かおりが 構図を決めデッサンをし、色彩をアシストした絵が
展覧会で賞をとり、それから狭山は世にでるようになったの。
だから、誰にも秘密を知られずかおりを手元においておくために
かおりと結婚したのよ。
だから、パリなど芸術家が集まる場所には、つれていけなかったの。その上 欲を出して保坂家の財産まで狙って。
お母様はそれを知ってたのよ。」
「それじゃ やっぱり狭山さんが犯人?稔さんを殺しておいて
恭子さんのところでアリバイつくってたとか」
皆 狭山を凝視した。
「そうだよ。かおりを利用したことは本当さ。だけど俺は
殺してない。いったいどうやって密室を作れるんだ。」
狭山がふてくされて言った。
「そうです。狭山さんは 犯人ではありません。第一の犯行の時は アリバイがありましたから。
もったいぶらずに 言いましょう。」
みんな息を呑んだ。

「犯人は、翔君です!!」

皆 笑いたいのをこらえてる感じだった。
由衣さんはあきれているし、保阪氏はこんな男を信じて馬鹿だったという顔してるし、私は恥ずかしくて すぐにでも荷物をまとめて神谷を引っ張ってかえりたかった。
「先輩、なにいってるの。第一の犯行の時、翔君は先輩と一緒にいて一番アリバイがはっきりしているじゃありませんか。」
「そう、まるっきりありえないと思ったのだけれど、僕は台所でそのトリックの証拠を見つけたのです。」
といって、ポケットからラップに保存されたものを取り出した。
「僕が生ごみ入れから偶然見つけました。それで後の鑑定のため
保存したのです。これは ある種のきのこなのです。」
神谷が見せたものは しめじたけのようなきのこだった。
「成分psilocybin およびpsilocin LSD様の幻覚作用を有する一般的にマジック マッシュルームと呼ばれているきのこだよ。」

[3136] 密室1 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/28(Fri) 18:33

「マジックマッシュルームは、古代から宗教的、医学的な目的で使われてきたきのこで、古代マヤ文明の遺跡からもきのこの石像が発掘されているので、僕も知っていたのですが、日本では
きのこを栽培することは違反ではないため(作者注2001まではそうでしたが今は分かりません。アメリカでは、規制されてきたようです)栽培キットまで市販されています。
食べた人の話によると、そばにいる人が、悪魔に取り付かれたように不気味に笑っていると感じたり、周りの色彩が変わったり部屋がゆがんだり、金属音がしたり、悪魔や天使が交互に現れたり錯乱状態になったといってます。自ら意識して食べても こうですから、知らないうちに食べさせられたらどうなるでしょう。」
神谷は周りを見回し続けた。
「夕食の時間、翔君はイグアナを部屋に置いてくると言って、部屋に戻りました。おそらくそのときポケットなどに入れて 戻ってきたのでしょう。
そして途中ワインをこぼされたといって、席を立ちました。もし
稔さんがこぼさなければ、自分で何かこぼすかしたでしょう。ちょうど 次の料理はきのこのデミグラスソースでした。その中に混ぜられたのです。その皿が運ばれてきたとき
翔君が、志乃さんに渡したように記憶してます。」
「それを食べた志乃さんは、気分が悪くなったようで 部屋に戻ります。翔君はそれが最大限利き始める前に僕を自室に誘いました。
僕達がきいた、志乃さんの叫び声は、幻覚作用で錯乱状態になった志乃さんの声で、そのときは部屋には志乃さんしかいなかったのです。」

『自分で叫び出したんやて、そんなこともあるんやね』
『めずらしくあらへんよ。わいなんかおかんが遅いと一人でさけんでるねん。おかーん はよかえってこー。はらへったでーって』
『かってにしー』

「志乃さんが危害を加えられていると思った僕は、ドアをたたいて大声で叫びました。志乃さんにしてみれば 知らない男の大声
がしたら、悪魔が誘ってるぐらいに感じ、ドアは開けないでしょう。しかし聞きなれた孫の声ならどうでしょう。志乃さんは助けを求めドアを開けたのです。
しかしそこには縄文仮面が立っていた。錯乱状態のまま逃げようとして刺されたのです。」

皆、神谷の話にそのときの場面が再現されているような戦慄を覚え聞き入った。
神谷は続けた。
「翔君は 僕達が来る前に 縄文仮面を処理しなければならなかった。そしてトイレに流すか・・・食べてしまったのです。」
「ええっ!」皆 一様に意表をつかれた顔をした。
「縄文仮面が何で作られていたか・・・パンなのです。やはり
食事のときおいしいフランスパンが出ましたね。
あの生地なら、ごつごつした 質感を持ち、暗いところで見れば
土器のように感じる面が何枚も焼けるのではないでしょうか。
そして、水に溶かすか食べてしまえば 後は残りません。
僕が、洗面所で志乃さんが何か食べたのだろうかと疑問に感じたのは そこにパンのかすが落ちていたからなのです。」

『なんやて!わいの推理が当たったやないか。わいは面は食べたといったやろ』
『いうたけど、麺ていったんやないの』
『字の変換をまちごうただけや・・・』

「マントは志乃さんの服の中隠したのでしょう。僕達はマントまで注意してなかった。そして皆が来たときは、部屋の暗がりの中で息を潜めていました。あの部屋は 広い部屋ですし停電であたりは真っ暗です。多少の物音も嵐の音にかき消され、僕達が志乃さんに注目しているとき 後ろからあらわれたので、てっきり
となりの部屋から来たと思い込んでしまった。
これが 第一の密室の全容だと 思います。」
皆 声もなかった。

[3137] トリカブト 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/28(Fri) 21:18

私はあえぐように言った。
「神谷さんが言うのは、とても分かりやすくて理解できます。
だけど、私は いえ、私達はまだ13歳の翔君がやったとは信じられないの。それにパンを作ったり、きのこを料理に入れたりするのは 台所にいる人の目を盗んではできないわ。」
「13歳だから 犯罪はできないというのは、最近では当てはまらないと思うよ。神戸の犯罪は14歳だったし、長崎の事件は
12歳だった。イギリスでは10歳の子供が幼児を殺し、無期懲役になっている。
しかし僕は今回の犯行が とても緻密に計画されているのがまだ疑問なんだ。
なんというか だれかがシナリオをかいて翔君がそれを演じているような・・・。それにまだぼくが知らないことがたくさんあるような気がする。台所でのことについては 矢部さんから話があると思う。」
注目された矢部ががっくりと肩を落とした。
神谷はそれを無視するように続けた。
「僕は、縄文仮面が盗まれたと思われたとき最後に書斎を出たのが翔君だったこと、母親のかおりさんのスケッチブックをみる機会は十分あったこと、身長 そして先ほど話したことを考え翔君にたどり着いたので、稔さんの事件は翔君の行動を考えて犯行の様子を考えた。ヒントはイグアナなんだ。あの時縄文仮面は僕に
マットくんを投げたけど、僕のためにイグアナを用意したわけで
はないと思うよ。」

『わいは あの臆病なにいちゃん、すきやで』
『マトリックスのおっちゃんのこと 必死で受け止めてくれたもんね。でもあの悲鳴ひどかったなー』

「これからはぼくの想像ですが、あの時冬彦君がマットを探していたよね。稔さんもそれは知っていました。翔君は稔さんの部屋の前でマットが稔さんの窓の外にいるから見てくれと言ったのです。稔さんは窓を開けて調べたけどいない。
それを言うために ドアを開けました・・・
けれど そこには翔君はいなかった。やはり黒いマントで体を覆い廊下の隅に隠れました。
もう少し明るければ、また稔さんがもっと注意深く見ていれば
すぐに見つかるような側にいたと思う。それができなかったのは
ドアの陰で大騒ぎがあったと想像するね。
稔さんのドアは、部屋の中から見ると右側にちょうつがいがあって外に開くようになっています。ドアが直角に開くとドアの裏側は保阪さんの部屋だけで そのときは誰もいませんでした。
ドアの後ろにマトリックスを置きます。稔さんが窓を開けたときぐらいに、そこにカオスを投げるのです。マットはびっくりして
カオスとの間にひと悶着あったでしょう。マットは結構喧嘩っ早いと思うのです。どうしてか分からないけどそう思う・・・」

『私が虫の知らせメールで教えたのよ』
『あの 兄ちゃんのメアドしっとるんか?』
『プロバイダーに特別料金払ったの。よく人間が虫の知らせがあったとかいうじゃん。あれ 特別料金のプログラムなんよ
マットのおっちゃん、ハリーともけんかしとったやないの』

「その音にみのるさんはドアの向こう側に行き、何で2匹もいるのだろうと思いながらも 2匹を抱えて部屋へ戻るとそこに
縄文仮面がいたのだと思います。縄文仮面は弓ではなくて
矢をそのまま 稔さんに突き立てたのです。
後で調べれば 分かると思いますが あの矢には毒がぬってあったと思います。ここは東北です。多分毒の種類はトリカブト。」

[3138] 第二の密室のなぞ 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/29(Sat) 15:26

「キンポウゲ科の多年草トリカブトは沖縄を除いた全土の山野に自生しています。その成分はアコニチン型アルカロイドで致死量は2〜4mg 1gのわずか1/500の非常に毒性が強い植物です。その根から抽出した液を矢に塗ってアイヌは熊狩りをしていました。また伊達正宗も実母にトリカブトで殺されそうになったり、南部の九戸氏の反乱では多量に毒矢が使われるなど、昔からよく使われてきた毒物だよ。」

「でも先輩、矢はどこから?それに翔君がそんな毒をどこから手に入れたのですか?」
「アーチェリーは弓道など習ったことがない人でも 手軽にできる娯楽スポーツです。いろいろな遊園地でもアーチェリー施設があるくらいだ。この別荘でも 娯楽としてあるのではないのですか?」神谷が問うと 品川順子が言った。
「はい、納戸に道具がしまっってあるはずです。外に的もありますから、すぐ使うこともできます。」
「矢は問題ないだろう。その先を鑢で研いで 鋭くして毒に浸したのだろう。部屋に入りかけたところで 不意を襲われた稔さんは、イグアナを落とした。その隙に翔君は部屋の外に出た。

稔さんは 縄文仮面が外にでたのであわてて部屋のドアを閉め
入られないように自ら鍵をかけたんだよ。しかし毒が全身に回り
ドアの側に崩れ落ちた。窓は鍵をかけ忘れたのか あきっぱなしだったのか。風によってまた開いたのだと思う。縄文仮面にとってその後誰にも見つからなければ、開いた窓から矢が飛んできたことになって、解決困難になるところだったけど、狭山さんの事件で 皆の注意が2階に向いてしまった。」
「その後自分の部屋に戻るとき 先輩に捕まりそうになって
マットをなげたのね。あれが冬彦君だったら、あんな無様には
ならなかったんですね。」
「ウッホン、まあその点は言い訳できないな。えーと そうそう
しかし僕はまだ動機が分からない。それに毒物の知識はなにを
参考にしたのだろうか。

神谷は第二の密室の推理を述べた。しかし皆なにか非常に居心地が悪い様子だ。
何しろまだ、神谷先輩の説では説得できない部分が多い。先輩自身それは感じているようだ。
そのとき、

「神谷さん、あなたにお会いできて僕は大変うれしいです。」
という声がした。その声の主に皆はっとして見上げると、
狭山翔が 階段を下りてくるところだった。
後ろからかおりが娘の葉にかばわれるように付いてきた。
由衣が、かおりにかけより 自分の側に座らせた。

翔はまるで舞台の主役のように階段の途中に立ち止まると皆を見下ろした。保阪氏がたまらず聞いた。
「翔くん、この神谷先生が志乃と稔を殺したのが君だと言ってるんだ。違うだろ。何を言ってるんだか。
こちらにおいで、えっ、翔君・・・」最後は哀願するようになっていた。
「ふっふっ、殺したのは僕ですよ。神谷さんよく分かったなー
合ってます。正解!やっぱ 大学の先生だ。」
翔はまるで 無邪気ないたずらがばれたような感じであった。私はそれに ぞっとした。
「みんな 聞きたいんでしょ。僕がどうやってトリカブトとか
マジックマッシュルームとか知ってたか・・・おじいさまが
教えてくれたんですよ。」
「き、君のおじいさんって、きみのおかあさんの お父さんのことかい。すると志乃の連れ合いだから水尾さん?」普通の会話だったら笑い出すだろう。
「ははは・・、」翔は無邪気に笑った。
「違います。本当のおじいさん、保阪隆一郎です!」

「ひぃぃーー」八重子が声にならないような悲鳴を上げた。
雷の直撃を受けても保阪氏をはじめ ここにいる人々はこれほど
衝撃を受けなかったであろう。
「ま・・まさか、まさか隆一郎にいさんが生きているとでも・・・」
「お、お、おかしいじゃないか。志乃と隆一郎さんは 母親が違っても血のつながった兄妹だ。」水尾寛治がかすれた声で言った。
みな のどがカラカラだった。

「私が お話をします。よろしいでしょうか、だんな様。」
執事の本田が 保坂氏に訴えるように聞いた。
「本田、私は今自分が 何者でどこにいるのさえも分からないような気持ちなんだ。なにを聞いても驚かないよ。
お前が知っていることを みな話してくれ・・・」

[3139] 本田昭三の話 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/29(Sat) 17:12

「昭和50年 保阪厳太郎様がお亡くなりになりました。75歳でした。私は 前にもお話したように中学を卒業後保阪家にお世話になり、ありがたいことに厳太郎様に目をかけていただき 晩年にはお側でお世話させていただきました。
最後まで 威厳のある方でしたが、病気がちになった晩年 気弱になられたのか、枕元でお話を伺ったのです。厳太郎様22歳が奥様の美弥様 16歳とご結婚されたのは大正12年のことでした」
本田はこのように話始めた。以後、私がまとめて記す。

保坂家は、伯爵とはいえ東北の小藩の出、しかし鉱山の利益で裕福であった。美弥の家は代々京都の由緒ある公家の家であったが、財政は厳しかった。この結婚は 政略結婚であった。
美弥はそれは本当に 美しい方でまた、まるで世間知らずの公家のお姫様のようであったという。最初は厳太郎氏も大切にして、
大正13年には 長男隆一郎氏が生まれた。

3人は東京の屋敷で住んでいたが、子供とはいえ上流階級では実母が育てることはなく乳母が面倒を見るのが普通であった。
そのため美弥はいつまでたっても若々しく、時々無邪気に隆一郎と遊んだり、鎌倉の別荘生活を送るなど隆一郎にとっては 母というより誰よりも美しく教養ありやさしい年上の女性と一緒にいるという育ち方をした。
そのうち 保阪氏は美弥に 飽き足らなくなってきた。
もともと保阪家は武家の家。とくに厳太郎は激しい性格である。
おっとりとして、世間知らずの姫さまよりはっきりとした 新しいタイプの女性と何人も深い関係になっていった。

夫の浮気を憂う美しい人妻。思春期に差し掛かった隆一郎は母を悲しませる父を憎む一方、実の母に対しこらえきれないほどの愛情を持ってしまったのだ。今で言う エディプスコンプレックスである。
それは報われない不毛の愛と判っていても。
 彼は神童と言われるくらい頭がよかったのだが、彼の精神は思春期を過ぎるころから病に冒されていった。
そのような隆一郎にうすうす気が付いた 厳太郎は体が弱かった美弥を療養と称してR県の本宅のほうに送り、隆一郎には東京の帝国大学へ行かせた。それは自分にとっても愛人と暮らせる良い方法だったのである。

別れて暮らして胸の炎は 治まるどころかさらに燃え上がってしまった。精神の病がなければ理性で抑えられたのかも知れない。
しかし、大学が休みに入った8月、厳太郎氏のわずかな隙に
隆一郎は R県の本宅へ行ってしまった。

隆一郎はそこで母に思いを打ち明けたのだろうか。その答えは
当然NOであった。美弥にとって隆一郎は 子供でしかないのである。その上 寂しさに耐えかねた彼女は そこの書生と恋人の関係になっていた。
激しい絶望と裏切りに対する怒りに 隆一郎氏の精神は壊れ
錯乱状態となり 母とその恋人と とめに入った母付きの女中を日本刀で切り殺した。
昭和16年のことであった。

[3148] 大麻 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/30(Sun) 22:01

「錯乱状態の隆一郎様を取り押さえ、厳太郎様の指示でこの別荘のちょうど志乃様たちのお部屋を改造し鉄格子などをはめ、牢としたのでございます」
本田はここで一息つき また話を続けようとしたとき今まで 
うつむいていた矢部竜蔵が、顔を上げ口を開いた。
「だんな様、それからの話を少し私がお話して よろしいでしょうか。今度の事件とも関係してきますので。」
「うむ、矢部は母親も この屋敷で働いていたのだな。なにか知っていることがあったら、話なさい。」

「母の日記が遺品の中にありまして、以前読みました。しかし
このようなことがなければ、私の中で一生秘めて表に出さないつもりでおりました。」矢部は続けた。
「隆一郎様は昭和16年からここに幽閉されてきました。その間
戦争があり使用人も戦死したり行方知れずになったりしましたが、隆一郎様はそのような混乱の中 戸籍を失われてしまいました。精神の病を恥じられた厳太郎様のご指示だったかも知れませんが、もうこの世にいない方になってしまったのです。
もう、この屋敷しか生きられなくなってしまったのです。
母は、おかわいそうと言ってました。
あっすみません。話が下手なもので。母は昭和20年人手のないここのお屋敷にご奉公に上がりました。
貧しい農家の娘で 戦争もありましたがまともに学校にも行ってません。はい、13歳でした。お世辞にも美しいとはいえない娘でしたが、昼も夜も一生懸命はたらいたそうです。
それが認められてか、また見栄えも良くないためか隆一郎様のお世話をする役を与えられ 昭和24年17歳の時 ここの別宅に
参りました。
そのころには、ここのお屋敷には滞在する何人かのお客様があった様です。」
「竜蔵さん とちゅうですみません。」
神谷が口を挟んだ。
「本田さん そのころのお客さんてもしかして大麻の取引かなんかではありませんか?」
突然のことで皆驚くと
「はい、お恥ずかしいことですが、以前お話したこともありましたが、東京のお屋敷内で麻薬の取引などしていたのですが、
実は こちらでは大麻が栽培されていたのです。」
「そうですか。大麻取締法が制定されたのは昭和23年7月で、その1年前に大麻栽培が全面的禁止されています。それまでは大麻栽培は野放しでしたからね。そうするとまだ一部に 野生化した大麻があるかもしれない。」

「さすがだなー。神谷先生」
それまで階段に腰を下ろし、あごに手を当て聞いていた翔が口を開いた。
そのようにちょっと首をかしげながら聞いてる姿は、本当に美少年という言葉がぴったりのかわいい姿なので、私はまだ先ほどの告白が夢ではなかったかと思われるほどだった。

「稔さんは大麻をやっていましたよ。
僕が稔兄さんに 大麻が育っているところを教えたのですよ。」
「僕は翔くん家族が 休みにはよくこの別荘に来ていると聞いた。君は周りを散策しながら、いろいろ観察していたんだね。」
「そう、ほら僕、植物学者になりたいって言ったでしょ。
いろいろ見つかりました。クサウラベニタケや悪魔の天使と呼ばれる美しいドクツルタケ、猛毒のカエンタケ、そうそうトリカブトもね。本当はね、一番初めに その男を殺してやりたかったんですよ。方法はいっぱいありました。おじい様が教えてくれたから。殺せってね。」と翔が指差したのは狭山であった。
狭山はもう目が うつろになっていた。
そして翔は ニコニコしながら言った。その微笑はほんとうにかわいい。天使の微笑みというのか。悪魔に魂を渡した天使の・・
「ごめんなさい。続けてください。」

「あっ、は、はい。」竜蔵はまた話を 続けた。
「母は それはもう献身的にお世話をしました。その成果でしょうか。または年月を経たためでしょうか。少しづつ隆一郎様に
人間らしい心が戻ったようでした。そのころの日記には 薄い紙をはがすようにお元気になられる隆一郎様の様子が うれしそうに書かれています。

[3149] 伯父 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/11/30(Sun) 23:08

「昭和25年 お世話しはじめてから1年。そのころの日記には
母の喜びが恥じらいとともにつづられていました。隆一郎様とお心を通い合わせる仲になったようなのです。
隆一郎様にとって、見栄も気取りもウソもない真実の献身の愛に
お心が 開いたのでしょう。
昭和26年 母は突然お暇をもらい 父の分からない子を産みました。
使用人は皆うすうす誰が父親かわかっておりましたが、みな隆一郎様がお気の毒で、そのことはだんな様の耳には入らず
まあ、入ったとしてもふしだらな 田舎娘のことを気にとめる
はずもありませんが、隆一郎様が ふさぎこまれるので1年後またお屋敷にもどって参りました。その腕には 1歳になる男の子が抱かれていました。」

「やっぱり、おじ様だったのですね。おじい様の息子だったんだ。」
翔が叫んだ。皆は何回目かの衝撃に声も出なかった。
「はい。申し訳ありませんでした。このことは一生言わないつもりだったのです。母の暮らした保阪様のお屋敷で働けるだけで
幸せだったのです。私の名前の竜蔵は 隆一郎様のりゅうという
読みをいただいたそうです、けれど人にわからないように漢字は変えたそうですが。」

「それで、翔君の行動を見逃したのですか。」
神谷が鋭く 言った。
「いえ、志乃様が殺されるまでは 分かりませんでした。
先ほどもありましたように、翔様ご一家は 狭山さまがよく外国に行かれるので、その間はこちらですごされることが多かったのです。そのため翔様が小さいときから私の周りでよく遊ばれていたのです。
そのようなわけで 今回パン作りをしたいといわれ材料や 焼き方を教えて差し上げたのです。
翔様は 顔のようなものを作っていましたが、子供がパンを作るときは マンガの影響からか 顔のようなものを作りたがるので気にも留めませんでした。」
「また よく台所でお手伝いもしてくれてましたし、きのこソースをかけたあとで、翔様が運ぶと言われたときは 喜んで皿をお渡ししました。」

「その後、今日の料理には使わなかったきのこが 捨てられているので変だと思ったのですね。」
神谷が聞いた。
「はい、その後で神谷様が 毒キノコの見分け方をしっているか
と聞かれたときは、自分の過失かもしれないと思い動転いたしましたが、もしかしたら翔さまがと思う様になったのです、
とりあえず 縄文仮面が外の人間と思わせようと 鬼の面をかぶって嵐の中に立って見ました。」
「あれは、竜蔵さんでしたか。角の生えた面をかぶって長い刀を持っていれば、縄文仮面などよく知らない人は、いや知っていても あの雷雨の中じゃ、縄文仮面と思うだろう。そういう錯覚を利用したのですね。
あの刀はどうしたのですか。?」
「はい、アレは竹ざおを切り、そこに発光反射テープを張ったのです。よく夜道で自動車のライトに反応して光るテープです。」
「なるほど。それはアイデアですね。雷の光で一瞬 刃物に見えるんだ。」
神谷は 感心したようにうなづいた。

「その後昭和33ねんごろまで 親子と正式には名乗れなくても
親子3人 幸せに暮らしたのです。私が7歳のころでした。
志乃様が この別荘にはじめて いらしゃったのは・・・」

[3152] 無題 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/12/01(Mon) 23:00

「私は 今も目を瞑ると父と母と3人で、森を散策したことを
思い出します。ええ、母が私を連れて別邸に戻ってきたころから
隆一郎様の病状は安定し、お屋敷の外にも出られるようになりました。もちろん旦那様には秘密です。
別荘の使用人も皆見て見ぬふりをしてました。
戸籍のない隆一郎様は 世間には出られないし、そのころは母もお側にいたので逃げる必要もなかったのです。
隆一郎様は お部屋にいるときはいつも 難しい本をお読みでした。そして森に行くと私に いろいろ植物の名前を教えてくれたりしました。食べられるきのこも毒キノコも 教わりました。
あるとき 散策途中にこの辺に縄文時代の遺跡があるということ
を知りました。私達は毎日 そこへ出かけ発掘の真似事をしました。しかし隆一郎様は そこで縄文仮面を発掘したのです。
学術的にはたいそうな発見だったかもしれませんが、私達は世間に出すなどということは まるっきり考えませんでした。
私達には親子3人で 発掘したということこそ 重要だったのです。」
私は涙がでそうになった。精神が冒され 父親に見離された
隆一郎が つかの間の愛に安らぐ様子を想像して。
しかし この後何があったのだろうか。
「森の中で 志乃様に初めてお会いしました。中学1年生の志乃様は 夏休みに厳太郎様が海外出張で不在の間、初めてR県の本宅のほうへ来たのです。
そのとき 別宅があると知り皆が止めるのを聞かず訪れたのです。私は森の妖精に出会ったかと思いました。
私は こんな美しい方というのを見たことなかったのです。
しかし突然隆一郎様は 頭を抱えて様子がおかしくなりました。
今思うと、志乃様は隆一郎様のお母様に 似ていらしたのかも知れません。
厳太郎様の2度目の奥様 つまり伸一様と志乃様のお母様は女優で 性格などは前の奥様とは違うが、どことなくお顔は似ていらっしゃると古手の使用人が 母に言ったそうです。
その晩、隆一郎様は 熱を出され一晩中うなされていたそうです
一方 志乃様も情熱的なお方で一目で20も年上の男をそれも兄を好きになってしまったようです。もうこれは 理屈ではなく運命としかいいようがありません。
お二人は 森を散歩しながら愛を語り合ったそうです。
しかしその年は すぐに本宅の方へ戻らねばならなかったのですが、別れの日お二人の視線が激しく絡み合っていたと 母は日記に記していました。

私はその年から母の実家のほうで小学校に通うようになり、翌年も友達と遊ぶのにいそがしく 別邸の方へは行きませんでした。
隆一郎様は志乃様と別れてから外出をされなくなりました。
時々 ぶつぶつ言ったり夜中に突然叫んだり、見えないものに向かって話しかけたり、母上が呼んでると言ったり、
一気に病状が悪化しました。母しかお世話することができませんでした。もしかしたら 思春期に無理に母上とわかれさせられた時に時間が戻っていたのかも知れません。

そんなことは知らない 志乃様がやってきたのは翌年昭和34年でした。母が哀願して あなたの兄だと止めたようなのですが志乃様は母を叱責し 隆一郎様にお会いになりました。
志乃様は大人びて 激しい性格の方でしたが まだ考え方は子供
だったのです。大人の愛というものを はっきりとは知りませんでした。やさしく抱きしめてくれるだけぐらいにしか 考えてなかったようです。
しかし隆一郎様の目には、志乃様が見えていたのか 愛を受け入れてくれなかった母が やっと受けいれてくれたと思ったのかも知れません。

自室で泣きくれていた母が 志乃様がいつまでもお部屋から戻ってこないので、思い切って隆一郎様の部屋に行きました。
そのときの光景は 母の日記にも詳しく記されていません。
服が引きちぎられて ぼろぼろになった志乃様がうつろな目で
床に倒れていたということと、それと反対に隆一郎様はうれしそうに笑みを浮かべお母様、お母様とつぶやいていたそうです。

[3158] カオス 混沌 投稿者:ジュラ 投稿日:2003/12/02(Tue) 23:50

「これ以後、母の日記には、何もつづられていません。」
皆、シンとして聞き入った。
その中で再び 本田が話し始めた。
「志乃様の異変が周りの者に知られたのは、もうおなかも大分大きくなってからでした。
厳太郎様は志乃様を大変かわいがっていらっしゃったので、お怒りは激しく事件を見過ごした使用人たちを大幅に解雇し、別荘に
来て、隆一郎様を厳しく叱責いたしました。
隆一郎様はサメの目のような腐った目で、恨めしげ厳太郎様をにらみつけ母と自分を不幸にしたことを責めました。厳太郎様は我を忘れ 自室に戻ると猟銃を手にされました。
銃口を向けられてもなお、不敵な笑みをたたえる隆一郎さまに
引き金が引かれました。しかし 矢部の母が飛び出し隆一郎をかばい弾の犠牲になりました。
その事件は厳太郎様の腹心によって事故として処理されましたが、その混乱の中、隆一郎様が別荘から消えてしまったそうです。」
「それで、おじ様は生きているの?」
と由衣が ため息交じりに聞いた。
「分かりません。その後誰も姿を見たものがいません」

「翔君、もしかしたらおじいさまが君に教えてくれたというのは手紙とかノートのようなものがあったのかな?」神谷が聞いた。
「やっと、僕の番が来たわけだ。僕がこの別荘で妹とかくれんぼして遊んでいたとき見つけたんです。奥の部屋の衣装クローゼットの天井から。」翔がまるで良い成績書でもみせるように、うれしそうに古いノートを見せた。
「おじい様はすばらしい方!僕一生懸命勉強しましたよ。
学校の勉強よりずっと面白い。そのとおりやると人を殺せるんです。僕本当に人を殺すことができるか試したかったんだ。
だっておじい様が やれっていうから。やれって僕に頼んだの
トリカブトの毒は根から 結構簡単に抽出できますね。
ははは・・稔兄さんにつかったら、ほんと熊みたいにひっくり返っちゃった。本当なんだって 嬉かったなー。僕って科学者になれそう。稔兄さんは僕に命令したから死ぬんだ。
大麻持って来いとか、きのこをよこせとか言うんだ。
きのこも いろいろ「やくりさよう」があるんだ。薬理作用ってすごくかっこよく聞こえない?僕はきのこの薬理作用も調べたかったなあ。だれに試してやれば よかったかな。
おじい様 教えて。
そうだ。おばあ様を殺すときは 包丁寝かしたんだ。そうしなければ肋骨に当たるからね。肋骨に当たったら、心臓切れないでしょ・おじい様はしのさんを殺したかったんだって。しのさんがうらぎったから、おじい様の大切な奥さんが鉄砲でうたれたんだよ。しのさんはかおりさんもいじめてたから死ななければならなかったんだよ。
密室体系っいうところもあったよ。ずっと部屋にいるから
いろいろな研究をしていなければ、おじいさまの頭が悪くなっちゃうから、いろんな研究してたんだって。
すごいや、尊敬しちゃうよ。僕はおじいさまのほんとうの孫なんだよ。おじい様が言ってた。僕のように選ばれた子は腐った奴らを抹殺するべきなんだって。・・・・」
熱に浮かされたようにしゃべる翔は正直にいって かわいい少年だけに激しく不気味だった。

そのノートには、いろいろな 植物が精密な絵で描かれていた。
また英語でいろいろなメモが書かれ、隆一郎が非凡な才能をもっていたことを うかがわせていた。
そして、トリカブトの抽出方やその使い方、効用なども事細かにかかれている。字も落ち着いているし、学者の実験ノートのようだ。おそらく精神が安定しているとき、学術書を書くような気持ちで記入したのだろう。
しかしその後のページにはいきなり、「殺せ」の文字がびっしり並んでいた。その文字を見ていると正常なものでも悪魔の罠に落ちそうな気がする。私達は最後のページを見て戦慄が走った。
「縄文仮面に呪いをかける。保阪家の人間はすべてわが手とわが子孫によって破滅の淵に追いやられるだろう。」と書かれてあった。

長い沈黙の後神谷が言った。
「兄と妹の近親婚の遺伝子はかおりさんより翔君に凝集したと言えるかも知れない。翔君は頭の良い少年だけど、由衣さん、翔君は精神科の診断を受けるべきでしょう。
また翔君と隆一郎さんの家族構成というのは 似ていますね。美しいおかあさん、その妻を顧みない夫 そのような背景もあり いうなれば隆一郎さんに翔君は洗脳されたのでしょう。オカルト的に言えば 隆一郎さんの魂にのっとられたということかな。
思い込みしやすい 思春期によくあらわれる症状です。アイドルにあこがれてアイドルが自殺すると自分も同化してしまい 後追いするという精神症状と似ています。
翔君は隆一郎さんに同化して、保阪家の皆殺しを狙ったのです。
もしここで止めなければ、由衣さんも保阪さんも狙われていたでしょう。」
台風一過の日差しが差し込むようになっていた。
事件は終わった。
「ねえ、隆一郎さんはどうしたんでしょう。」
と私は神谷に聞いた。
「おそらく死んでいるだろう。きっと矢部さんのおかあさんを
父に殺された瞬間少しのあいだ精神が正常に戻った隆一郎さんは
縄文仮面の呪いをノートに記し、出奔した。
おそらく古い坑道に行ったと思います。しかし僕が思うにそこにで硫化水素の噴出があってなくなったのでしょう。
以前、そこに多数の動物の遺体が散乱していたと聞いただろ。
ここの温泉が硫黄泉であることからもそう考えられる。
さらに 考えると縄文時代この辺の部落の民は硫化水素で 動植物が死ぬことを、縄文仮面の呪いと捕らえたのかも知れないね。」
電話が通じ、事件を話すとすぐに警察が来るという。
翔は 憑かれたようにしゃべった後、気を失って倒れた。
かおりが泣きながら 翔を抱きしめていた。

カオスが心配そうに翔の足元にいる。

[3161] イグたちの終幕 投稿者:TOMO 投稿日:2003/12/03(Wed) 02:26

翔の名を呼びながら気を失った彼を抱き締め泣きじゃくるかおりをカオスが心配そうに見守っていた。
『カオス…』
見兼ねて声をかけようとしたカレンをマトリックスがぷるぷる、と首を振ってさえぎった。
『うおっ、おっさん…!』
カレンの隣にいたエラリーが後ろに気配を感じてちょうど振り返ったところにはマトリックスの大きい顔。
『誰がおっさんじゃい、それよりも、こういう時はそっとしといてやるのが一番や』
『そうなのかもな、この状況でわいらがどうこうゆうても慰めにならへんし』

やがて、カオスがぽつりとつぶやいた。
『縄文仮面はにいちゃんだったんやろ、にいちゃんこれからどないなるんやろう』
しかし、誰もそれに答えることができなかった。ただ、
マトリックスが、
『これから警察が来てすべてが明らかになるやろう。臆病なにいちゃんの話を聞いてたら、連れてかれるような気もしなくもない。もしそうなったら、カオス、おまえは嬢ちゃんと一緒におかんについててやらなあかんで。言っちゃ悪いが、どうもおとんはおかんを支えてやるには頼りない気がしてな。おまえ男やろ、しっかりしい』
と、軽くカオスの肩をしっぽで叩いた。
『せやせや、何か困ったことがあったらわいらも力になるねん。そしたら虫の知らせメールよこし。カレンちゃんに会いがてらおかんに連れてきてもらうで』
『なんだ、やっぱりエラリー、カレンのこと好きなんだ』
いつの間にかここにイグアナ版男の友情ができていた。
それを見た神谷はぎょっとしていたが、彼らを見る目
がここに来る前より少しやさしい。
「どうです神谷先輩、イグアナ好きになりました?」
「そんなことあるもんか!」
ぷいっと顔をそむけるけど心の底から否定してるわけでもないようだ。

それからしばらくして警察が来て、検死や現場検証、事情聴取が行われた。翔は14歳未満なので補導という形を取られ、精神鑑定も受けるようだ。
その中で、おいおい翔が隆一郎に捕らわれるまでのプロセスも見えてくるだろう。
そしてカオスは、エラリーたちイグ友達に支えられてかおりや葉を支えていく道を歩くことになったのだった。
(end.)

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